はなこのアンテナ@無知の知

たびたび映画、ときどき美術館、たまに旅行の私的記録

(2)ダーウィンの悪夢(2004年、仏、オーストリア、ベルギー合作)

2007年01月19日 | 映画(2007-08年公開)


以前、当ブログで”外来種による既存の生態系の破壊” 
に関連して取り上げたことのあるドキュメンタリー映画である。
この種の、世の不正・不条理(特に「南北問題」)を告発する
ドキュメンタリー映像を目にするたびに、
極東アジアの小国ながら、先進国かつ経済大国として
位置づけられる”日本”に生まれ育った自分が、
”搾取する側”にいることを、否応なく意識せざるを得ない。
見終わった後に、どこか後ろめたい罪悪感のようなものが、
心の澱となって残る重苦しさはどうしても否めない。
本作でも、同様の後味の悪さは残る。
かつて短い期間ではあったが、国際協力事業の末端にいて、
世界の50カ国余りの開発途上国の人々と関わりを持ち、
さらにそこから離れた後も、彼らのこと、彼らの国のことを
忘れまじと、国際援助団体フォスター・プランに参加し、
10年間、アフリカのケニアとアジアのスリランカの
子供のフォスター・ペアレントとして幾ばくかの援助を
して来たことが、単なる自己満足や欺瞞や偽善に思えて、
胸が苦しくなった。そうやって自分は
「”いい人”ぶっているだけなのかもしれない」
「罪悪感から逃れたいだけなのかもしれない」
国家単位で考えても、同じことなのではないだろうか?
【お断り】
誤解を招く恐れがあるのでここで一言書き添えますが、
ここでの発言はフォスタープランの活動を否定するものでは
けっしてありません。
本作を見て、その圧倒的な悲惨さの前に衝撃を受けて、
自分の行為にどれだけの意味があったのか、
自問せざるを得なかったのです。
もちろん何もしないより、微力でも何かをした方が良いのです。
同じ人間として一番の罪深いのは、この地球上のどこかで、
どれだけ悲惨なことが起きているのか知らないこと、
知ろうと努力しないことだと思います。無関心は罪です。
恵まれた境遇にある先進国の人間は、
「誰を踏み台にしてその豊かさを享受しているのか」を
知るべきなのだと思います。


最近巷間を賑わせている洋菓子メーカー「不二家」の問題。
一部工場における原材料の消費期限を無視しての使用、
製造商品のズサンな管理体制など、
その呆れた実態が次から次へと明るみに出ている。
発端の消費期限切れ原材料使用問題は、
あくまでも問題の端緒でしかなく、
問われているのは、消費者不在の金儲け主義という
「不二家」の企業体質そのものなのだろう。
社員が外部へ内部情報をリークせざるを得ないほどの病巣が、
会社を蝕んでいたということなのだろうか?
しかし、こうした「食の安全」という先進国では一大事な事柄が、
アフリカの各地で起きている、より醜悪で悲惨な状況の前では、
色褪せて見えてしまう。右往左往する様は滑稽ですらある。

本作で、EUや日本向けに輸出された白身魚の残骸を干す
作業をしている痩せこけた女性の足下をよく見てみたらいい。
無数のウジ虫がウジャウジャと、その指の間を這っている。
加工後の(ウジの湧いた)白身魚の残骸は捨てられるのではなく、
アフリカの貧しい人々の胃袋に納まるのだ。

人は、自分の身に思いがけず災難や不幸が降りかかった時、
自分が”世界一不幸な人間”だと思いがちだ。
”自分だけが不幸”で、周りの人間の幸福そうな姿が
うらめしく思えたりするものかもしれない。
しかし、実際には”不幸”は巷に幾らでも溢れかえっている。
悲惨な状況は、世界を見渡せば
私達の想像を絶するものが幾らでも存在する。
そこには、涙も枯れ果て悲しむことすらできない、
希望を持つことすらできない無数の人々がいる。
そして負の連鎖はさまざまな形で世界に蔓延している。


本作は2005年に山形国際ドキュメンタリー映画祭で上映され、
その際には映画祭側が用意した字幕での上映だったそうだが、
配給会社は一般公開にあたって改めて字幕を作り直したらしい。
それは本作で言及した問題が遠いアフリカの出来事ではなく、
日本人とも深い関わりがあることを実感できるようにとの
配慮からだと言う。
果たしてどれだけの人々が、映画館に足を運び、お金を払って、
この映画を見てくれるのだろうか?
作り手や映画に登場した人々の真摯な思いは、
できるだけ多くの日本人に届いて欲しいのだが…

【世界の過酷な現実を見せてくれる最近の映画たち】
(★のついた作品は当ブログにレビューあり。検索可能)
『ホテル・ルワンダ』(ドン・チードル主演)
『すべては愛のために(Beyond Borders)』(A・ジョリー主演)
『ザ・インタープリター』(ニコール・キッドマン主演)
★『イノセント・ボイス~12歳の戦場』(カルロス・バディジャ他)
★『ロード・オブ・ウォー』(ニコラス・ケイジ主演)
★『ナイロビの蜂』(レイフ・ファインズ主演)
★『シティ・オブ・ゴッド』
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