はなこのアンテナ@無知の知

たびたび映画、ときどき美術館、たまに旅行の私的記録

『夜の蝶』

2006年12月05日 | 発掘名画館


WOWOWで放映されたのを見た。1957年公開の大映作品。
「女性映画の大家」と称された吉村公三郎監督の演出で、
公開当時は大映2大看板女優、京マチ子と山本富士子の共演が
話題となったようだ。


なんせ今から約50年前の作品である。
二大女優の競演や内幕物語の面白さもさることながら、
当時の風俗を知る上で格好の映像資料だと思った。
戦後から僅か12年しか経っていない銀座の夜の街、
今の瀟洒な街並みからすれば貧相かもしれないが、
当時、他の地域がどうであったかを想像するまでもなく、
時代の先端を行く街の姿が活写されていたと言える。

建築ラッシュに沸いていたのか建設作業員が何度となく登場し
騒音にホステスが不快感を露わにするシーンもあった。
関東と関西のデパートの新規出店を巡る葛藤のエピソード、
富の象徴とも言える自動車や洒落た洋風アパートの室内、
当時としてはまだ珍しかったはずの飛行機による関東と
関西の往復など(新幹線はまだ開通していなかった!)、
リアルタイムに本作を見た全国津々浦々の観客は、
その華やかさに目を見張ったはずだ。
もちろん銀座で働く女達のファンションも興味深い。
そうした風俗描写や、夜の街で繰り広げられる女達の、
激しいバトルに目が釘付けになった。

銀座で君臨するバー”フランソワ”のママ、マリに京マチコ。
快活で、洋装が似合ういかにも肉感的な体つき。
銀座一の彼女の店には政財界人や作家など著名人が集う。
その彼女と過去に浅からぬ因縁を持つ芸妓上がりのおきくが、
京都から銀座へと進出すべく上京して来る。
根回し良く銀座の各店に顔を出し、土産を配るおきく。
彼女の噂で銀座は持ちきりになるが、なかなか画面に登場しない。
この辺り、演出が上手い。弥が上にもその登場に期待が高まる。
いよいよおきくの登場。洋風のマリとは対照的な和装のおきく。
抜けるような白肌、はんなりとした物腰と京都弁に色香がある。
この二人を中心に、まさに男と金と銀座ナンバー1の地位を
巡ってバトルが展開するのだ。本筋はメロドラマそのもの。

私の年齢(40代前半)のせいもあるかもしれないが、
子供時代に映画やドラマで見たベテラン俳優達の
若き日の姿を見るのも楽しい。
船越英二、川崎敬三、山村聡、芥川比呂志、小沢栄太郎。
既に鬼籍に入られた方もおり、懐かしさもひとしお。
存命の方も80歳を超えていて、
もはや画面で演技する姿を見る機会はない。
女優陣は残念ながら私が知っているのは主演の二人のみ。
山本富士子はいまだ現役で舞台で活躍していると思うが、
京マチ子はスクリーンから遠ざかって久しい。
京マチ子に関しては思いがけず海外で溝口健二監督の
『雨月物語』の彼女を見る機会があった。
幽玄な世界で妖艶な魅力を放つ彼女のようなタイプの女優は
今の時代にいるだろうか?得難いタイプの女優だと思った。

因みに現在ではホステスを意味する「夜の蝶」という呼称は
この映画が語源だそうだ。公開当時にいかにインパクトのある
作品だったかがこのことからも窺える。

映画好きの方には機会あれば是非見ていただきたい1本だ。
WOWOWの日曜の朝は、本作のような昔の日本映画が放映
されている。これが意外に掘り出し物的面白さに満ちており、
休日の楽しみになっている。

【参考リンク】

『夜の蝶』データ(Walkerplus キネマ旬報DBより)

『夜の蝶』データ&レビュー(allcinema onlineより)

『夜の蝶』でも生かされた特撮技術(電脳小僧の特撮映画資料室より)

出演者の一人、船越英二氏の経営する
旅館のサイトに写真が1枚あったので参考までに。
旅荘船越HP懐かしのギャラリー
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