人生チャレンジ20000km~鉄道を中心とした公共交通を通じて社会を考える~

公共交通と原発を中心に社会を幅広く考える。連帯を求めて孤立を恐れず、理想に近づくため毎日をより良く生きる。

【転載記事】JR指定席「重複発売」顛末記

2023-05-25 23:52:36 | 鉄道・公共交通/趣味の話題
「指定席に座っていたら後から乗ってきた男が『そこ僕の席なんですけど』。私は間違ってないのに、舌打ちまでされて...」(北海道・30代女性)(Jタウンネット)

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シリーズ読者投稿~あの時、あなたに出会えなければ~ 投稿者:Bさん(北海道・30代女性)

正しい席に座っていたのに、後から来た乗客に「そこは自分の席だ」と言われた――Bさんは大学時代、そんな体験をした。

しかし相手が間違っているわけでもないようで......。

<Bさんの体験談>

大学生だった時のことです。その日私は、実家のある函館から大学がある弘前に向かうためJRの特急列車に乗りました。

指定席に座っていると、途中から乗ってきた男性客がかなり機嫌悪そうに「そこ僕の席なんですけど」と言ってきて......。

乗車券を見せてもらうと...

乗車券を見せてもらったところ、私も男性も全く同じ席番号でした。

そう説明するも、彼は私の乗車券の番号を見ようともしません。私の勘違いと思い込んで舌打ちする始末です。

私が車掌さんに聞こうと立ち上がると、タイミングよく車掌さんが登場。「この度は大変失礼致しました」と言って、私に「こちらへどうぞ」と促しました。

私が席から離れると、男性客はすぐさま音を立てて着席。疲れていたのかもしれませんが、誤解とはいえ、余りにも尊大な態度に悲しい気持ちになりました。

しかし、それもつかの間。車掌さんはなんと私をグリーン車へ連れてきて下さったのです。しかも、案内されたのは他のお客さんから離れた静かな席でした。

人生で初めてのグリーン車ということもあり萎縮して「差額を支払います」と言ったのですが、

「全く必要ありません。この度は私どものミスで大変失礼いたしました。良い旅を」

と車掌さん。こちらが申し訳なるような過剰な謝罪をすることもなく、終始穏やかに、かつはきはきと対応して下さいました。

驚きすぎて車掌さんの名前を控えるのをうっかり忘れてしまったことを本当に後悔しています。

新幹線が開通して以降、函館~青森間の特急列車にはもう乗れなくなってしまったけれど、アラフォーになる今も、しがない学生の1人を丁寧に案内して下さったあの車掌さんへの感謝を忘れません。

あの時の車掌さんへ。大学で色々あり、精神的に荒んでいた時期に、あなたの立派な姿が心に沁みました。本当にありがとうございました。あなたがあれ以降もたくさんの一期一会の乗客の方々を笑顔にしていることを、北の大地から祈っています。
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Jタウンネットは、インターネット版タウン情報誌のようなもので、全国各地の「ちょっといい話」を紹介するコーナーがある。せっかくの鉄道ネタなので、少しコメントしておこうと思う。

「マルス(指定席発行機)が間違えるわけがない」などと、何も知らずにコメントしている人もいる。「バカほど口を出したくなる」はネットに限らず世の常だと思うが、恥ずかしいことこの上ない。確かにマルスは間違えないのだが……。

重複発売(指定席の二重発売)が起きる原因として最も多いのは、乗客の都合で出発前に払い戻された席を、駅係員がマルスに戻す際に誤って別の席を戻してしまう。その席が別の人に再び発売される。つまり人間のミス(ヒューマンエラー)が原因である。

一般論としては先着順なので、重複発売が起きてしまった際にその席を使う権利は先に座った人にある。だが、中にはこのような理不尽な態度を取る客もいる。車掌は、このような事態に備えて、窓口発売しない席(調整用席)を1~2席程度持っているとされる(お盆や年末年始などの最繁忙期には、その余裕さえないこともあるが……)。実際には、この例のように上の等級の席が割り当てられることもある。

この記事を読んで、なかなか粋な措置を執る車掌だと感心した人もいるかもしれない。だが、私の手元にある1979年版の古い「鉄道ジャーナル」の記事では、名古屋~博多間で当時、運転されていた寝台特急「金星」でやはりB寝台券(三段式の下段以外)の重複発売が起きてしまい、片方の乗客をB寝台(下段)に案内する様子が描かれている。このような調整は旧国鉄時代から行われており、いわば伝統芸でもある。

「金星」のケースも、先に寝台を使用中だった女性客に、後から乗車してきた男性客が席を替わるよう要求。車掌が女性客を空いていた下段に移動させたが、酒に酔った状態で乗車してきた男性客が、下段は満席だと説明する車掌に「本当に下段は空いてないのか、ウソじゃないだろうな」などと絡むシーンも描かれている。ただし、記事では下段以外の寝台から下段に移動させた女性客に、本人の同意を得て、寝台券の差額を払ってもらったと記されている。

