語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【原発】「脱原発依存」に潜む官僚マジック ~狙いは原発比率15%~

2012年08月29日 | 震災・原発事故
 (1)8月22日、野田佳彦・首相は、市民団体「首都圏反原発連合」代表11人と官邸で面会。大飯原発再稼働即時停止などを求めた市民団体側に対して、「政府の基本的な方針は脱原発依存だ」と答えた。

 (2)最近野田総理が多用する「脱原発依存」という言葉は、官僚が作ったものだ。
 原発をゼロにするなら、「脱原発」だけで済む。それをわざわざ官僚が2文字追加するのだから、そこに意味がないわけがない。
 官僚の理屈はこうだ。
  (a)日本語の意味としては、「依存」は「あるものに頼る」ことだ。原発比率がゼロであれば頼っていないから、依存していない、と言える。
  (b)原発比率1%であれば、残り99%が原発でないのだから、原発に頼っていない。
  (c)原発比率10%であれば、「たった」1割だから(と言い換えて)、これまた頼っていない。
  (d)以下、11%であれば、12%であれば・・・・15%くらいまでならギリギリ頼っているわけではない、と言えそうだ。
 こう順序立てて、(なし崩し的に)話されると、そうかもしれない、という気にさせられるところが恐ろしい。

 (3)2030年の原発比率の3シナリオ、①ゼロ、②15%、③20~25%のうち、②がもともと政府が狙っていたシナリオだ。
 つまり、②をめざすのが「脱原発依存」という言い回しだ。
 ①を意味する「脱原発」とは、まったく意味が違うのだ。

 (4)政府は、40年経た原子炉を廃炉にしていくことを忠実に実施すると、2030年には原発比率が15%になる、という。
 しかし、実際には、15%シナリオ実現には原発を2基新設しなければならない。この事情が隠されている。
 官僚は考えているのだ。「1基新設できれば、あとは芋づる式に増やしていけばいい」

 (5)官邸前デモなどで、かなり追い詰められた民主党閣僚は、「個人的には」「中長期的には」などと曖昧な修飾語をつけながら、「原発をなくしていきたい」などと無責任な発言を始めた。だが、彼らは選挙目当ての「似而非」脱原発、「にわか」脱原発にすぎない。
 「似而非」「にわか」脱原発とホンモノの脱原発を区別するリトマス試験紙は、「大飯原発」だ。
 大飯原発は、もともと安全性の確認が不十分なまま再稼働した。夏の電力が足りない、という脅しで野田内閣が強行した。しかし、暑い夏は間もなく終わる。そして、原発がなくても何ら問題はなかったことが判明してきた。となれば、(安全性を完全には確認できない)大飯原発を停止するのが筋だ。
 官邸前デモが掲げる最大のイシューも、大飯原発再稼働即時停止だ。
 大飯原発再稼働の停止問題は、政界再編成に影響するだろうし、逆に政界再編成次第でこの問題の行方が決まる。

 以上、古賀茂明「「脱原発依存」に潜む官僚マジック ~官々愕々第31回~」(「週刊現代」2012年9月8日号)に拠る。

   *

 <原発ゼロでも20%以上でもない選択肢を、30年での着地点にしたい。そんな思惑が政府・与党内にはあるようですね>【伴英幸・「原子力資料情報室」共同代表/「総合資源エネルギー調査会」基本問題委員会委員】

 以上、朝日新聞特別報道部『プロメテウスの罠2 ~検証!福島原発事故の真実』(学研パブリッシング、2012)の第12章「脱原発の攻防」に拠る。
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