●今日の一枚 132●
Junior Mance Ballads 2006
ジュニア・マンスの2005年録音盤(発表は2006年)、『恋に落ちた時』。ジュニア・マンスはこの作品について、「『ジュニア』と並ぶ出来になった」といって喜んだそうだが、そのことはふたつのことを示している。一つは、この作品が素晴らしい出来であるということ。もうひとつはジュニア・マンスというピアニストがデビュー作にして名作といわれる『ジュニア』という作品をずっと引きずって来たのだということだ。若い時分に素晴らしい作品を創造するという鮮烈な経験をすると、我々はしばしばそれを引きずって以後の人生を送ることがある。『ジュニア』という作品は、彼にとってそれほどまでに重要なものなのだろう。ジュニアは78歳になって自分自身を超え、あるいは更新したということなのだろうか。
ところで『恋に落ちた時』だが、私は好きだ。CD帯にあるように「ジュニア・マンスの新たなる代表作」かどうかはわからないが、とにかく美しい作品だ。彼特有のブルースフィーリング溢れる雰囲気やスムーズなメロディーラインももちろんすばらしいが、この作品に関しては音の響き、和音のニュアンスが何ともいえずいい。Swing journar誌2006-6号で藤本史昭さんは「老境の芸術とはかくあるべしという見本」と記したが、そのやや大げさな表現も首肯できるほどにいい作品だと思う。新しい作品だけあって、録音もいい。