(注:現在では、寝台特急が「サンライズ出雲・瀬戸」しかなく、三段式B寝台車も存在しないため、時刻表の記載を見てもわからなくなっているが、私の手元にある「JTB時刻表」2011年6月号の記載を見ると、寝台料金は、三段式の上・中段が5,250円、三段式の下段と二段式の上・下段が6,300円となっている。当時の三段式B寝台は、下段のみ二段式B寝台と同じ大きさで、上・中段は下段より寝台の幅が狭かったため、上・中段にのみ安い料金が設定されていた。

より厳密に言えば、乗車後にこのような変更をする場合は、旧国鉄が制定し、JR各社がほぼそのまま引き継いだ「旅客営業規則」のうち、第249条に規定する「区間変更」に該当する。249条第2項(2)で、料金券については「原乗車券類に対するすでに収受した料金と、実際の乗車区間の営業キロ又は同区間に対する料金とを比較し、不足額は収受し、過剰額は払いもどしをしない」と規定しており、差額を徴収した「金星」車掌の取り扱いが正しいが、これは乗客側から「席を替わりたい」との申出があった場合の規定であり、重複発売に関しては国鉄~JR側の責任で、本人のせいではないことから、しばしば差額を徴収しない取り扱いが行われてきた。)

この「金星」のケースでも、先に乗っていた女性客のほうに優先使用権があったと考えられるが、いずれのケースも先に乗車していた女性客のほうが移動の憂き目に遭っている。だが、不快な思いをさせた代償として、上級の座席・寝台を用意することで決着させている。どちらの乗客を移動させるかは規則に規定されていないため、車掌の裁量に委ねられるが、旧国鉄時代もJR化以降も鉄道はサービス業なので、鉄道会社から見てリピーターになってほしいと思う客、お行儀のいい客、分別のある客のほうに上級の座席・寝台が用意されていることがわかる。読者のみなさんも、仮に自分が車掌の立場だったらいかがだろうか。たぶん、この車掌と同じように行動するだろう。

国鉄~JRの指定券は、途中駅から乗車する乗客に対しては、その乗客が乗車する駅の発車時刻までは発売してよいことになっているので、始発駅を発車した後も、指定券は途中駅で売れ続けることになる。当然、どの席が売れているかは始発駅出発時点から変化しているが、「金星」の時代は通信手段が発達しておらず、車掌には、始発駅発車時点でどの席が売れているかを示すデータが出発前に紙で渡されるだけだったから、始発駅出発後の指定券発売状況の変化を車掌がリアルタイムで知る手段はなかった。

これも旧国鉄が制定し、JR各社がほぼそのまま引き継いだ「旅客営業取扱基準規程」(旅客営業規則の運用通達に当たる)第168条では、「(注)指定席特急券を所持する旅客が、その指定駅で使用の請求をしなかつた場合は、列車が当該指定駅を発車後、相当の時間をおいて、旅客が乗車しなかつた事実を確認後他の旅客に発売するように注意すること。」とする乗務員向けの注意書きがある。ただ、実際にこの(注)のとおりに運用できるのは、始発駅出発前に車掌が渡された紙のデータ上で「売れていることになっている席に、実際には誰も乗ってこない」というケースに限られていた。車掌の手元のデータで空席となっていても、実際には始発駅出発後に途中駅で売れている可能性があるため、乗務員がこのような「発車後の転売」措置を執ることはかなり困難だったといえる。

通信技術の進歩により、車掌が携帯している端末にマルスの情報が逐次反映されるようになったのは比較的最近のことだ。冒頭で紹介した「Jタウンネット」の記事に登場する、グリーン車を割り当てられたBさんの大学生時代といえば、少なくとも20年くらい前のことで、「金星」の時代と大して変わらなかったはずである。

当時、大学生だったBさんを、同じ等級である普通車指定席の空席に案内したとしても、その席が途中駅で売れていた場合、再び移動してもらわなければならない可能性がある。しかし、たとえばこの列車がすでに青森県内に入っている場合、弘前までのわずかな区間で、途中駅からわざわざグリーン車に乗ってくるような客はほとんどいないだろう。従って、現時点で誰も座っていないグリーン席なら、おそらく弘前まで空席のままの可能性が高く、重複発売の調整にはちょうどいい--Bさんをグリーン車に案内するに当たり、車掌はおそらくそんなふうに考えたのではないだろうか。

当ブログでは、かねてから鉄道は公共交通であり、公共財であると訴えてきた。だが鉄道には、それと同時に輸送サービス業としての側面も持つ。乗客に気持ちよく利用してもらい、リピーターになってもらえるよう配慮することは輸送サービス業である以上、当然のことである。最近のJRはコロナ禍で苦しい状況にあるが、こうしたきめ細かな配慮、サービスの積み重ねこそが鉄道の明日を切り開くということも、忘れてはならないと思う。

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