(1)JR東海は、昨年9月下旬、「環境影響評価方法書」を計画沿線上の住民に縦覧し、10月から説明会を開催した。
リニア新幹線は、全行程の8割が地下だ。時速500kmで大都市の地下をも走り抜ける。膨大な量の建設残土、水源の枯渇、直径30mの立て杭、振動や騒音・・・・市民の疑問は尽きない。
ところが、1時間半の説明会のうち1時間がビデオ上映。当然、質問時間は短くなるが、住民の疑問に具体的に回答せず、時刻が来たら無言でピタリと閉会。
(2)説明会のあと、12月から今年1月にかけて川崎市の「環境影響評価審議会」が開催されたが、審議会委員もJR東海の対応に本気で怒っていた。
方法書の縦覧にあたり、JR東海は市民からのパブリックコメントを募集し、集まった150件の意見のほとんどは反対や疑問で占められていた。ところが、こうした疑問に対し、JR東海は審議会で「・・・・といったご意見をいただいています」と紹介しただけ。さすがに審議会委員が噛みついたが、市民の意見を反映させるのは「これからやる」、立杭工事の時期などは「環境影響評価準備書の段階まで詰めてから説明する」。
つまり、JR東海は着工寸前まで情報を出さない、というのだ。
(3)2010年2月、国土交通省の交通政策審議会に設置された「鉄道部会・中央新幹線小委員会」に、この事業の妥当性が諮問され、20回以上の審議を経て昨年5月12日「妥当」との答申が出た。
小委員会はセレモニーだった。特に、昨年4月14日に開催された耐震性に係る議論は余りに短かった。前月に東日本大震災が起きたばかりなのに、審議は、JR東海の説明を受けたあと、わずか15分で「耐震への追加対策は不要」と判断を下した【注】。
しかも、民意を完全に無視した。パブリックコメントで集まったのは888。うち、計画中止や再検討を訴えるものは648件。計画推進を望む声はわずかに16件。ところが、家田仁・鉄道部会・中央新幹線小委員会委員長(東大大学院工学系研究科教授)は、これら反対の声に対し、「批判は答申を覆す意見ではない」と切り捨てた。
その後の各地の方法書縦覧でも、パブリックコメントの総数は1,042件。ほとんどが反対意見で占められたが、JR東海は「具体的対策は2013年の準備書で示す」と回答する。
いったい説明会やパブコメは何のために存在するのか。
(4)川端俊夫・元国鉄技師は、1961年、リニア鉄道のアイデアを月刊『車両工学』に載せ、それを読んだ鉄道技術研究所が、翌1962年から研究開発を始めた。その川端元技師は、リニアは新幹線の40倍も電力を消費する、との投稿を1989年8月7日付け朝日新聞に載せた。
「いや、3倍だ」という反論を尾関雅則・理事長(当時)が同年9月4日付け朝日新聞に載せた。
今年6月13日、リニア中央新幹線建設促進岐阜県期成同盟とJR東海が主催する中津川市での説明会の配布資料に、品川・大阪間の消費電力は74万kWとある。ほぼ原発1基分に相当する電力だ。
昨年5月14日に浜岡原発が運転停止したわずか10日後、葛西敬之・JR東海会長は、産経新聞に談話を載せた。いわく、「原発継続にしか活路はない」「原子力の利用には、リスクを承知のうえで、それを克服・制御する国民的覚悟が必要。政府は原発をすべて速やかに稼働させるべきだ」うんぬん。
【注】リニア新幹線は、南アルプスの糸魚川静岡構造線や中央構造線などの巨大断層を横切る。
以上、樫田秀樹(ジャーナリスト)「疑問だらけのリニア新幹線 ~そもそも必要か?~」(「世界」2012年9月号)に拠る。
↓クリック、プリーズ。↓
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リニア新幹線は、全行程の8割が地下だ。時速500kmで大都市の地下をも走り抜ける。膨大な量の建設残土、水源の枯渇、直径30mの立て杭、振動や騒音・・・・市民の疑問は尽きない。
ところが、1時間半の説明会のうち1時間がビデオ上映。当然、質問時間は短くなるが、住民の疑問に具体的に回答せず、時刻が来たら無言でピタリと閉会。
(2)説明会のあと、12月から今年1月にかけて川崎市の「環境影響評価審議会」が開催されたが、審議会委員もJR東海の対応に本気で怒っていた。
方法書の縦覧にあたり、JR東海は市民からのパブリックコメントを募集し、集まった150件の意見のほとんどは反対や疑問で占められていた。ところが、こうした疑問に対し、JR東海は審議会で「・・・・といったご意見をいただいています」と紹介しただけ。さすがに審議会委員が噛みついたが、市民の意見を反映させるのは「これからやる」、立杭工事の時期などは「環境影響評価準備書の段階まで詰めてから説明する」。
つまり、JR東海は着工寸前まで情報を出さない、というのだ。
(3)2010年2月、国土交通省の交通政策審議会に設置された「鉄道部会・中央新幹線小委員会」に、この事業の妥当性が諮問され、20回以上の審議を経て昨年5月12日「妥当」との答申が出た。
小委員会はセレモニーだった。特に、昨年4月14日に開催された耐震性に係る議論は余りに短かった。前月に東日本大震災が起きたばかりなのに、審議は、JR東海の説明を受けたあと、わずか15分で「耐震への追加対策は不要」と判断を下した【注】。
しかも、民意を完全に無視した。パブリックコメントで集まったのは888。うち、計画中止や再検討を訴えるものは648件。計画推進を望む声はわずかに16件。ところが、家田仁・鉄道部会・中央新幹線小委員会委員長(東大大学院工学系研究科教授)は、これら反対の声に対し、「批判は答申を覆す意見ではない」と切り捨てた。
その後の各地の方法書縦覧でも、パブリックコメントの総数は1,042件。ほとんどが反対意見で占められたが、JR東海は「具体的対策は2013年の準備書で示す」と回答する。
いったい説明会やパブコメは何のために存在するのか。
(4)川端俊夫・元国鉄技師は、1961年、リニア鉄道のアイデアを月刊『車両工学』に載せ、それを読んだ鉄道技術研究所が、翌1962年から研究開発を始めた。その川端元技師は、リニアは新幹線の40倍も電力を消費する、との投稿を1989年8月7日付け朝日新聞に載せた。
「いや、3倍だ」という反論を尾関雅則・理事長(当時)が同年9月4日付け朝日新聞に載せた。
今年6月13日、リニア中央新幹線建設促進岐阜県期成同盟とJR東海が主催する中津川市での説明会の配布資料に、品川・大阪間の消費電力は74万kWとある。ほぼ原発1基分に相当する電力だ。
昨年5月14日に浜岡原発が運転停止したわずか10日後、葛西敬之・JR東海会長は、産経新聞に談話を載せた。いわく、「原発継続にしか活路はない」「原子力の利用には、リスクを承知のうえで、それを克服・制御する国民的覚悟が必要。政府は原発をすべて速やかに稼働させるべきだ」うんぬん。
【注】リニア新幹線は、南アルプスの糸魚川静岡構造線や中央構造線などの巨大断層を横切る。
以上、樫田秀樹(ジャーナリスト)「疑問だらけのリニア新幹線 ~そもそも必要か?~」(「世界」2012年9月号)に拠る。
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