安全問題研究会は、JR北海道の路線見直し問題に関して、12月15日に国交省要請を行いました。
その際の要請書をアップしました。なお、印刷に適したPDF版は
安全問題研究会サイト内の「
安全問題研究会が行った政府への要請・申し入れ」コーナーに掲載しています。
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2017年12月15日
国土交通省鉄道局長 藤井 直樹 殿
安全問題研究会
JR北海道の路線廃止問題に関する要請書
当会は、各鉄道の安全や地域公共交通の存続及び利便性向上のための活動を行う鉄道ファンの任意団体です。これまで、国内各地の鉄道を初めとする公共交通に乗車して点検を行う活動、鉄道事故の原因調査や学習会などを通じて安全問題や地方ローカル線問題の検討を行ってきました。その結果、日本の鉄道や公共交通を巡る政策について、改善を要するいくつかの事項が認められるに至りました。
本日は、そのような改善を要する事項のうち、特に緊急を要し、影響も特に深刻なJR北海道の路線存廃問題に絞って、下記のとおり要請を行うこととしました。
当会としては2015年以来の要請となりますが、貴職におかれましては、このような切実な事情及び本要請の趣旨をご理解いただくとともに、本要請書に対して、文書による回答を行われるよう希望いたします。
なお、JR北海道が「自社単独で維持困難」と発表した道内10路線13線区について、同社は「上下分離」方式(沿線市町村が線路を保有し維持管理に当たる方式)の導入を地元に対して求めていますが、地方交付税法の規定により、現状では鉄道の線路を自治体が保有している場合であっても、道路等と異なり地方交付税の交付対象となっていません。当会としては、こうした制度の不備も上下分離が進まない原因のひとつと考えており、地方交付税制度の鉄道への適用を求める要請を、去る11月14日付け総務大臣及び総務省自治財政局長宛て要請書(
別添)のとおり併せて実施していますので、念のため申し添えます。
記
【要請事項】
1.国鉄改革当時の国会決議等を踏まえ、JR北海道が検討しているローカル線の廃止を行わせないようにすること。
【説明】
JR北海道が昨年11月、鉄道路線の廃止~バス転換または沿線市町村が線路を保有する上下分離方式による運営に切り替えたいと提案した路線(10路線13区間)の合計は1,137.2kmであり、JR北海道の鉄道全路線(2,499.8km)のほぼ半分に及んでいる。
国鉄改革関連8法案が審議されていた参議院日本国有鉄道改革に関する特別委員会が、1986(昭和61)年11月28日、同法案の可決・成立に当たって行った附帯決議は、「(JR各社の)経営の安定と活性化に努めることにより、収支の改善を図り、地域鉄道網を健全に保全し、利用者サービスの向上、運賃及び料金の適正な水準維持に努めるとともに、輸送の安全確保のため万全を期すること」「各旅客鉄道株式会社及び日本貨物鉄道株式会社の輸送の安全の確保及び災害の防止のための施設の整備・維持、水害・雪害等による災害復旧に必要な資金の確保について特別の配慮を行うこと」を国に対して求めている。この附帯決議の採択に当たり、国鉄改革関連8法案の担当である橋本龍太郎運輸大臣及び葉梨信行自治大臣(いずれも当時)が「その御趣旨を尊重」し、政府として努力・善処する旨答弁している。
国鉄再建監理委員会における当時の議論やこうした歴史的経緯を踏まえ、経営が厳しくなると予想されたJR北海道・四国・九州の3社は国が設けた経営安定基金の運用益で持続的な経営を維持することとされたが、当初、7.3%と見込んだ金利が低下したため、期待通りの運用益が得られず、今日の事態を招くことになった。今日の事態は政府の責任と考える。
