稲わらのセシウム汚染拡大は、米作農家にも衝撃を与えている。田んぼに置かれている稲わらが汚染されていれば、その土壌まで汚染された可能性がきわめて高い。しかも、福島だけでなく、宮城や岩手で稲わら汚染が発覚している。
米作りでは田植えの前に細かく破砕した稲わらを田に鋤きこむ作業はよく知られ、わけても有機栽培農家に多い。稲わらが汚染されていることを知らず、田に鋤きこんだ農家があってもおかしくはない。新潟県も例外とはいえない。【野中昌法・新潟大学農学部教授】
米(玄米)の暫定規制値は、500Bq、米の作付けを可能とする水田土壌のセシウム濃度の上限値は5,000Bqだ。米は野菜類と比べてセシウム吸収率が格段に高い。政府の定める移行係数は0.1(野菜は最大で0.04前後)だ。土壌1kg中セシウムの10%が玄米に移行するため、原発周辺区域のほか、5,000Bqを上回った地域では米の作付けが制限される。
東北、関東など11県は、3月から5月にかけ、水田の放射能検査を実施した。
(a)福島県の汚染状況が突出している。最大値は、福島第一原発北西に位置する飯館村長泥の15,031q。同村前田の9,644Bq、原発西方にある本宮市長屋の4,984Bqと続く。玄米のセシウム濃度を試算すると、1,503Bq、964Bq、498Bqと残映規制値を大幅に超過するか、それに匹敵する数値だ。
福島県以外では、(b)栃木県では那須塩原市の1,826Bqが最も高く、日光市でも1,037Bqが検出された。
(c)宮城県では、最大で柴田町の693Bqだ。
(d)茨城県では、最大で竜ヶ崎市の496Bq。試算では規制値以下に収まる。
(e)新潟県では、県内の下越、中越、上越地域の計5地点では、最大30.5Bq。一見、日本一のブランド米「魚沼産コシヒカリ」は安泰のようだ。
しかし、県の検査だけでは安心とは到底言えない。原発から離れていても、放射能汚染とは決して無縁ではいられない。土壌検査がわずか5地点では、とても綿密とは言いがたい。しかも、県は検査地点を明らかにしていない。
知られざるホットスポットが県内に存在すれば、県の農業には大打撃となる。7月中旬、福島県に接する魚沼市・南魚沼市や阿賀町で土壌近くの空間線量を計測したところ、最大0.5μSv前後と非常に高い数値だった。さらに最近、阿賀地方に近い福島県喜多方市の水田から1,977Bqの高濃度セシウムが検出された。稲に吸収されたセシウムの約20%が玄米に蓄積し、そのうち精米には約40%が残留する。【野中教授】
仮に喜多方市に近い放射能汚染があった場合、玄米段階で197Bq、精米後は78Bqという試算になる。暫定規制値を大きく下回るものの、「魚沼産コシヒカリ」も「セシウム米」騒動に巻きこまれるかもしれない。
土壌の性質は、地域によって千差万別だ。移行係数も田んぼの区画で異なるため、1ヶ所だけではあまり意味がない。【森敏・東大名誉教授】
水田土壌のサンプル検査は、どこまで信頼できるのか。検査は、土の表層から15cmまでの土壌を採取しているが、「深すぎる」という異論がある。
セシウム137は、表層から5cm前後の場所に90%以上が蓄積する。15cmまで掘り起こすのは、いかにも深すぎる。農水省が指導したこの方法では、セシウム汚染が正確に検出されたとは考えにくい。【野中教授】
疑問は、これだけにとどまらない。
検査当時は、田んぼが乾燥した状態(乾田)であり、田起こし後に農業用水が引かれたのは1ヵ月以上も後だった。水が引かれると田んぼの環境は激変する。用水が汚染されていない、とは言いきれない。ために、水田汚染が進行する恐れはゼロではない。セシウムは土壌に蓄積されるだけでなく、水溶性があり、水と一緒に稲に吸収される。とりわけ、土壌中の粘土含量、有機物含量の低い田んぼではセシウムが根から吸収されやすい。【野中教授】
農水省は、田んぼに水を張った状態での土壌検査を推奨していない。
穀倉地帯の東北、関東・信越が原発事故の直撃を受けた以上、汚染状況を正確に知りたいのが消費者心理だ。
しかし、生育段階の米の汚染データはあまり入手できない。
では、収穫後の玄米検査はどのように行われるのか。
玄米検査は、現在農産物の線量測定に使用しているゲルマニウム検査機を使う方向で調整している。検査の対象地域や米のサンプリング方法、検査期間など具体的な内容は、都道府県の参考となる指針を定めるべく検討中だ。【農水省消費流通課】
風評を打ち消すには、正確なデータを消費者に示すしかない。
稲作検査を充実させて全情報を公開し、消費者の信頼を勝ちとるのが最善策だ。玄米検査前に、きめ細かい土壌検査を改めて実施すべきだ。例えば、表層から5cm、10cm、15cmと念入りにサンプルを採取することで全容が把握できる。それを消費者に開示すれば、安心して買ってもらえると思う。【野中教授】
以上、徳丸威一郎・奥村隆(本誌)「『セシウム米』が実る秋」(「サンデー毎日」2011年8月7日増大号)に拠る。
余談ながら、このタイトルは、「解剖台の上のミシンと蝙蝠傘との偶然の出会い」(ロートレアモン)のように美しい。そして、残酷だ。現実は、超現実主義よりもシュールだ。
