原子力安全・保安院も、当然、官僚が政治家をあやつるテクニック【注】を用いる。「意見聴取会」もその道具の一つだ。
(1)ストレステストの評価結果の妥当性を判断すべき保安院は、「再稼働の可否は政治レベルで総合的な判断を行う」ものとし、責任を転嫁した。
ちなみに、保安院が提出した審査書を受ける安全委の斑目春樹・委員長はストレステストの内容そのものに疑問を投げかけている。
(2)「ストレステスト意見聴取会」では、大飯原発3、4号機の安全性評価について論点や問題点がいくつも出た。
にもかかわらず、保安院は途中で議論を打ち切った。
(3)伊方原発で特に懸念されるのは、基準地震振動の想定の甘さだ。伊方原発の近くには日本最大の活断層である「中央構造線」が走っている(最大1,000km)。にもかかわらず、四電が伊方で地震の評価対象としているのは、その一部(54km)だけだ。
井野博満・東京大学名誉教授jは、「伊方原発設計の前提となっている基準地震動は過小評価との指摘があるので、東日本大震災の知見を踏まえた見直しをすべき」と訴えたが、保安院側は「地震動評価の見直しは他の意見聴取会で行うのでここではやらない」と逃げた。
(3)志賀2号機では、津波による浸水を防ぐ「水密扉」が全部で14か所に設置されているが、すべて主導で開閉する仕様になっている。津波に襲われた時、確実に閉めるためにどんな対策をしているかを井野名誉教授が質したら、「開けたらすぐ閉める」旨の貼り紙をした、と回答があった。
“貼り紙”が津波対策と言えるだろうか。
これまでの審査を総合すると、電源車や非常用ポンプの配備以外は、新たに施した対策は基本的にないに等しい。
にもかかわらず、電力会社が出してきた評価結果を保安院は“妥当”とした。その審査書の記述からは、「結論ありき」の姿勢が読み取れる。
(4)「結論ありき」の姿勢が如実に表れているのが、審査書の“書き方”だ。伊方の審査書は、そのほとんどが、先に再稼働が決まった大飯原発と同じ構成、表現なのだ。
<例>大飯原発の審査書では「1.8倍の地震」と書かれている箇所が伊方では「1.5倍」に、同様に「11.4mの津波高さ」の部分が「14.2m」と数値部分だけが書き換えられている。大部分は、大飯原発の審査書をコピー&ペーストしたような文章となっている。
保安院側が結論を変えないつもりであることがよくわかる。
中身もいい加減だ。
<例>伊方の審査書では、基準地震動(570ガル)の1.5倍の「855ガル」に耐えられるとしている。その根拠は、「福島第一を襲ったのは基準地震動の1.1倍の揺れだったから、1.5倍くらいを想定しておけばいいだろう」というくらいのものだ。
しかし、実際は、2007年の中越沖地震で柏崎刈羽原発は最大1,699ガルの揺れに襲われている。855ガルを超えたら「想定外」と言い訳するだけだろう。
(5)こうした傾向は、保安院が実施している他の意見聴取会にも見られる。設備の健全性を評価する「高経年化(老朽化)技術評価に関する意見聴取会」がそうだ。
長年の原発運転によって構造物がどれだけ弱くなるかを算出する「脆化予測式」が学術的に誤っていることが判明している。井野名誉教授の指摘に、他の委員も、事実上誤りを認めた。これは設備の規格自体を見直さなければならないほど大きな問題だ。
にもかかわらず、保安院は「ここは学術的議論をする場ではない」という言い逃れで押し通し、ついに美浜2号機の運転延長の手続きが決定された。
【注】「【官僚】政策立案の成功が続く最大のからくり ~審議会システム~」
「【政治】官僚が政治家をあやつるテクニック ~財務省による民主党支配~」
以上、井野博満(東大名誉教授)「「大飯の審査書をコピー&ペースト」「いい加減な地震想定」・・・・“ドミノ再稼働”への無責任論議を明かす」(「SAPIO」2012年8月1・8日号)に拠る。
*
原子力安全・保安院は、2月13日、大飯原発3号機、4号機のストレステスト審査書を原子力安全委員会に提出した。続いて、伊方3号機の審査書を3月26日に提出し、いずれも事業者のストレステスト報告書は妥当だと結論づけた。
審査書の結論部分の文言は、「福島第一原子力発電所を襲ったような地震・津波が来襲しても同原子力発電所事故のような状況にならないことを技術的に確認する」。
これは到底、技術的にみて判断基準と言えるものではない。福島第一原発と大飯原発/伊方原発では、設定されている基準地震動の大きさも違うし、想定された津波の高さも異なる。同じような地震、同じような津波とは何を意味するか、まったく論拠がない。
(1)津波(保安院の理屈)・・・・福島第一原発で設計時に想定されていた津波の高さは5.5mで、来襲した津波の高さは15mだった。大飯原発では当初の設計高さは1.9mで、その高さに9.5mを足した11.4mの津波に耐える対策を講じてあるので、福島第一原発と同等の津波がやってきても大丈夫。
9.5mを足すことに何の意味があるのか?