国鉄再建監理委員会参事官や運輸事務次官を務めた黒野匡彦氏は、北海道新聞に対し「30年も前に作った仕組みは事情の変化に応じて変わるのは当たり前。現役の行政官が政策を変更しては先輩のメンツをつぶすなどと遠慮する必要はない。国鉄改革の仕組みにとらわれず、新しい政策を展開すれば良い」と、社会情勢の変化に応じた政策の柔軟な変更を促している。また、JR東日本第2代社長を務めた松田昌士氏も「JR北海道の株主は国であり、今も国家機関」だとして、国が主体となりJR北海道の経営改善を行うよう求めるなど、国鉄改革を推進した関係者からも、この間の社会情勢の変化を踏まえた国鉄改革見直しの声が上がっている。ローカル線の廃止を避けることは、地域衰退を防止し公共交通を守るため急務の課題である。
2.国鉄改革以降30年間の社会情勢の変化を踏まえ、JRグループの枠組みを見直すこと。とりわけJRグループが列車運行に専念できるよう、全国JRグループ全線の線路及び施設を国が保有し一元的に管理する仕組みを作ること。
【説明】
現在、日本国内で上下分離方式が論じられる場合、「沿線市町村による線路保有」を前提としたものとなっているが、2000(平成12)年8月1日付け運輸政策審議会答申第19号「中長期的な鉄道整備の基本方針及び鉄道整備の円滑化方策について」においては「運行事業者とインフラの整備主体が原則として別人格であって、インフラの整備に公的主体が関与する場合」を上下分離と定義しており、インフラの整備の主体を市町村に限定するものとはなっていない。また、欧州連合(EU)でも「共同体の鉄道の発展に関する閣僚理事会指令」(1991年EU指令)によりインフラ事業と輸送事業を分離する改革が行われたが、国家や州政府など、市町村よりも大きな行政単位によって鉄道が運営されている例が多い。社会資本として整備に巨額の資金を必要とする鉄道の整備や維持を財政力の小さな市町村主体で行うことは困難であり、国や都道府県の関与が必要である。
また、2016(平成28)年12月30日付け「北海道新聞」は、旧国鉄の経営悪化が深刻化した1982年、国が「日本鉄道保有公団」を設立して国鉄の線路・施設の保有管理をこの公団に移管、国鉄は列車運行に専念するという上下分離方式の導入が運輸大臣私案として旧運輸省で作成されたことを報じている。国が線路・施設を保有管理する形態の上下分離案が、私案とはいえ政府部内で作成されたことはこの手法の有効性を示している。
北海道内の路線廃止を防ぐため、早急にJR北海道の線路維持管理に関する負担を軽減する必要があるが、仮に日本鉄道保有公団方式を参考として国が線路・施設の保有管理を行うとしても、全営業路線が赤字である北海道内だけをその対象とした場合、効果は限定的なものとなる可能性が高い。効果を最大限にするためには、列車本数の多い路線や収益性の高い路線から徴収する線路使用料によって北海道の線路保有管理の仕組みを支える必要があり、そのためには全国JRグループ全線を対象に国が線路・施設の保有管理を行う形態の上下分離方式を導入することが望ましい。
3.JR旅客各社がJR貨物に対して設定している線路使用料について、いわゆるアボイダブルコスト(回避可能)ルールを見直し、貨物列車の走行実態に応じた線路使用料を設定できるようにすること。
【説明】
国鉄改革により旅客と貨物が別会社に分離されて以降、JR旅客各社がJR貨物から徴収する線路使用料については、「新会社がその事業を営むに際し当分の間配慮すべき事項に関する指針」(平成13年国土交通省告示第1622号。以下「指針」という。)II-1-2により「貨物会社との協議を経て、貨物会社が当該鉄道線路を使用することにより追加的に発生すると認められる経費に相当する額を基礎として」定めることが規定されている。
国鉄改革の契機となった国鉄財政悪化の原因が、1970年代中盤以降の国鉄における貨物輸送の急激な業績悪化を原因としていることから、国鉄改革に際してこのようなルールが設けられたものと考えられるが、トラック輸送分野における昨今の極端な運転手不足はJR貨物の業績にとって追い風となっており、JR貨物は2016年度決算で5億円の黒字決算となった。この結果、路線廃止を検討しなければならないほどの経営状態に追い込まれているJR北海道が黒字決算のJR貨物を支えなければならないという看過しがたい事態となっている。
