語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【震災】原発>低線量放射性物質の害 ~チェルノブイリ膀胱炎~

2011年08月17日 | 震災・原発事故
(1)チェルノブイリ膀胱炎
 「児玉演説」は、「チェルノブイリ膀胱炎」に言及している。
 児玉龍彦・東京大学アイソトープ総合センター長が7月に『医学のあゆみ』に掲載した論文によれば、チェルノブイリ原発事故(86年)当時は100万人当たりの膀胱癌の発症者数が26.2人だったのが、01年には43.3人と65%増え、前癌症状の膀胱炎が広範に生じていた。炎症のみられた患者の尿中のセシウム137濃度は、高汚染地域に住む患者では1リットル当たり約6Bqだった。
 厚労省による母乳調査で福島県の女性から検出されたセシウム濃度2~13Bqは、チェルノブイリの炎症患者のセシウム濃度に匹敵する。「直ちに健康に危険がない」レベルどころではない。既に膀胱癌などのリスクが増えるおそれがある段階だ。【児玉演説】
 6月、フランスの民間機関が福島市の子ども(6~16歳)10人の尿を調査したところ、全員からセシウム134が0.41~1.13Bq、セシウム137が0.43~1.30Bq検出されている。値は低いが、子どもは放射線の影響を受けやすい。
 セシウムが尿を通じて体外に排出されることはよく知られている。問題は、排泄ルートだ。特に尿がたまる膀胱の粘膜などは、セシウムに被曝する時間が長くなる。【福島昭治・中央労働災害防止協会日本バイオアッセイ研究センター所長】
 児玉論文の元となる「チェルノブイリ膀胱炎」の研究を10年近く続けた福島所長が、病変を見つけたのは98年頃だった。
 ウクライナの前立腺肥大の患者の膀胱は、上皮の下の層が腫れて血管や繊維が増え、すりガラス状に変化していた。また、特定の遺伝子の変異や酸化による障害があり、癌化する恐れのある慢性の増殖性膀胱炎だった。組織を検査した131人中6割にそうした病変が見られた。病変が特異なため、セシウムの影響と考え、「チェルノブイリ膀胱炎」と名付けた。日本でも被曝と膀胱炎の関係を念頭に置く必要がある。今後、長期的な健康調査が不可欠だ。個人レベルの対策では、尿を我慢せず、トイレに頻繁に行くこと。【福島所長】

(2)国が内部被曝を軽視する理由
 国が設定する被曝線量安全基準は、実際の測定値を大幅に上回っている。だから、楽観論が根強い。
 政府は、国際放射線防護委員会(ICRP)の見解を根拠にしている。そのICRPの主な根拠は、47年に広島、翌年に長崎に設置された「米国原爆傷害調査委員会(ABCC)(現・日米共同研究機関「放射線影響研究所」による被曝データに基づく研究成果だ。
 放射線影響研究所には、被爆時の行動履歴などが保管され、被曝線量の推定に使われている。50年から約12万人の追跡調査を始め、死因、罹患した病気、被曝線量の関係を調べた結果、疫学的には100mSv以下の被曝では有意な関係が認められなかった。【長瀧重信・長崎大学名誉教授/放射線影響研究所元理事長】
 しかし、この研究は内部被曝の影響が考慮されていない、と指摘する専門家は少なくない。
 炭の火の前に座って火にあたるのと、燃えている炭を口の中に入れるのとでは全く違う。これが外部被曝と内部被曝の違いだ。内部被曝の影響は、外部被曝の600倍に及ぶ。ICRPに20年間籍を置いたジャック・バランタイン博士は、退職後、内部被曝のICRPの計算は900倍も過小評価している、と証言している。【クリストファー・バズビー・欧州放射線リスク委員会(ECRR)科学議長】
 バズビー議長によれば、福島原発200km圏内の今後の癌発生率は、住民が避難せず定住を続けるならば、ICRPの予測で6,000人余り、ECRRの予測で416,000人余り。そのリスク評価は、70倍近くの開きがある。
 なぜABCCは内部被曝による影響を考慮しなかったのか。
 ABCCが設置されたのは、米ソ間で核戦争が起きる可能性があった時期だった。核兵器を使えば放射線が自国の軍隊、敵国の軍隊にどんなダメージを与えるのかを研究するのが本来の目的だった。体内でじわじわ影響を与える内部被曝には関心がなかった。さらに、放射性降下物の影響を認めると、無制限に多数の人間に危害を加える兵器を使ってはならない、とする国際人道法に違反する。このため、内部被曝を無視する政策をとり、日本政府もこれに追従した。【沢田昭二・名古屋大学名誉教授】

(3)低線量放射性物質の害
 原発事故の長期化に伴い、環境中に放出される放射性物質が少しずつ増えている。低レベルの放射性物質が国土を徐々に覆いつつある。
 低レベル放射線の影響では、スウェーデンの公衆衛生学の専門家、トンデル氏の研究がある。
 チェルノブイリから1,000km離れたスウェーデン北部は、事故後の降雨で12,000平方kmの範囲に1平方m当たり37,000Bqのセシウム137が蓄積した。88~96年の癌患者22,409人を調査したところ、癌患者は汚染度合いに比例して増えていた。3,000Bq以下の地域を「非汚染地域」と見なし、癌発生リスクを「1」として調査したところ、3,000~2.9万Bqでは1.05、3万~3.9万Bqでは1.03、4万~5.9万Bqでは1.08、6万~7.9万Bqでは1.10、8万~12万Bqでは1.21だった。
 トンデル研究における癌の増加は放射能汚染による、とみるのが最も合理的な説明だ。癌患者22,409人中849人がチェルノブイリからの放射能汚染による、とトンデル氏らは見積もっている。この発癌リスクは、広島・長崎の10~20倍だ。【今中哲二・京都大学原子炉実験所助教】
 ちなみに、文科省のモニタリング調査では、福島県浪江町や飯館村の300万Bq以上を最高に、福島市、郡山市、二本松市などの一部では10万~30万Bq、宮城県では丸森町が3万~30万Bq、気仙沼市、女川町、栗原町の一部などが1万~3万Bq、栃木県では那須町、日光市などの一部が1万~6万Bqとされる。3,000Bq以上の汚染地域となると、さらに広範囲に及ぶ可能性が高い。

 以上、大場弘博(本誌)「セシウムが引き起こす『膀胱がん』」(「サンデー毎日」2011年8月21・28日号)に拠る。
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