(2)地震(保安院の理屈)・・・・福島第一原発では600ガルの地震動が設定されていて、実際に襲ったのは1有り程度(75ガル)超の地震だった。よって、福島同様の地震でも大丈夫。
(1)と同じく奇妙な理屈だ。
(2)には、奇妙以上の大きな問題が隠れている。それは、福島原発事故では、地震によって設備や機器が事故の引き金になるような損害を受けなかった、ということを前提している問題だ。
保安院は、これは「福島事故の技術的知見に関する意見聴取会」で審議した結論だ、という。だが、この意見聴取会は、東電と原子力安全機構(JNES)の解析結果だけをもとに議論している。その解析が偏ったものではないか、大いに疑問だ。
地震による機器や配管の損傷が疑われる(田中三彦『原発を終わらせる』、石橋克彦・編、岩波新書、pp32-34)。
政府事故調も国会事故調も地震による損傷の可能性を否定していない。
以上、井野博満(東京大学名誉教授)「市民の常識と原発再稼働 ~安全は誰が判断するものなのか~」(「世界」2012年6月号)に拠る。
↓クリック、プリーズ。↓
(1)ストレステストの評価結果の妥当性を判断すべき保安院は、「再稼働の可否は政治レベルで総合的な判断を行う」ものとし、責任を転嫁した。
ちなみに、保安院が提出した審査書を受ける安全委の斑目春樹・委員長はストレステストの内容そのものに疑問を投げかけている。
(2)「ストレステスト意見聴取会」では、大飯原発3、4号機の安全性評価について論点や問題点がいくつも出た。
にもかかわらず、保安院は途中で議論を打ち切った。
(3)伊方原発で特に懸念されるのは、基準地震振動の想定の甘さだ。伊方原発の近くには日本最大の活断層である「中央構造線」が走っている(最大1,000km)。にもかかわらず、四電が伊方で地震の評価対象としているのは、その一部(54km)だけだ。
井野博満・東京大学名誉教授jは、「伊方原発設計の前提となっている基準地震動は過小評価との指摘があるので、東日本大震災の知見を踏まえた見直しをすべき」と訴えたが、保安院側は「地震動評価の見直しは他の意見聴取会で行うのでここではやらない」と逃げた。
(3)志賀2号機では、津波による浸水を防ぐ「水密扉」が全部で14か所に設置されているが、すべて主導で開閉する仕様になっている。津波に襲われた時、確実に閉めるためにどんな対策をしているかを井野名誉教授が質したら、「開けたらすぐ閉める」旨の貼り紙をした、と回答があった。
“貼り紙”が津波対策と言えるだろうか。
これまでの審査を総合すると、電源車や非常用ポンプの配備以外は、新たに施した対策は基本的にないに等しい。
にもかかわらず、電力会社が出してきた評価結果を保安院は“妥当”とした。その審査書の記述からは、「結論ありき」の姿勢が読み取れる。
(4)「結論ありき」の姿勢が如実に表れているのが、審査書の“書き方”だ。伊方の審査書は、そのほとんどが、先に再稼働が決まった大飯原発と同じ構成、表現なのだ。
<例>大飯原発の審査書では「1.8倍の地震」と書かれている箇所が伊方では「1.5倍」に、同様に「11.4mの津波高さ」の部分が「14.2m」と数値部分だけが書き換えられている。大部分は、大飯原発の審査書をコピー&ペーストしたような文章となっている。
保安院側が結論を変えないつもりであることがよくわかる。
中身もいい加減だ。
<例>伊方の審査書では、基準地震動(570ガル)の1.5倍の「855ガル」に耐えられるとしている。その根拠は、「福島第一を襲ったのは基準地震動の1.1倍の揺れだったから、1.5倍くらいを想定しておけばいいだろう」というくらいのものだ。
