WTO(世界貿易観)の事務局長選びの立候補受付が8日に締め切られた。
立候補者は女性3名を含む8名で、顔ぶれはアフリカ2名、中近東3名、南米1名、韓国・英国各1名となっている。素人観であるが、立候補者の背後に中国の影を感じないのはイギリスの立候補者くらいではないだろうか。WTO事務局長は、加盟国の投票によって選出されるものと思っていたが、加盟国の協議によって次第に絞り込まれていき最後に残った者が理事会で承認される仕組みであるらしい。これまで協議には9か月程度かかっていたが、今回の選挙は任期途中の8月末に辞任するアゼベド事務局長(ブラジル)の後任を選ぶもので、猶予期間は3か月しかないことから当面事務局長不在となることは避けられないと観られている。今回の事務局長選に対して日本は、茂木敏充外相は「・・・組織の透明性と説明責任を十分に果たさせる人(が望ましい?)」、梶山弘志経産相は「選出プロセスに積極的に関与する」と述べるにとどまっているが、この発言に対して韓国は、韓国人事務局長阻止と捉えて「(韓国人の当選に)資源を総動員する」と強硬である。先進国(G7)間では中国封じ込めで概ね結束しているが、未だに日本は習近平氏の国賓招待という独自外交・米中斡旋の目論見を棄てていない。韓国人WTO事務局長が中国の代弁者となるであろうことは確実で、WTOに提訴した日本の対韓輸出管理厳格化に対して韓国有利に導こうとする思惑を隠そうともしない韓国人の事務局長実現阻止には、もっと明確な意思表示があってしかるべきではないだろうか。それ以上に日本が対立候補を出すという積極的な反対行動はとれなかったのだろうか。調べた限りでは、これまで日本人で国連機関の事務局長になったのは、松浦晃一郎氏(ユネスコ:1999-2009)、天野之弥氏(IAEA:2009-2019)、関水康司氏((国際海事機関(IMO):2012-2016)だけであるらしく、活躍が注目された国連難民高等弁務官の緒方貞子氏や国連事務総長特別代表としてカンボジア和平に尽力した明石康氏は、国連職員としての昇格若しくは起用である。日本人が目立たなくなった背景には「最近の国際機関トップは各国の閣僚経験者が多い(外務省幹部談)」ことが理由の一つとされ、職業外交官出身が多い日本の候補者が他国に見劣りするとされている。そういわれれば今回のWTOの候補者を見ても、省庁の局長レベルの経験しかない韓国人を除いて、閣僚経験者やWTOの元高官で占められている。国連機関のトップ選挙に閣僚を擁立できないのは議院内閣制の弱点であろうが、都知事候補擁立に示した情熱をもってすれば、竹中平蔵氏のような閣僚経験を持つ知識人の擁立も考えられたのではないだろうか。
政府は国際機関の職員を増やして裾野を広げようと人材育成に地道に取り組む方針としているが、人材育成には長期間が必要であり急場には間に合わない。ここは外務省が退職者の名誉受け皿としている囲い込んでいる大公使に在野・民間の知識人を登用して経験と人脈を広げた後に国連機関のトップ人事選に名乗りを上げる等の対策も考えるべきではないだろうか。