石勝線列車火災事故以降、JR北海道は安全対策に集中的に投資した結果、年間200億円程度の資金が不足している状態にあるが、JR貨物からの線路使用料を、貨物列車の走行実態に応じて適正化した場合、全列車キロの半分以上が貨物列車の北海道では、現在、16億円程度の線路使用料が100~200億円に上昇するとの試算もある。この試算通りであれば、線路使用料の適正化によってJR北海道は資金不足をほぼ解消できるとともに、必要な安全対策を十分実施しながら、現行通り路線を維持することも可能になる。
国鉄改革から30年を経過、この間の社会情勢の変化によりアボイダブルコストルールも時代に合わなくなっている。JR旅客各社がJR貨物からの線路使用料を適正化できるよう、「指針」見直しが必要である。
なお、この見直しを行った場合、今度はJR貨物が少なくとも100~150億円近い赤字決算となり、同社の経営に重大な影響を及ぼすことが確実である。整備新幹線開業時にJR旅客各社から経営分離された並行在来線を運営する第三セクター鉄道(以下「並行三セク」という。)に準じ、国が貨物調整金を支給することでこの問題は解決できるが、現在、独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備機構法(以下「機構法」という。)附則第11条の規定により、貨物調整金の支給対象が並行三セクに限定されている。「指針」見直しと併せ、機構法附則第11条も併せて改正する必要がある。
4.地方交付税制度を鉄道にも適用できるような制度改正の要望を総務省に対して行うこと。
【説明】
国鉄改革によって、旧国鉄の新幹線(東海道・山陽、東北(盛岡以南)、上越各新幹線)を新幹線鉄道保有機構(既に解散)に継承させるとともに、JR東日本・東海・西日本各社を列車運行に専念させるため上下分離方式が導入された。
この上下分離方式が、地方路線を維持する上でも有効であることが認識されたため、近年、地方路線を上下分離方式で運営する例が徐々に増えている。しかし、地方路線の上下分離方式では線路・施設の保有管理主体は沿線市町村であることがほとんどであり、現行の地方交付税法では道路・空港・港湾と異なって、鉄道が地方自治体による線路管理であっても地方交付税の交付対象とならないことから、鉄道に上下分離方式を導入した地方自治体は全面的かつ長期的にその保有管理費用を負担しなければならない。
当会は、このことが上下分離方式の全国的かつ大規模な普及が進まない原因のひとつであると考えており、先般、鉄道に対しても地方交付税の交付対象とするよう、総務大臣及び総務省自治財政局長宛て要請を実施したところである。
この際、総務省自治財政局からは、「地方交付税はもともと国の金ではなく、地方から集めた金を各自治体の財政力の調整のために再交付するものであり、線路を持っている自治体の事例がちらほら出てきているに過ぎない現段階でそうしたものを地方交付税の交付対象に含めることは制度の趣旨にそぐわない」との説明を受けるとともに、(1)鉄道政策の制度設計をするのはあくまで国交省であり、総務省は、線路を持つ沿線自治体にも地方交付税を交付できるような制度を考えてくれるよう国交省から相談があれば知恵を出す立場ではあるが、メインで動くということにはならない、(2)将来、鉄道政策や地方交付税制度が大きく変わるようなことがあれば、考えないわけではない、(3)第三セクター鉄道に出資している地方自治体には、地方交付税を交付できる制度も一部ある――との回答を得た。
当会としては、総務省の上記説明内容は十分理解できるものの、鉄道と同じ公共輸送目的の施設であり、またすべての自治体が保有しているわけではないにもかかわらず既に地方交付税の交付対象となっている空港や港湾の例もあることから、鉄道だけを地方交付税の交付対象から除外する積極的な理由もないものと考える。国交省と総務省との協議の進め方によっては、鉄道を地方交付税の交付対象とする方向での制度改正も十分可能と考えられることから、国交省に対し、総務省との協議を行うよう要望するものである。
(以 上)