WATERCOLORS ~非哲学的断章~

ジャズ・ロック・時評・追憶

エラ & ルイ

2010年04月23日 | 今日の一枚(E-F)

●今日の一枚 259●

Ella Fitzgerald & Louis Armstrong

Ella & Louis

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 今日はしばらくぶりに早い時間に帰宅した。楽天イーグルスもどうやら大量リードしているようだ。ゆっくり音楽でも聴くかと自室に篭城し、久々に取り出したのがこの一枚である。

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 エラ・フィッツジェラルドとルイ・アームストロングの共演作、1956年録音作品の有名盤『エラ & ルイ』である。バックをつとめるオスカー・ピーターソン・トリオの好演も見逃せない。

 いやあ、楽しい。本当に楽しい。本当にいいアルバムだ。こういうアルバムに対して批評めいたことを書くのが恥ずかしくなってしまう。エラフィッツもサッチモもリラックスしつつ本当に音楽を楽しんでいるようだ。その楽しさがダイレクトに伝わってくる気がする。これ以上、何をつけくわえればいいのだろう。⑧「アラバマに星落ちて」、いいなあ、好きだなあこの曲、心がとろけそうになる。⑩「ニアネス・オブ・ユー」、アルバム帯の日本語タイトルが「あなたのそばに」となっている。なるほど、これは「ニアネス・オブ・ユー」じゃなくて、「あなたのそばに」だ。

 我々の人生には、こういう音楽が絶対に必要だ。


WONSAPONATIME

2010年04月23日 | 今日の一枚(I-J)

●今日の一枚 258●

John Lennon

Wonsaponatime

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 あまり聴くことのないこのアルバムをなぜ取り出したのか、自分でもよくわからない。たまたま目についたのだが、なぜ素通りしなかったのかよくわからない。ジョン・レノン、秘蔵の未発表音源と銘打ったアルバム『ウォンサポナタイム』。ジョンのホームレコーディングやスタジオレコーディングのアウトテイク、ライブレコーディングなど94トラックを集めた4枚組『ジョン・レノン・アンソロジー』のダイジェスト盤である。

 この手のアルバムにしては、今聴くとなかなか面白い。⑮ 「愛の不毛」などはなかなかに感動的だ。かつて熱狂的なファンだった私だか、今は結構冷静に聴ける気がする。興味深く、改めて考えさせられることも多い。けれど、何かが変だ。この違和感は何だろう。それは恐らく、この作品の成り立ち、あるいはこの作品の発売の意図と関係があるように思う。

 帯の宣伝文句には、「ここにいるのは私の知っているジョンです。その想い出をあなたたちと分かち合いたいのです。」というヨーコ・オノさんの言葉が記されている。ヨーコ・オノさんはライナーノーツでもこう記す。

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「みなさんがこのディスクを楽しんで聴いてくだされば幸いです。これが私の知っているジョンです。みなさんがマスコミやレコードや映画をとおして知っているジョンではありません。あえてこう言いましょう。これが私のジョンです。ジョンはずば抜けて頭のいい人でした。ジョンは幸せでした。ジョンは怒っていました。ジョンは悲しんでしました。そしてなによりも、ジョンは世の中に自分のもつ最高のものを送り出そうといつも努力をおしまない、天才でした。私はジョンを愛していました。ジョンのような人が私たちと同じ世代に、私たちの住む20世紀に、そして同じ人間としてこの世に確かに存在してくれたことをうれしく思います。そんなジョンと人生をともにできたことは、私にとってこのうえなく光栄なことです。」

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 ある種の宗教的なものを感じる。偶像化である。「私の知っているジョン」を特権化することによって、ジョン・レノン自体が偶像化されている。なぜこのようなことを書くのだろうか。ジョン・レノンのような、音楽のみならず文化的ムーブメント全体に影響を与えたアーティストには、「偶像化」がつきまとう。しかし、そもそもジョン・レノンは、例えば本アルバムにも収録されている③ God(神)においてそうだったように、すべての偶像崇拝を否定しようとしたのではなかったか。もしかしたら、ヨーコ・オノさんも「私の知っているジョン」をひきあいにだすことで、ひとりの人間としてのジョン・レノンを強調し、偶像化を拒否しようとしたのかも知れない。しかし、例えば先のライナーノーツの文章は、現実には逆の効果をもたらしているように思う。「ジョンのような人が私たちと同じ世代に、私たちの住む20世紀に、そして同じ人間としてこの世に確かに存在してくれたことをうれしく思います。」とは、明らかに言いすぎである。「私の知っているジョン」を排除しても、ジョン・レノンは十分に刺激的で魅惑的なミュージシャンであり、ロックンローラーなのだと思う。素晴らしいロックンローラーのひとり。それで十分ではないか。ジョン・レノンも本当はそれをのぞんでいたのだと、私は思う。

 そう考えなければ、ジョン・レノンを「楽しんで聴く」ことなどできないのだ。

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