語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【震災】原発>食品>産地偽装

2011年08月24日 | 震災・原発事故
 汚染山菜を福島県民以上に食べているのは、首都圏の消費者かもしれない。
 というのは、出荷制限を受けている時期に裏ルートで首都圏にどんどん出荷されたからだ。

(1)山菜・筍・苺
 (a)各種山菜を都内の卸業者に送り届けてきた会津地方の男性は、今年は放射能のおかげで競争相手が少ないから山菜を採り放題だった。福島県産だと、卸業者も「それでは売れない」と言うので、話し合った末、新潟、山形県産にして出荷することにした。競りにかけるわけじゃないから、そんなことはどうにでもなるわけだ。本当の産地を言ったら、店が買ってくれないから仕方ない。「俺だって生活がかかっているしな」。しかし、放射能汚染をネタに卸業者に買い叩かれたから、去年の半値にもならなかった。

 (b)浜通りの男性は、同じ手口で福島県産山菜を首都圏の業者に売り払った。
 彼と10年以上付き合いのある業者から依頼があった。「東日本大震災と放射能騒ぎで東北産の山菜が品不足だ。関東のスーパーではタケノコが1本800円もするので、そっちでなんとか調達できないか」
 浜通りではタケノコから基準値オーバーのセシウムが検出され、県が採取、出荷自粛を呼びかけていたが、「自粛したら俺たち一家が干上がってしまう」。竹林の持ち主が、「竹がこれ以上増えたら手に負えなくなる。どんどん採ってくれ」と言うので、3日に1回のペースで東京に運んだ。もちろん、トラックで。すべて新潟、山形、青森県産として売り、都内の業者も「了解済み」だった。
 ちなみに、この男性の主な採取地いわき市内では、タケノコからセシウム134とセシウム137の合算で650Bq(暫定基準値500Bq)が検出されている。

 (c)この男性は、イチゴも捌いた。
 イチゴは出荷制限を受けていないが、放射能騒動の影響で売れ行きがガタ落ちだ。福島県民が福島県産を警戒しているのだから、どうしようもない。それで、浜通り、中通りのイチゴ農家からブツを安く買い集めて、横浜と名古屋に運んだ。タケノコと同じで、福島県産とは言えない。千葉、埼玉、栃木県産と称して売っている。売値は、関東産の相場の半分だから、買い取り業者は大喜びだ。

(2)トマト
 福島県のあるスーパーマーケットの従業員によれば、千葉県産はすぐ売れて次々と補充されるが、隣に置かれた県内産は、、形も色もいいが、手を出す客はほとんどいない。
 県内産が売れないからといって、廃棄処分にはできない。売れ残ったトマトは、閉店後の今夜か開店後の明朝、店長の指示で千葉県産の売場にそっと移す。ずっとその繰り返しだ。
 近いうちに「産地表示の札を書き換える」と店長から言われている。売場を同じくして、札の表示を「千葉・福島産」とするのだ。そうしないと、バレたときに産地偽装で問題にされるから。

(3)梅
 中通りにあるスーパーマーケットの店長によれば、出荷制限地域の○○産の梅をうっかり並べたら、客から注意され、すぐに撤去した。納入業者にきつく文句を言ったら、地元JAの担当者から「うちが扱う梅は独自検査でセーフだから、どうしても売ってほしい」と頼まれたそうだ。それでまた売ることになった。和歌山県産がキロ980円、栃木県産がキロ580円、福島県産がキロ280円の値段をつけた。でも、なかなか売れなくて、梅の下側から黒く腐れてくる。JAに睨まれて得はないから、仕方なく置いているだけだ。
 福島県内で行き場を失った梅は、南下、北上を続けながら産地を偽装して今なお県外のスーパーで売られている。

(4)米
 被曝検査は、第三者が立ち会った公明正大なものでないと消費者は納得しないだろう。しかし、低い数値をわざと発表して高濃度被曝米を無制限に流通させてしまう恐れが充分ある。
 当然ながら、福島県産では買う人がいないから産地が偽装される。ひとめぼれ、あきたこまちは秋田、宮城、岩手県産になる。コシヒカリは新潟、千葉、埼玉、栃木県産にされる。
 昔ならともかく、今のJAには偽装できない。が、生産者から米国卸業者に直接売られる流通米は、産地をどうにでも変えられる。しかも1俵5,000円前後で買い叩かれ、被曝検査をしないコメが大量に出回るはずだ。

