イラン民間航空連盟(CAO)が、今年1月に発生したウクライナ旅客機の撃墜は防空部隊のレーダーシステムの調整ミスによる誤射と発表した。
事件は、イラン(革命防衛隊と推測される)が今年1月8日にウクライナ航空のボーイング737型機をテヘラン空港離陸直後に撃墜して、イラン、カナダ、英国などの乗客を含む176人全員が死亡したものである。当初イランは撃墜を否定したが、CNNがミサイル着弾の映像を放映し、アメリカがイランのレーダー波が同機を追尾していた状況や、ミサイルがロシア製の地対空ミサイル「SA15」であることを民間情報としてリークする等の結果、数日後にはイランも撃墜がイラン軍のミサイル誤射によるものと認めていた。今回の発表をCAOは事故調査に関する「最終報告」ではなく「事実報告」として、誤射の原因は『防空部隊のレーダーシステムを調整するための「手順を踏む際の人的ミスにより生じた不具合」によってシステムに「誤差」が生じ、さらにこのミスが「危機の連鎖」を引き起こし、旅客機が撃墜される数分前にさらなるミスが繰り返されることになった』としている。イランは政府が指揮するイラン軍とハメネイ師が指揮する革命防衛隊軍の二つの軍事組織があり、質・量ともに革命防衛隊軍が勝っており使用されたミサイルシステムは革命防衛隊軍しか保有しないとされている。今回のCAOの報告が最終報告ではない事実報告とされているのは、精強であるべき革命防衛隊の人為的ミスとすることは最高指導者であるハメネイ師の尊厳を貶めることに繋がりかねないので、関係国の反応によっては修正できる余地を残した苦肉の結果であろうと推測している。また報告書に盛られている「誤差」も、ミサイルが適確に目標を捕捉していることから距離や確度のようなものでは無く旅客機の識別周波数を誤らせるようなものであっただろうとも推測するが、より重視したいのは後段の『誤差が「危機の連鎖」を引き起こし、数分前にさらなるミスが繰り返された』とする部分である。目標が「軍用機とされているが旅客機では?」又は「旅客機とされているが軍用機では?」とミサイルシステムの判断に不信を抱いた場合に発射指揮官は、躊躇なく与えられた防空任務を果たすために、軍用機に依る攻撃からの防御を優先して発射ボタンを押すことになると思われる。将に偶発衝突の典型であるが、思い出されるのが1983年9月1日に大韓航空のボーイング747が、ソ連の領空を侵犯したために、戦闘機によって撃墜され乗員・乗客269人全員が死亡した大韓航空機撃墜事件である。この事件では、戦闘機が目標は旅客機と視認しているにも拘らず、大韓航空機が旅客機の識別装置を作動させていないことと領空退去のための進路変更に応じないことからソ連が撃墜したものであり、軍事的には大韓航空に非があるとされた。
現在のように、高速・高機能目標に対処するために電子の目と脳で火力を制御する時代にあっては、これまで以上に偶発衝突の危険性が増し、電子の目と脳が曇った状態にミサイル発射指揮官の疑心暗疑や原理思考が加わった場合には猶更である。渋々ながらイランは誤射のミスを認めたが、火器管制レーダの照射を誤魔化そうとする隣国もある。