WATERCOLORS ~非哲学的断章~

ジャズ・ロック・時評・追憶

テンダネス~マイ・バラード

2010年04月19日 | 今日の一枚(K-L)

●今日の一枚 256●

木住野佳子

Tenderness

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 日本のジャズピアニスト木住野佳子の2000年録音作品『テンダネス~マイ・バラード』である。タイトルがいけない。大甘タイトルである。CDの帯の宣伝文句もこうだ。「泣きだしたいくらい、いいアルバムです。せつない涙も、暖かい涙も、みんなここにあります。澄んだ音色のジャズ・ピアノが歌う、初のバラード集。」危険である。要注意盤だ。宣伝文句からきれい系ジャズであることは明白である。なぜ購入したのだろう。よくおぼえていない。きっと癒されたかったのかも知れない。ただ、私は批判的なことをいいつつも、実はこういう宣伝文句に弱いのだ。

 悪いアルバムではない。しかしやはり、きれい系ジャズだ。購入後、数回聴いたきりでずっとCD棚に置き去りにしていた。数年ぶりに聴いてみた。癒されたかったのかも知れない。演奏の速度がいい。ゆっくりとした速度だ。心臓の鼓動、あるいは細胞のリズムに合致する。しかし、なぜかのめりこめない。BGMとしては気分の良いアルバムなのかもしれないが、のめりこめないのである。ピアノの音色に深さがないように感じる。録音がきれい過ぎるのかも知れない。人間は、あるいは人間の心は、そんなにきれいなだけのものではないのだ。もう少し生々しさがほしい。心に突き刺さる、あるいは細胞にしみこんでいく、生々しさが欲しい。しかし、繰り返し言うが、悪いアルバムではない。

 もう少し生々しさが欲しいというのは、何でもエコー処理すれば解決するという世情への反発心かも知れない。やはり何が足りない。何かとは何だろう。それがわかれば、私もジャズを卒業できるかもしれない。