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納戸の奥に眠っている箱を久しぶりに出してみると…
買い集めていた45年前の週刊ベースボールを読み返しています

# 872 未来のヒーロー ②

2024年11月27日 | 1977 年 



ジュニアオールスターで見せた意地と力
今春キャンプで最大の新星と騒がれた酒井投手(ヤクルト)に対して本人も球団も " 酒井以上 " とぶち上げたのが久保康生投手。早いもので久保投手が近鉄のユニフォームに袖を通して7ヶ月。筑豊の小さな炭鉱町が生んだ逸材はプロの世界にも慣れてすっかり逞しくなった。入団時は78kgだった体重は厳しい練習により3kg減って引き締まり、逆に胸囲と腰回りは大きくなった。「高校時代よりちょっとスマートになったけどこれはプロの練習の賜物。自分で言うのも何ですが馬力はついた感じです」と久保投手は日焼けした精悍な顔で笑う。高卒ルーキーながら二軍投手陣の三本柱の一員としての存在感はなかなかのモノ。

二軍での成績はここまで2勝1敗。やや物足りない気もするが「きっちりローテーションを決めていて雨で中止になった試合が巡り合わせで多かったから登板機会が少なかった」と中西二軍投手コーチは言う。翌日にスライド登板させないあたりも将来のエース候補への配慮だ。久保投手が大物の片鱗を覗かせたのは7月24日のジュニアオールスター戦(西宮)だった。この晴れの舞台で久保投手は宿命のライバル酒井投手と顔を合わせた。近鉄との入団交渉では「実力は僕の方が上です」と言い張り、" 酒井並み " の契約金(3000万円)を要求して中島スカウト部長を手こずらせた経緯があるほど酒井投手へのライバル意識が強い。

プロ入りしてからもその気持ちは変わらないどころか増幅している。ジュニアオールスター戦で酒井投手が1イニングをぴしゃりと抑えた後の7回表に負けん気を剥き出しにしてマウンドに上がった。酒井投手より多い2イニングを投げ打者6人を1安打に抑えた。マウンドを降りた久保投手は「酒井君はあまり迫力が無かったですね、疲れがあるんでしょうか。一軍入りは後れをとったけど、(酒井投手は)実力で一軍入りしたとは思っていない。本当の勝負はこれからです」と顔を上気させて語気を強めた。


「2年目が勝負」と本人
手塩にかけて育てている中西二軍投手コーチの久保投手評は「カーブのコントロールの良さは相変わらず。高目に抜けていたストレートも下半身が鍛えられて修正出来てきた。頭のいい投手で呑み込みが早く調子が悪くても試合になればそれなりの投球が出来て新人ではレベルが高い。ブルペンでの良さをマウンドで発揮できない先輩の仲根投手とは好対照だ」と現段階では合格のようだ。今すぐにでも一軍に昇格させようと思えば可能な実力ではあるが、「中途半端な形で一軍に上げても本人の為に良くない」という西本監督の意向もあり今年は二軍でじっくり鍛えるのが球団の方針だ。

客寄せの為に人気先行で一軍に上げたものの失敗に終わった酒井投手の先例があるだけに「全て現場に任せてます。新人王を狙える器だと思うので、慌てず実力を充分につけてからでも遅くない」と山崎球団社長もじっくり腰を据えて構えている。西本監督や球団の思惑を知ってか知らずか当の本人も「まだまだ一軍で通用するとは思っていません。来年のキャンプまでは地道に体を鍛えて2年目が勝負です」とキッパリ。視線は来シーズンに向けられている。そういえば昨年暮れの入団会見でも同じことを言っていた。久保投手の志はその時から微塵も揺れ動いてはいない。実に楽しみなルーキーである。

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