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ヒートウェーブ 昼寝の夢悪

2023-07-22 01:10:45 | 社会

このところひどい暑さだった。日本だけではなく、北米やヨーロッパも猛暑に襲われた。この暑さとは関係ないのだろうが、朝鮮半島では在韓米軍の兵士が板門店で南北境界線を越えて北朝鮮に入った。韓国勤務の間に暴力事件を起こし、米本国に送還されて処分を受けることになっていた。送還の日に空港から逃走し、外国人観光客を対象にした板門店見学ツアーに入って、板門店に行ったという。現役の米軍兵士が北朝鮮に逃げ込んだのは、1965年にチャールズ・ジェンキンス氏が境界線を越えて以来の事だった。日本国内では袴田事件の再審にあたって、検察が有罪の立証に本格的に取り組む姿勢を示した。殺人事件発生から半世紀以上たってなお、検察が示した証拠に疑わしいところがあると裁判所が判断した事件を、再び同じ証拠を掲げて一から争うという姿勢は、面子を保とうとしているのではないか、とメディアに言われている。検察は国家を代表して公訴するのであるから、国家権力の無謬性が重要な課題になる。「第三者が味噌樽に入れた可能性が否定できない」(東京高裁)とまで言われると、検察もむきになってしまう。法廷闘争において有罪の証拠を裁判官に納得してもらえなかった――だから裁判で負けたのだという認識が検察にはないのである。

猛暑のさなか街頭を行く人の様子をテレビで見ると、まだマスクをかけている人が目につく。日本人は世界で有名なマスク好きであるが、それにしても息苦しいだろうな。コロナ流行で、マスク不足に対処するため大枚をはたいていわゆるアベノマスクをつくらせて国民に配った日本政府だったが、米国やアジア、ヨーロッパのくつかの国のように、マスク着用を義務化しマスクを着けない人に罰金を科すなど手法は取らなかった。OECD加盟国の中で死刑制度を残しているのは日本、韓国、米国の3か国だけである。韓国は死刑の制度を残しているが、20年以上前から死刑を執行していない。米国では死刑を廃止した州と執行を停止している州が半数を占める。EUは憲章で死刑制度を否定している。死刑制度を持つ国家はEUに加盟できない。死刑国家日本がCovid-19ではマスク非着用者に罰金ではなく説得で着用を進める道を選んだのは興味深いことであった。

米国では、ニューヨークの地下鉄でマスクを着用しようとしない乗客に罰金を科した。すると、ニューヨーク州最高裁判所がその罰金はニューヨーク州法の考え方に反すると決定した。連邦レベルでは米国土安全保障省が鉄道や航空機でマスクの着用を拒否する乗客に罰金を科すことにした。シンガポールでは地下鉄の乗客でマスク着用を拒否した外国人が逮捕された。シンガポールはfine cityである。Fineには美しいという意味と、罰金という意味がある。街中でごみを捨てると罰金、トイレ使用後に水を流さないと罰金、地下鉄で飲食・ガムをかむと罰金、地下鉄にドリアンを持ち込むと罰金など、市民の日常生活のルール違反が罰金の対象になっている。このような罰金を使って市民の生活を管理する手法に対する批判に対しては、当時のリー・クアンユー首相が、それをやらなかったら今日のシンガポールはなかった、と言った。

リー・クアンユー氏は実利志向のアイディアの人で、シンガポール国民に選挙で重複投票権を与える制度が必要だと語ったことがある。35歳から60歳までの仕事と家庭の両方に責任を負っている人達には2票の投票権を与えてはどうだろうかというアイディアだった。一票はその有権者のための票、あと一票は育てている子どものための票。重複投票制はJ.S.ミルも主張したことがあるが、リー・クアンユー氏の重複投票権はアイディア倒れに終わった。一部の特定年齢層にだけに追加の投票権を与えるのは差別になるからだ。日本で国民に選挙権が与えられたのは明治になってから。当時は高額納税者だけに選挙権が与えられた。そののちすべての成人男性に選挙権が与えられるようになった。女性が選挙権を持ったのは日本が米国に敗戦した1945年からであった。日本は誰かが叫んだように美しいみずほの国ではなく、政治途上国に過ぎなかった。

今でも、日本は政治途上国なのだ。日本は国政レベルで重複投票権と重複立候補権を制度として持っている。奇妙なことに衆議院選挙では同一人物が小選挙区選挙と比例代表区選挙に立候補できる。この制度だと選挙区選挙で落選しても比例代表区選挙で復活できる。敗者復活戦のようなことを議員たちは享受している。参議院選挙では同一人物が選挙区選挙と比例代表区選挙に立候補することはできない。なぜ? この制度にはどんな利点があるのか、本を読んでもよくわからない。利点があったのなら、自民党政権下で日本の政治・経済・社会の国際ランキングがこれほどひどく下がってしまうことはなかっただろう。

(2023.7.22 花崎泰雄)

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