もうチョットで日曜画家 (元海上自衛官の独白)

技量上がらぬ故の腹いせにせず。更にヘイトに堕せずをモットーに。

安楽死と嘱託殺人

2020年07月24日 | 社会・政治問題

 安楽死を希望する筋萎縮症の女性に薬物を投与した2名の医師が、嘱託殺人容疑で逮捕された。

 2名の医師は、かねてから安楽死肯定を主張し、それに沿った著作があるものの、主治医でもなく更には100万円の謝礼を受け取ったともされていることから、医学倫理に基づく行為ではない闇ビジネスの可能性もうわさされている。これまで、自殺願望者に手助けをするという自殺ほう助に手を染める者は少なからず存在していたが、2017(平成29)年に起きた座間9遺体事件のように、闇ビジネが疑われるものが殆どであった。しかしながら、2018年に元東大教授で高名な評論家の西部邁氏が入水自殺したケースでは、以前から公言していた「自裁死」の意思に共鳴した「10年近く出演していた番組の編集担当者」と「西部氏の私塾の塾頭」の2名が無償で手助けした事例のように、世間が容認するか否かは別にして、本人が考察の結果たどり着いた死生観と健常かつ明確な自殺の意志に対して、献身的なほう助者が出るのは避けられないのではないだろうか。この事件を機に超高齢者社会の日本でも安楽死問題が再燃したが、立法が議論されることもないままに再び消滅してしまった感がある。安楽死に対する世界の現状を調べると、笹川記念保健協力財団の資料では①積極的安楽死のみ容認されている国: カナダ(ケベック州)、コロンビア、②医師等自殺幇助のみ容認されている国:アメリカ(オレゴン州、カリフォルニア州、コロラド州、コロンビア特別区、モンタナ州、ワシントン州、バーモント州、スイス、③両方が容認されている国: オランダ、ベルギー、ルクセンブルク、カナダ、豪(ビクトリア州)となっていた。世界に先駆けて2014年に安楽死を容認したオランダでは、1971年に脳溢血で倒れた母親の懇請を容れた医師である娘がモルヒネを過剰投与した「ポストマ医師安楽死事件(懲役1週間、執行猶予1年)」が口火となり、1981年には王立オランダ医師会が終末患者の治療中止を容認・勅令により「オランダ国家安楽死委員会」が設置された。以後、40年以上の論議と幾多の変遷を経て2014年に立法したものであるが、今もって安楽死を扶助する営利・非営利の団体を「自殺志願者に媚びへつらう組織」とする意見も根強いようである。また終末患者への治療中止については多くの国で認められている。日本では安楽死はもとより終末患者の治療中止すら法的に認められていないが、回復の可能性が無い患者の生命維持装置を切ることは半ば公然と行われていると思う。

 自殺を神の教えに背く行為とするキリスト教国で、神の教えに反するであろう安楽死が容認された宗教的背景は良く分らないが、生命倫理に関する何等かの啓示が聖書に隠されていたのだろうと推測する。安楽死を容認した各国でも、立法以前には嘱託殺人は憲法や刑法で禁じられていたものと思うが、唯一神の不変の預言である聖書の前には変化を当然とする六法の変更は当然のことであろうが、現行憲法の他には絶対の価値基準を持たない日本では、安楽死を討論することさえ不可能で、もし、安楽死を議論するならば憲法改正をも論じる必要があることから、野党は絶対に応じようとはしないだろう。個人の尊厳よりも憲法を貴ぶ国は、独裁国家以外には見当たらないように思うのだが。