(5)牛
 20km圏内には牛が3,500頭、豚が3万頭、鶏が45万羽取り残されたが、多くが被曝したまま餓死した。
 他方、20km圏外の被曝家畜が食肉処理されて流通している。
 普通、仔牛は生後10ヵ月で、体重がオスなら300kg、メスで280kgのとき売られる。原発周辺からは、生後3ヵ月で100kg未満の牛も出てくる。それでも、ブランド化が進んだ飯館村の和牛は血統がよいせいか、40万円近くで競り落とされた。一般的な和牛なら10万円そこそこだから、異常な高値だ。6月には臨時の競り市が何度も開かれ、28日に飯舘村の最後の1頭が落札された。
 5月の競り市までは、ブランドの米沢牛、前沢牛を抱える山形、岩手県の業者が買っていたが、6月から買わなくなった。肉にしても被曝が明らかになったら、ブランドに傷がつくと判断したのだろう。
 高値でもどんどん買うのは、実は宮崎県を中心にした九州勢だ。口蹄疫で牛を殺処分され、国から入った補償金で買っているらしい。3ヵ月後には、どこでも生まれようと産地は肥育地にできるから、被曝牛が有名な宮崎ブランドになってしまう。高値といっても、原発事故が起きる前の相場と比べたら、ずっと安い。だから血統の良い牛だけ買い漁るのだ。
 去年の7割安で買い叩かれる牛もいるから、「東京に生きたまま運んだほうがマシ」だ。

(6)鰹
 6月28日に宮城県気仙沼港に初水揚げされた350トンのカツオは、実はいわき市沖、つまり事故原発の沖合で捕獲されたものだ。

(7)地産・非地消 ~野菜~
 福島市と白河市を結ぶ中通りの野菜生産者によれば、野菜は例年どおり県内、県外に出荷するが、自家消費用は作付けしないことにした。土壌が放射能に汚染されていたら、野菜だって危ないだろう。そんなもの、家族に食わせられない。国や県は「畑地の放射能物質は基準以下」と言っているが、汚染されていることには変わりないからね。その数値だって、いちばん低いのを出しているかもしれない。いちがいに信用できない。だから、わが家で食べる野菜は、県外産をスーパーで買っている。安心・安全のためには、それしかない。

 以上、吾妻博勝「『地元在住記者』が苦渋の告発! 流通の闇に消える福島産『被曝食品』」(『日本を脅かす! 原発の深い闇 東電・政治家・官僚・学者・マスコミ・文化人の大罪』、宝島社、2011)に拠る。

    *

 3月31日、シンガポール政府は、静岡県産の小松菜から648Bq/kgのヨウ素131などを検出したとして、静岡県産の野菜と果物の輸入を即時停止すると発表した。
 この後、シンガポールでは兵庫県産の白菜からも同国の基準(100Bq/kg)を上回る放射性ヨウ素が検出され(118Bq/kg)、輸入停止措置は福島、茨城、栃木、群馬、千葉、愛媛、神奈川、東京、埼玉、静岡、兵庫の11都県に広がった。

 ところが、「愛媛県産」と書類に記載されていたアオジソ(大葉)は、実は福島県産であることが判明した。続いて、「静岡県産」とされた小松菜は、埼玉県産、「兵庫県産」とされた白菜は茨城県産であることも明らかになった。
 ここにおいて、食品放射能汚染の問題は、産地偽装の問題へ装いを変えた。
 仲卸の段階ですでに産地があやふやだとすれば、その先にある小売のスーパーや八百屋で表示される産地は信用しがたい。
 
 埼玉県産の小松菜を「静岡県産」、茨城県産の白菜を、「兵庫県産」と偽って輸出していたのは、東京築地市場の青果仲卸業者「築地三徳」だ。放射性ヨウ素が検出されたのは、同社がシンガポールの日本料理店向けに輸出した野菜だった。

 問題の第一、JAS法ではレストランなどの業務用として出荷する場合には産地表示義務はないから、国内法による処分はない。ただし、都道府県の条例による処分はあり得るし、実際、都は中央卸売市場条例違反で処分した。
 第二、「産地偽装」が行われたのは小松菜2束に白菜2個にすぎず、しかも、これは業者が築地場内の同業者から分けてもらったものだ(「仲間買い」)。つまり、シンガポールの基準を超えるヨウ素131などを帯びた小松菜、白菜、その他が築地市場で捌かれている。

 以上、明石昇二郎「魚の放射能汚染はこれからが本番」(前掲書)に拠る。
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