アメリカ合衆国のトランプ大統領が2月末日、米議会上下両院の合同会議で演説した。日本の新聞が伝えるところでは、国防予算の増額やオバマケアの撤廃、法人税減額などの税制改革とともに、メキシコ国境での壁建設開始を強調した。
トランプ大統領は打ち上げ花火のように思いつきの政策目標を次々に打ちだして人気を煽り、大衆からの喝采に酔いしれる自己陶酔型の人物と、大統領とその側近が敵視する米国の主流派メディアは酷評する。
日本のテレビやアメリカのCNN、イギリスのBBCが流す映像では、トランプ大統領はいつでも自ら拍手して聴衆の拍手を煽っている。ペンス副大統領もポール・ライアン下院議長もトランプ大統領と一緒に立っているときは、大統領に拍手をおくっている。メキシコと米国の国境に壁を張り巡らし、その建設費用をメキシコに払わせるというアイディアに、副大統領も下院議長も拍手喝采してきたのだろうか。
それはさておき、国境の壁の建設費をどうやって捻出するか、具体的な方法論なるといまだに状況は混沌としている。
国境の壁の建設はフランクリン・ルーズベルトのニューディール政策・テネシー川流域開発ほどには雇用促進の効果は出ないだろうが、それでも1兆円を超える費用がかかるそうだ。
この金額をメキシコ政府あての請求書に書き込んだところで、メキシコがこれを支払うことは100パーセントない。日本の安倍政権の対米インフラ投資やソフトバンクの雇用協力資本を回すこともできない相談だろうから、結局、米国自身が払うしかない。
トランプ大統領はメキシコからの輸入品に税金をかけると言った。
日本の関税法では、関税を納める義務がある者は、通常、貨物を輸入する者と規定している。つまり荷物の受取人が関税を払うのである。
この制度は米国でも同じとみえて、メキシコからの輸入品に課された税金を払うのはアメリカの輸入業者である。アメリカの業者はこの税額を商品の価格に反映させるので、最終的にはアメリカの国民の財布からの支出となる。連邦政府が予算から支出しないというだけのことである。
このような手品はすぐバレてしまうえ、メキシコ製品への関税についてはWTOの協定違反になる可能性が大きい。
そこで、「国境税調整」という共和党のアイディアに乗って税制改革で建設費を捻出する策に、トランプ大統領が乗り気だと報道されている。
国境税調整というのは、一口で言えば、米国内に生産拠点を置く企業の輸出には税制上の優遇措置を与え、米国外に生産拠点がある商品の米国内販売には税制上きびしく対応する方式の法人税の扱いである。
これもまた、新手の輸出補助金の疑いで、WTOの場で問題になる可能性が大きいそうだ。
だが、アメリカ・ファーストの「一国資本主義」を声高に叫ぶトランプ政権は、WTOの決定がアメリカの主権を侵害する場合はその決定に従わない方針である。、最新のニュースがそう伝えた。
米国がWTOの決定を無視すれば、あらゆる国が自国に不利なWTOの決定を無視するようになり、WTOがTPPと同じ運命をたどることになる。
(2017.3.3 花崎泰雄)
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