●今日の一枚 135●
The Beach Boys Sunflower
今日の午後は久々のオフ。春近しということで、ホームセンターで買った草花を庭に植える作業をしたが、夕方から冷えてきたので、家に入りいくつかのCDを聴きつつ、書物を読んだ。
ビーチポーイズの1970年作品『サンフラワー』。麻薬漬けのブライアン・ウイルソンが、最後の力を振り絞ってつくりあげた作品といってもいいかもしれない。イギリスでは「ビーチボーイズにとっての『サージェント・ペパーズ』」と絶賛されたアルバムである。
ブライアン・ウイルソンの才能はやはりすごい。精神的錯乱とドラックによってフラフラの状態ですら、② This Whole Worldや③ Add Some Music To Your Day のような素敵な曲を創造できるのだから……。
それにしても、不思議なアルバムである。前半は明るく溌剌としたポップなビーチボーイズがいる。ちょっとファンキーなテイストのナンバーすらある。ところが、後半にいくにしたがってどこか切ない雰囲気が漂い、胸がしめつけられる。そして、それらは聴けば聴くほど輝きを増してくるのだ。考えてみれば、『ペットサウンズ』以降の彼らのサウンドにはいつも切なさがあった。いや、もっと以前のカリフォルニアの青い空と太陽とサーフィンとクルマと女の子を歌った脳天気な曲たちの中にすらその切なさはあったのだ。思いおこせば、ビーチボーイズのサウンドの核心部分にはいつだって切なさがあったのではなかろうか。
そして最も奇異なのは、幻のアルバム『スマイル』に収録されるはずだったといわれる⑫ Cool,Cool, Waterで終わるというところだ。素晴らしい曲ではあるが、それまでのアルバムの流れから考えて、どう考えても場違いな曲だ。サイケデリック・ポップとでもいうべきだろうか。いかにも深遠で意味のありげな、ドラックで錯乱した精神にしか見えないような「歪んだ世界」である。危険な曲である。しかし結局のところ、このCool,Cool, Waterこそが、このアルバムを尋常でない作品に昇華しているように思えてならない。アルバムを聴き終えた後、どこか見知らぬ土地の歪んだ風景の中に、行き先も教えられずにたったひとり取り残されたような気持ちになるのだ。
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