WATERCOLORS ~非哲学的断章~

ジャズ・ロック・時評・追憶

ブルースがいっぱい

2010年04月01日 | 今日の一枚(I-J)

●今日の一枚 245●

Johnny Hodges

Blues-a-Plenty

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 すこし前に、原武史『昭和天皇』(岩波新書)という本を読んだのだが、中々面白い本でしばらくぶりに知的な興奮をおぼえた。以来、ここ数週間、日本近代の天皇や皇室の問題を違った角度からもう一度整理しなおしてみたいという欲望にとりつかれ、同じく原武史『大正天皇』(朝日選書)、『松本清張の遺言』(文春新書)、原武史・保坂正康『対論・昭和天皇』、小谷野敦『天皇制批判の常識』(洋泉社y新書)などを立て続けに読み、さらには以前読んだ吉田裕『昭和天皇の終戦史』(岩波新書)、近代日本思想研究会『天皇制論を読む』(講談社現代新書)、ハーバード・ビックス『昭和天皇/上・下』(講談社)、『昭和天皇独白録』(文春文庫)など、主に一般向けの書物を本棚から引っ張り出して次々に再読した。明確な目的意識をもって集中的に本を読むなどしばらくぶりだった。日本近代史の専攻などではない私にとっては、論文やレポートにまとめることなど毛頭念頭になく、ただ自分なりにこの問題を整理してみたいという欲望を満たすためだけの行為である。近代天皇制という政治構造や、それへの肯定や否定を前提としたものではなく、まったく別の視点から考えなおしてみたいという欲望だ。考えるべきことはたくさんあり、頭の中は混乱を極めているが、不思議に爽やかな気分だ。目的を意識を持つことによる、自分が無為に生きているのではないという感覚がそうさせるのだろうか。

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 今日の一枚は、スイング系ジャズのアルトサックス奏者、ジョニー・ホッジスの1958年録音作品、『ブルース・ア・プレンティー』だ。これも最近、「verveお宝コレクション」からジャケットが気に入って購入したもののひとつである。

 一聴、いいなあ、と思う。① Don't Know About You から哀愁のムード全開だ。全編にわたって、のびやかで優しさに満ちたサックスの音色に加え、やや大袈裟なビブラートを多用した、歌心溢れるフレージングが何とも好ましい。こういうアルバムは、20代の頃に聴いていたら、古いスイング系の退屈なアルバムとして片付けていたかも知れない。けれども今は、こうした情感豊かなプレイが心のひだに沁みてくる。自分から進んでスイング系のものを買うことはなかっただろうが、お洒落で美しいジャケットが私をこのアルバムに引き合わせてくれた。ジャケ買いの効用のひとつである。