はなこのアンテナ@無知の知

たびたび映画、ときどき美術館、たまに旅行の私的記録

ひとごとではない『それでもボクはやってない』

2007年01月22日 | 映画(2007-08年公開)
改めて、タイトルに挙げた作品について。

昨夜『スタメン』というテレビ番組に、
本作を手掛けた周防正行監督が出演されていました。
周防監督に関しては、前作『Shall we ダンス?』や
『シコふんじゃった』『ファンシィダンス』など、
結構コミカルで後味爽やかな作風が印象に残っていたのですが、
今回はまさしく「即物的に」(映画評論家・村山匡一郎氏評)、
ひとりの無辜の人物が犯罪の加害者として
司法の場でどう扱われているのかを、
丹念な体験者からの聞き取りを元に再現して見せていました。

監督曰く、たまたま冤罪事件の報道を目にして、
本作を作ろうと思い立ったのだそうです。
昨夜の『スタメン』でも、
強姦事件の被告として3年服役した人が、
後に真犯人逮捕で、実は無罪だったことが判明したという
北陸地方のケースを紹介していました。
警察は謝罪会見を開いていましたが、
冤罪の被害者となった男性は出所後行方知れずで、
いまだに男性に対して謝罪するに至っていないのだとか。
今、その男性がどんな人生を歩まれているのか、
想像するだけで気の毒です。

日本では刑事事件に起訴された段階で
99%は有罪判決が出るのが実態だそうで、
どうも司法は「疑わしきは罰する」という姿勢なのでは?
と番組内でもコメントされていました。
因みに諸外国の有罪率は80%程度で、
90%を超えた時点で異常な数値と言わざるを得ないらしい。
日本では刑事事件で起訴された時点で、
ほぼ確実に犯罪者の烙印を押されるようなものです。

それを覆すには膨大な時間とお金と労力を必要とし、
冤罪被害者とその家族にとってはまさに神経戦の様相を呈し、
たとえ必死に戦い抜いたとしても必ず覆されるという保障はなく、
また覆ったとしても押された烙印を払拭し、
烙印が押される前の状態、生活に戻ることは至難の業なのです。

本作では、警察の取り調べのずさんさや検事の吟味の甘さ、
裁判官の「無罪判決」忌避傾向をかなり辛辣に描いていたので、
その方面へのインタビューは難しかったようです
(今回の作品で、警察や司法を敵に回してしまったかも…)。
一方的な言い分だけで映画を作ったと反論も出そうですが、
しかし、互いに面識のないはずの多くの拘留経験者の話には、
共通点が多かったと言いますから、映画で描かれたことは
案外実情に近いことなのかもしれません。

誰の身にも降りかかる恐れがあるという点で、
本作で描かれた状況はやはり看過できない多くの問題を
含んでいるような気がします。

けっして世の中心に位置するものではないけど、
少なからぬ人々を熱中させている「相撲」や「社交ダンス」
のような分野に着目した周防監督の慧眼は、本作においては、
「重大ながら見過されがちな問題にスポットライトを当てる」
ことに生かされたと言えるでしょうか?
線の細い外見とは裏腹に、気骨のある人なのかもしれません。
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