イージスアショア配備計画の断念に伴って、敵基地攻撃能力の整備が再浮上している。
これまでも敵基地攻撃能力の如何については幾たびも議論されてきたが、政府は「敵基地攻撃能力保有は憲法上は許されるが、専守防衛という政策的な観点から保有しない」としていた。しかしながら、具体的に敵基地とは何を指すのか、敵基地攻撃能力とは何を指すのかがはっきりしないままに議論されてきた感がある。基地にも、戦線にある小規模移動基地、やや後方に置かれた中規模の指揮・補給品集積基地、さらに後方の恒久的な司令部・飛行場・ミサイルのサイロ・通信施設・補給廠と様々であり、それを破壊するための兵器も極めて多様である。河野防衛相は25日、外国特派員協会で「新たなミサイル防衛体制を巡り、「敵基地攻撃能力」の定義を整理した上で議論し、専守防衛を逸脱する「先制攻撃」と混同される懸念を払拭する」と述べたが、ウサマ・ビン・ラディンが米軍の戦略・戦術の中枢であるペンタゴン攻撃に使用した武器は乗っ取った民間旅客機であったことを思えば、敵の基地とそれを攻撃する兵器を定義づけることは甲論乙駁を招いて極めて困難ではないだろうか。多くの国民が漠然と考えている敵基地攻撃能力とは中距離弾道弾や巡航ミサイルであろうが、兵器は使用する・又は使用を命じる者の意志によって攻守いずれにも効果を発揮するものであり、専守防衛に限定した兵器?は防空壕や掩体壕しかない。最大の敵基地攻撃能力は単に兵器の種類を特定するものでは無く、「敵の侵攻を阻止するためには、敵の基地を攻撃することも厭わない」という断固とした意志とその表明であると思うが、兵力整備の方向性や防衛予算の制限のためには、遅まきながら「日本版敵基地攻撃能力」なるものを定義することは若干の進歩であるかも知れない。繰り返しになるが、世界の軍事常識には専守防衛兵器なる概念は存在しない。
この動きに対して早速に朝日新聞は「日本が攻撃能力を持つことになれば、中国など近隣諸国の反発が高まるのは必至だ」と分析・牽制している。この姿勢は朝日新聞に限らず、公明党、野党、有識者の論調に共通するものであろうが、中国海警局(中国人民軍の部局に改編)の公船が74日間も尖閣水域に留まって複数回の領海侵犯を繰り返し、奄美大島北東の接続水域内に中国の潜没潜水艦が跳梁している今も、中国への土下座を誘導・強要する姿勢は国益に照らして如何なものであろうか。