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伊方原発3号機訴訟で広島高裁が運転差し止め命令

2017-12-14 22:26:30 | 原発問題/一般
すでに報道されているとおり、広島県内の住民らが対岸にある伊方原発(愛媛県・四国電力)3号機の運転差し止めを求めて起こしていた仮処分申請の抗告審で、広島高裁は13日、住民側の訴えを退けた1審・広島地裁決定を変更し、四国電力に運転差し止めを命ずる決定を行った。

これまで、原発の運転差し止めを求めて各地の住民が起こした訴訟で、差し止めを認める判決・決定はすべて地裁のものだった。高裁での控訴審・抗告審ではすべて覆され、結局は再稼働させられてきた。高裁段階で運転差し止めの決定が出たのは初めて。また火山噴火の危険性を認めて運転差し止めを命じたのも初めてであり、画期的出来事だ。一般訴訟の判決と異なり、仮処分決定は係争中でも直ちに効力が生じる。ただ、この決定は期限付きで来年9月30日までとなっている。

伊方原発3号機は現在、定期点検で停止しており、来年1月の定期点検終了後、この決定が覆るか、9月を終えるかしない限り再稼働ができなくなる。

福島原発事故以降、反原発の活動を続けてきた当ブログにとって、原発の歴史を勉強すればするほど、現在までの腐敗し、歪んだ原発行政の出発点は伊方にこそあると考えるようになった。1990年代に相次いで行われた伊方原発での2つの差し止め訴訟で起きた出来事が、原子力ムラの腐敗の象徴であるとともに、その後の原発訴訟の行方をも決定づけるものになったからだ。

伊方原発1号機を巡る訴訟では、住民側の主張に理解を示していた裁判長が、判決直前に突然交代させられた結果、住民敗訴になった。この裁判の上告審(1992年)でも最高裁が原発を容認し、住民の訴えを退ける判決を出したが、この判決に関わった味村治・最高裁判事が、退官後なんと原発メーカー・東芝に天下りするのである(この件については2011年にMy news Japan週刊金曜日で相次いで報じられている)。

ついでにいえば、このときの最高裁判決には、後に最高裁長官となる三好達判事も加わっているが、三好元判事は退官後日本会議の会長を務めた。現在も名誉会長の職にある(日本会議役員名簿より)。民主主義を否定する改憲派と、人権無視の原発推進派は底流でつながっていることがよくわかる。

当時はまだ住民による原発訴訟は少なかったこともあり、この伊方の判決がその後の流れを作った。チェルノブイリ原発事故(1986)年からわずか6年しかたっていなかったこの時代に、日本の裁判所は原発の危険性とまともに向き合わなかったのである。もしこのとき、裁判所が原発の危険性ときちんと向き合っていたら福島第1原発の事故はなかったかもしれないのだ。

だからこそ当ブログは、日本の原発訴訟の悪い流れのスタートラインになった伊方でだけはどうしても勝たなければならないと思っていた。そうした意味で、今回の勝利を大変うれしく思っている。

例によって、判決文をいち早くテキストでアップしてくれる「NPJ訴廷日誌」に決定要旨が掲載されている。以下全文を引用する(文字化けのおそれがある丸数字、丸文字のみ括弧付き数字、文字に改めた)。PDF版は脱原発弁護団全国連絡会サイトの13日付記事に掲載されている。

決定要旨
弁護団声明(広島高裁決定を受けて)

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NPJ訟廷日誌より

【速報】 伊方原発3号機運転差止仮処分命令申立事件 広島高裁決定要旨

平成29年レ)第63号伊方原発3号機運転差止仮処分命令申立(第1事件,第2事件)却下決定に対する即時抗告事件(原審・広島地方裁判所平成28年(ヨ)第38号,同年(ヨ)第109号)


決 定 要 旨

主   文

1 原決定を次のとおり変更する。

 (1) 相手方は,平成30年9月30日まで,愛媛県西宇和郡伊方町九町字コチワキ3番耕地40番地の3において,伊方発電所3号機の原子炉を運転してはならない。

 (2) 抗告人らのその余の申立てをいずれも却下する。

2 手続費用は,原審及び当審を通じ,各自の負担とする。

理 由 の 要 旨

1 事案の概要
 (1) 本件は,四国電力伊方原発3号機(伊方原発)のおよそ100km圏内(広島市,松山市)に居住する住民(抗告人ら)が,四国電力(相手方)に対し,伊方原発の安全性に欠けるところがあるとして,人格権に基づき,伊方原発の運転差止めを命じる仮処分を申し立てた事案である。