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米作りでは田植えの前に細かく破砕した稲わらを田に鋤きこむ作業はよく知られ、わけても有機栽培農家に多い。稲わらが汚染されていることを知らず、田に鋤きこんだ農家があってもおかしくはない。新潟県も例外とはいえない。【野中昌法・新潟大学農学部教授】
米(玄米)の暫定規制値は、500Bq、米の作付けを可能とする水田土壌のセシウム濃度の上限値は5,000Bqだ。米は野菜類と比べてセシウム吸収率が格段に高い。政府の定める移行係数は0.1(野菜は最大で0.04前後)だ。土壌1kg中セシウムの10%が玄米に移行するため、原発周辺区域のほか、5,000Bqを上回った地域では米の作付けが制限される。
東北、関東など11県は、3月から5月にかけ、水田の放射能検査を実施した。
(a)福島県の汚染状況が突出している。最大値は、福島第一原発北西に位置する飯館村長泥の15,031q。同村前田の9,644Bq、原発西方にある本宮市長屋の4,984Bqと続く。玄米のセシウム濃度を試算すると、1,503Bq、964Bq、498Bqと残映規制値を大幅に超過するか、それに匹敵する数値だ。
福島県以外では、(b)栃木県では那須塩原市の1,826Bqが最も高く、日光市でも1,037Bqが検出された。
(c)宮城県では、最大で柴田町の693Bqだ。
(d)茨城県では、最大で竜ヶ崎市の496Bq。試算では規制値以下に収まる。
(e)新潟県では、県内の下越、中越、上越地域の計5地点では、最大30.5Bq。一見、日本一のブランド米「魚沼産コシヒカリ」は安泰のようだ。
しかし、県の検査だけでは安心とは到底言えない。原発から離れていても、放射能汚染とは決して無縁ではいられない。土壌検査がわずか5地点では、とても綿密とは言いがたい。しかも、県は検査地点を明らかにしていない。
知られざるホットスポットが県内に存在すれば、県の農業には大打撃となる。7月中旬、福島県に接する魚沼市・南魚沼市や阿賀町で土壌近くの空間線量を計測したところ、最大0.5μSv前後と非常に高い数値だった。さらに最近、阿賀地方に近い福島県喜多方市の水田から1,977Bqの高濃度セシウムが検出された。稲に吸収されたセシウムの約20%が玄米に蓄積し、そのうち精米には約40%が残留する。【野中教授】
仮に喜多方市に近い放射能汚染があった場合、玄米段階で197Bq、精米後は78Bqという試算になる。暫定規制値を大きく下回るものの、「魚沼産コシヒカリ」も「セシウム米」騒動に巻きこまれるかもしれない。
土壌の性質は、地域によって千差万別だ。移行係数も田んぼの区画で異なるため、1ヶ所だけではあまり意味がない。【森敏・東大名誉教授】
水田土壌のサンプル検査は、どこまで信頼できるのか。検査は、土の表層から15cmまでの土壌を採取しているが、「深すぎる」という異論がある。
セシウム137は、表層から5cm前後の場所に90%以上が蓄積する。15cmまで掘り起こすのは、いかにも深すぎる。農水省が指導したこの方法では、セシウム汚染が正確に検出されたとは考えにくい。【野中教授】
疑問は、これだけにとどまらない。
検査当時は、田んぼが乾燥した状態(乾田)であり、田起こし後に農業用水が引かれたのは1ヵ月以上も後だった。水が引かれると田んぼの環境は激変する。用水が汚染されていない、とは言いきれない。ために、水田汚染が進行する恐れはゼロではない。セシウムは土壌に蓄積されるだけでなく、水溶性があり、水と一緒に稲に吸収される。とりわけ、土壌中の粘土含量、有機物含量の低い田んぼではセシウムが根から吸収されやすい。【野中教授】
農水省は、田んぼに水を張った状態での土壌検査を推奨していない。
穀倉地帯の東北、関東・信越が原発事故の直撃を受けた以上、汚染状況を正確に知りたいのが消費者心理だ。
しかし、生育段階の米の汚染データはあまり入手できない。
では、収穫後の玄米検査はどのように行われるのか。
玄米検査は、現在農産物の線量測定に使用しているゲルマニウム検査機を使う方向で調整している。検査の対象地域や米のサンプリング方法、検査期間など具体的な内容は、都道府県の参考となる指針を定めるべく検討中だ。【農水省消費流通課】
風評を打ち消すには、正確なデータを消費者に示すしかない。
稲作検査を充実させて全情報を公開し、消費者の信頼を勝ちとるのが最善策だ。玄米検査前に、きめ細かい土壌検査を改めて実施すべきだ。例えば、表層から5cm、10cm、15cmと念入りにサンプルを採取することで全容が把握できる。それを消費者に開示すれば、安心して買ってもらえると思う。【野中教授】
以上、徳丸威一郎・奥村隆(本誌)「『セシウム米』が実る秋」(「サンデー毎日」2011年8月7日増大号)に拠る。
余談ながら、このタイトルは、「解剖台の上のミシンと蝙蝠傘との偶然の出会い」(ロートレアモン)のように美しい。そして、残酷だ。現実は、超現実主義よりもシュールだ。
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