私は朝が比較的早い方だと思う。
深夜1時、2時まで起きて、物書きをしたり、ちょっとした勉強や読み物をしている割には、たとえ休日でも遅くとも6時起きは 早起きっていえるんじゃないかって思うわけ。
そんな私に、3ヵ月前からウォーキング仲間が数人出来た。
毎朝、決まった時刻に公園をゆっくり歩いている。
新緑の初夏、雨が多い梅雨の時期。そして太陽が照りつける前の真夏の朝。
3つの季節を減量が必要な彼らと一緒に歩いてきた。
減量が必要だということは、本人も家族も認識しているし、万歩計をセットし、頑張って歩こうという意識もあるよう。
それでも、人間って弱いもの。私もだけど、つい、楽な方へ流れていっちゃいそうになることも・・・ある・・・のよ・・・・ね?
まだかなぁ・・・と彼が来るのを待っていると、やっと来た。さっ! 出かけよう。
ん? 何なに? 他のウォーキング仲間の話に耳を傾けている間に、逃亡? 途中で歩かずに逃げ出すこともあったっけ。
「今日は雨が降るよ。ウォーキングは中止よ。ほら、雲が出てきた! 空が真っ暗になってきた! 雨が降るよ~」
「え~っとね。大丈夫。天気予報は晴れだったから。雲? あれは雨雲じゃないから気にしない。それより、ボーリングが好きだって言っていたよね」
彼はうんうん、と頷きながら、ガターが一度も無かったと嬉しそうに話し出す。
翌日も、歩き始めは同じ。「今日も雨が降るよ~ウォーキングは中止よ~」という会話で歩き始める。
「カラオケが好きって聞いたけれど、どんな曲を歌うの?」
「演歌! ソーラン節!」
彼は私に歌ってみせる。なかなか上手で思わず拍手! でも、演歌って渋いのねぇ。誰かさんを思い出すわ。北島三郎は歌わないの? え? 新沼賢治? そうなんだぁ。他には何だって?
私の問いかけに、しばらくは天気の話は忘れてくれたようで、ノリノリで喋り始める。良かった・・・・。天気の話題から話は逸れたわ。
「野球の歌を歌うよ」
という彼に、私はピンときた。思わず歩きながら、目が光る? 野球の歌とは、きっと応援歌の・・・
私の思考を途中で遮り、彼が言う。
「六甲おろしよォ~!」
「はっ!?それって、阪神じゃん! なんでよ! ホークスの若鷹軍団じゃないのォ~!?」
このときばかりは、我を忘れる私。君ねぇ。福岡に住んでいながら、何故、阪神? と問う私に、彼は言う。
「お父さんが阪神ファンで、六甲おろしをよく歌う」
なっ・・・なるほど・・・ね。若鷹軍団だと思ったら・・・六甲おろしという答えに、ずっこけそうになったわ。二人でキャハハと大笑いするうちに、目標の2周を達成!
今日もお疲れ様。 明日も頑張って・・・いや、楽しくお喋りしようね。気が付けば、笑って喋っているうちに、肺活量もアップして、2周してましたぁ~っていうのが理想よね。辛くないでしょ? 私に出来る事って、このくらい。独りで減量ウォーキングは辛いかもしれないけれど、仲間がいれば大丈夫。歩ける、歩ける!
そして迎えた月に一度の健康チェックの日。
ウォーキング効果か? お喋り効果かしらん? 減量に成功! やった! 嬉しい報告に私もほっとする。何よりも嬉しいことは、あれだけ嫌がっていたウォーキングも今では全く辛くは無いどころか、はりきって歩いているということ。
一周が終わると、必ず、「トイレ!」だとか、「お茶を飲むよ」といいながら、帰ってしまいそうになったり、毎回、天気予報を気にして雨を願っていた彼が・・・。
「あと、もう一周、行きましょう~!」
と、自主的に歩いていることだ。 うきうき、ランラン、ウォーキング。こんな私も少しは彼のお役に立てた?
そして先週の木曜日。いつものようにドラマ、隣の芝生の感想を聞きながら、一緒に歩いていたとき、お嫁さんの話題になった。あのお嫁さん、いい人ね~って。
そのとき、彼が言った。私が首から下げているネームカードをさして、
「これ、いいな」
「あげましょうか?」
と、冗談を言う。先日も、これを首から下げて、作業を見て回る先生になりたい、と言っていたから。
「ちゃうちゃう! 結婚しようよ」
これ、いいな・・・は、私のこと? 思わず吹き出す。いつものように、「ありがとうございます」 でも、私の名前、知らないの? と聞いてみる。
「すず、よ!」 という答え。下の名前を呼ばれると、ちょっとドキっ! では、苗字は? と聞きなおすと、再び じ~~っとネームカードを見た後、苗字をさして言った。
「男かな?」
おっ・・・・おとこ?
「いいえ、私は女です」 言いながらも分かっているので、笑ってしまう。(意味が分からない方、ごめんねぇ)
再び、「結婚しようよ」 と直球のプロポーズ。
「でも、Aさんには結婚したい人がたくさんいますからねぇ」
素直で感情がストレートな彼。
「ぜ~んぶやめて、これにするよ!」
と、再び私の名札を見ていう。
これに・・・するんですかぁ。これ、に。
一緒に歩いていた利用者さんも笑い出した。
「1万円で結婚指輪を買うよ。バーパスの温泉へ二人で行こうよ」
バーパスって何? と思ったが、それよりも1万円で結婚指輪を買う、という台詞に、
「1万円で結婚指輪は買えんやろー」
と、他の利用者さんも苦笑い。
「ねえ、結婚しようよ~~~!」
と、いつもにも増して熱烈プロポーズに、一家を支えるお給金が頂けるような自分にならなければ・・・と遠い道のりだが、考えた。
その後の作業時間。。。
Aさんではなく、今度は 「1万円で結婚指輪は買えんやろー」と笑っていた利用者さんが、私に質問した。
「男が結婚するときに、一番必要な物って何だと思いますか?」
今は就職に向けて毎日の作業に取り組んでいる最中。そうね。確かにお金も仕事も必要かもしれないけれど・・・と前置きをしてから自分の考えを言ってみた。
「男も女も関係なく・・・・相手を思いやる心。優しさ・・・かな?」
「優しい人? じゃあ、男らしい力は? やっぱり、カラテとか習っていると、カッコいいって女の人は思う?」
「力があっても暴力を振るうようじゃ困るしね。優しい人がいいな」
病気をしたとき、辛い時、逃げ出さずに支えてくれる優しさが本当の人間的強さ・・・だと思う。
「そっか。力があってもね・・・やっぱり優しい人がいいよね」
週末のプロポーズ。
それぞれに、結婚観を見直す きっかけとなったようです。
今はいつ、失業しても、病気になっても 不慮の事故で健常者から障害者になってもおかしくない時代。家庭の中で誰もが一家を支えるべき存在。男も女も関係なく。
身内も他人も関係ない。自分に出来る事を出来る範囲で始めてみよう。
私と一緒に楽しんでウォーキングしてくれるようになった彼から私が頂いたものこそ、大きい。彼が減量した分、私は 「ちょっとはお役に立てた」という自信と喜びを頂いた。
幸せのおすそ分け。 人間関係の基本。きっと 結婚も同じね。
みんな、みんな・・・ありがとう。
すずは、明日からも頑張ります!