 (2) 本件の争点は, (1)司法審査の在り方, (2)新規制基準の合理性に関する総論, (3)新規制基準の合理性に関する各論として, (ア)基準地震動策定の合理性, (イ)耐震設計における重要度分類の合理性, (ウ)使用済燃料ピット等に係る安全性, (エ)地すべりと液状化現象による危険性, (オ)制御棒挿入に係る危険性, (カ)基準津波策定の合理性, (キ)火山事象の影響による危険性, (ク)シビアアクシデント対策の合理性, (ケ)テロ対策の合理性, (4) 保全の必要性, (5)担保金の額である。

 (3) 原審は,原子力発電所の安全性審査に関する新規制基準は合理的であり,伊方原発が新規制基準に適合するとの原子力規制委員会の判断も合理的であるから,抗告人らの申立ては被保全権利の立証(疎明)を欠くなどとして,申立てを却下した(原決定)ところ,抗告人らが即時抗告した。

2 司法審査の在り方(決定175頁~184頁)

 (1) 抗告人ら住所地と伊方原発との距離(広島市居住者につき約100km,松山市居住者につき約60km)に照らすと,抗告人らは,伊方原発の安全性の欠如に起因して生じる放射性物質が周辺の環境に放出されるような事故によってその生命身体に直接的かつ重大な被害を受ける地域に居住する者ないし被害の及ぶ蓋然性が想定できる地域に居住する者といえる。

 (2) このような場合には,伊方原発の設置運転の主体である四国電力において,伊方原発の設置運転によつて放射性物質が周辺環境に放出され,その放射線被曝により抗告人らがその生命身体に直接的かつ重大な被害を受ける具体的危険が存在しないことについて,相当の根拠資料に基づき主張立証(疎明)する必要があり,四国電力がこの主張立証(疎明)を尽くさない場合には,具体的危険の存在が事実上推定されると解すべきである。

 (3) もっとも,四国電力は,原子力規制委員会から,伊方原発が新規制基準に適合するとして原子炉設置変更許可を受けている。そして,原子力発電所の安全性審査の基礎となる基準の策定及びその基準への適合性の審査は,多方面にわたる極めて高度な最新の科学的専門技術的知見に基づく総合的判断が必要とされるものであり,原子炉等規制法は,基準の策定について,原子力利用における安全の確保に関する各専門分野の学識経験者等を擁する原子力規制委員会の科学的専門技術的知見に基づく合理的な判断に委ねる趣旨と解される。

 このような観点からすると,四国電力は,前記(2)の主張立証(疎明)に代え,新規制基準に不合理な点のないこと及び伊方原発が新規制基準に適合するとした原子力規制委員会の判断に不合理な点がないことを相当の根拠資料に基づき主張立証(疎明)することができると解すべきである。

3 火山事象の影響による危険性以外の争点(決定184頁~349頁,367頁~398頁)火山事象の影響による危険性以外の争点(前記1 (2)(2)(3) (ア)ないし(カ),(ク)及び(ケ)については,新規制基準は合理的であり,伊方原発が新規制基準に適合するとした原子力規制委員会の判断も合理的であると認められる。

4 火山事象の影響による危険性(決定349頁~367頁)

 (1) 原子力発電所の立地評価(設計対応不可能な火山事象が原子力発電所の運用期間中に影響を及ぼす可能性の評価)につき,火山ガイド(原子力規制委員会が策定した安全性審査の内規)は,以下のとおり定めている。
   (1) 原子力発電所から半径160kmの範囲の領域(地理的領域)に位置し,将来の活動可能性がある火山について,原子力発電所運用期間中(原則40年)の火山の活動可能性が十分小さいかどうかを判断する。

   (2)(1) の火山の活動可能性が十分小さいと判断できない場合は,原子力発電所運用期間中(原則40年)に発生する噴火規模を推定する。

   (3)(2)の噴火規模を推定できない場合は,当該火山の過去最大の噴火規模を想定し,設計対応不可能な火山事象(火砕流)が原子力発電所に到達する可能性が十分小さいかどうかを評価する。

   (4)(3)の火砕流が原子力発電所に到達する可能性が十分小さいと評価できない場合は,原子力発電所の立地は不適となり,当該敷地に原子力発電所を立地することは認められない。

 (2) 本件では,伊方原発の地理的領域に位置し将来の活動可能性のある火山である阿蘇カルデラ(伊方原発から約130km)について,現在の火山学の知見では,伊方原発の運用期間中に(1)の火山の活動可能性が十分小さいと判断することはできず,(2)の噴火規模を推定することもできないから,(3) により阿蘇カルデラの過去最大の噴火である阿蘇4噴火(約9万年前)の噴火規模(火山爆発指数〔VEI〕7)を想定し,火砕流が伊方原発敷地に到達する可能性が十分小さいかどうかを評価することになる。