しかし、実際は、2007年の中越沖地震で柏崎刈羽原発は最大1,699ガルの揺れに襲われている。855ガルを超えたら「想定外」と言い訳するだけだろう。
(5)こうした傾向は、保安院が実施している他の意見聴取会にも見られる。設備の健全性を評価する「高経年化(老朽化)技術評価に関する意見聴取会」がそうだ。
長年の原発運転によって構造物がどれだけ弱くなるかを算出する「脆化予測式」が学術的に誤っていることが判明している。井野名誉教授の指摘に、他の委員も、事実上誤りを認めた。これは設備の規格自体を見直さなければならないほど大きな問題だ。
にもかかわらず、保安院は「ここは学術的議論をする場ではない」という言い逃れで押し通し、ついに美浜2号機の運転延長の手続きが決定された。
【注】「【官僚】政策立案の成功が続く最大のからくり ~審議会システム~」
「【政治】官僚が政治家をあやつるテクニック ~財務省による民主党支配~」
以上、井野博満(東大名誉教授)「「大飯の審査書をコピー&ペースト」「いい加減な地震想定」・・・・“ドミノ再稼働”への無責任論議を明かす」(「SAPIO」2012年8月1・8日号)に拠る。
*
原子力安全・保安院は、2月13日、大飯原発3号機、4号機のストレステスト審査書を原子力安全委員会に提出した。続いて、伊方3号機の審査書を3月26日に提出し、いずれも事業者のストレステスト報告書は妥当だと結論づけた。
審査書の結論部分の文言は、「福島第一原子力発電所を襲ったような地震・津波が来襲しても同原子力発電所事故のような状況にならないことを技術的に確認する」。
これは到底、技術的にみて判断基準と言えるものではない。福島第一原発と大飯原発/伊方原発では、設定されている基準地震動の大きさも違うし、想定された津波の高さも異なる。同じような地震、同じような津波とは何を意味するか、まったく論拠がない。
(1)津波(保安院の理屈)・・・・福島第一原発で設計時に想定されていた津波の高さは5.5mで、来襲した津波の高さは15mだった。大飯原発では当初の設計高さは1.9mで、その高さに9.5mを足した11.4mの津波に耐える対策を講じてあるので、福島第一原発と同等の津波がやってきても大丈夫。
9.5mを足すことに何の意味があるのか?
(2)地震(保安院の理屈)・・・・福島第一原発では600ガルの地震動が設定されていて、実際に襲ったのは1有り程度(75ガル)超の地震だった。よって、福島同様の地震でも大丈夫。
(1)と同じく奇妙な理屈だ。
(2)には、奇妙以上の大きな問題が隠れている。それは、福島原発事故では、地震によって設備や機器が事故の引き金になるような損害を受けなかった、ということを前提している問題だ。
保安院は、これは「福島事故の技術的知見に関する意見聴取会」で審議した結論だ、という。だが、この意見聴取会は、東電と原子力安全機構(JNES)の解析結果だけをもとに議論している。その解析が偏ったものではないか、大いに疑問だ。
地震による機器や配管の損傷が疑われる(田中三彦『原発を終わらせる』、石橋克彦・編、岩波新書、pp32-34)。
政府事故調も国会事故調も地震による損傷の可能性を否定していない。
以上、井野博満(東京大学名誉教授)「市民の常識と原発再稼働 ~安全は誰が判断するものなのか~」(「世界」2012年6月号)に拠る。
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