  しかし,四国電力が行つた伊方原発敷地周辺の地質調査や火砕流シミュレーションからは,阿蘇4噴火の火砕流が伊方原発敷地に到達した可能性が十分小さいと評価することはできないから,(4)により伊方原発の立地は不適であり,伊方原発敷地に原子力発電所を立地することは認められない。

 (3) 原決定は,VE17以上の規模の破局的噴火については,そのような規模の噴火が原子力発電所運用期間中に発生する可能性が相応の根拠をもつて示されない限り,原子力発電所の安全性確保の上で自然災害として想定しなくても,安全性に欠けるところはないと判示する。確かに,現在の火山学の知見では,VE17以上の破局的噴火の発生頻度は日本の火山全体で1万年に1回程度とされている一方,仮に阿蘇において同規模の破局的噴火が起きた場合には,周辺100km程度が火砕流のために壊滅状態になり,更に国土の大半が10cm以上の火山灰で覆われるなどと予測されているところ,わが国においては,このようにひとたび起きると破局的被害(福島第一原発事故の被害を遥かに超えた国家存亡の危機)をもたらす一方で,発生頻度が著しく小さい自然災害については,火山ガイドを除きそのような自然災害を想定した法規制は行われておらず,国もそのような自然災害を想定した対策は(火山活動のモニタリング以外は)策定しておらず,にもかかわらず,これに対する目立った国民の不安や疑問も呈されていない現状を見れば,前記のような発生頻度が著しく小さくしかも破局的被害をもたらす噴火によつて生じるリスクは無視し得るものとして容認するというのが我が国の社会通念ではないかとの疑いがないではなく,このような観点からすると,火山ガイドが立地評価にいう設計対応不可能な火山事象に,何らの限定を付すことなく破局的噴火(VE17以上)による火砕流を含めていると解することには,少なからぬ疑間がないではない。

  しかし,前述したとおり,原子炉等規制法は,原子力発電所の安全性審査の基準の策定について,原子力利用における安全の確保に関する各専門分野の学識経験者等を擁する原子力規制委員会の科学的専門技術的知見に基づく合理的な判断に委ねる趣旨と解されるから,当裁判所としては,当裁判所の考える社会通念に関する評価と,原子力規制委員会が最新の科学的技術的知見に基づき専門技術的裁量により策定した火山ガイドの立地評価の方法・考え方の一部との間に乖離があることをもつて,原決定のように火山ガイドが考慮すべきと定めた自然災害について原決定判示のような限定解釈をして判断基準の枠組みを変更することは,原子炉等規制法及びその委任を受けて制定された新規制基準の趣旨に反し,許されないと考える。

 (4) なお,火山ガイドが立地評価の次に評価すべきと定める影響評価(設計対応可能な火山事象が原子力発電所の運用期間中に影響を及ぼす可能性の評価)についても,現在の火山学の知見を前提とすると,伊方原発の運用期間中に阿蘇においてVE16(噴出体積10㎦以上)以上の噴火が生じる可能性が十分小さいと評価することはできないところ,VE16の噴火の最小の噴火規模を前提としても,噴出量は,四国電力が想定した九重第一軽石の噴出量(6.2㎦)の約2倍近くになるから,伊方原発からみて阿蘇カルデラ(伊方原発から約130km)が九重山(伊方原発から約108km)よりやや遠方に位置していることを考慮しても,四国電力による降下火砕物の層厚の想定(15cm)は過少であり,これを前提として算定された大気中濃度の想定(約3.lg/㎥)も過小であると認められる。

5 結論(決定398頁~399頁)

 (1) 以上によれば,火山事象の影響による危険性について,伊方原発が新規制基準に適合するとした原子力規制委員会の判断は不合理であり,抗告人らの生命身体に対する具体的危険の存在が事実上推定されるから,抗告人らの申立ては,被保全権利の立証(疎明)がなされたといえる。

 (2) 伊方原発は,現在稼働中であるから,差止めの必要性(保全の必要性)も認められる。もつとも,本件は,証拠調べの手続に制約のある仮処分であり,火山事象の影響による危険性の評価について,現在係属中の本案訴訟(広島地方裁判所平成28年(ワ)第289号,第902号)において,証拠調べの結果,本案裁判所が当裁判所と異なる判断をする可能性もあること等の事情を考慮し,四国電力に運転停止を命じる期間は,平成30年9月30日までと定めることとする。

 (3) 担保金の額については,事案の性質に鑑み,担保を付さないこととする。

 (4) よつて,以上と異なる原決定を変更し,主文のとおり決定する。

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