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(1)<本書の目的は、福島原発事故の全体像を描くことではない。また、事故の原因について掘り下げた考察を加えることでもない。「脱原子力国家」を実現する道筋として、どのようなシナリオを描くことができるのか、またそれを進める上でどのような障害を克服していかねばならないかについて、基本的見地から考えるための素材を読者に提供することが、本書の目的である。>
(2)「脱原子力国家」とは、次の①と②の併せて進める国家のことだ。
(a)原子力(核エネルギー)の民事利用(非軍事利用)の中核をなす原子力発電について、その廃止へ向けて着実に前進する。
(b)原子力の軍事利用についても、その縮小へ向けて先導的な役割を引き受ける。
具体的には、次の国家だ。
(a)’ウラン濃縮、核燃料再処理、高速増殖炉を大黒柱とする機微技術の開発利用から脱却する。
(b)’核兵器に依存しない安全保障政策を進める。
(3)本書は、9章で構成される。
第1章「なぜ脱原子力国家なのか」・・・・政府の脱原発への消極姿勢について述べた後、原子力が担う外交・安全保障上の機能が脱原発の障害となっていることを示唆する。また、発電以外の機能を主として担っているのが、核燃料サイクル技術であることを示す。
第2章「福島原発事故のあらまし」
第3章「福島原発事故の原因と教訓」・・・・福島原発事故の要因について検討し、それに対して責任をもつ当事者の行動の問題点を検討する。それを踏まえて、末尾でこの事故からどのような公共政策上の教訓を導くことができるか、について考える。その教訓を一言で言えば、世界のどこでも原子力施設(原子炉のみに限定しない)におけるチェルノブイリ級の苛酷事故は起こり得るので、原子力事業を進める者、その周辺地域(少なくとも数十km圏)の住民はそれを覚悟しておく必要がある、という教訓だ。
第4章「日本の原子力開発利用の構造」・・・・原子力国家としての日本の具体的構造について「核の六面体構造」というキーワードを用いて分析を加える。それは主として6つの勢力が、原子力開発利用の主要アクターとなっており、これらアクターによる利益共同体が築かれていることを指す。政府審議会は、その方針を確認するセレモニーの場であり、そこでは「エネルギー一家の家族会議」のような様式で審議が進められる。
第5章「日本はいかにして原子力国家となったか」
第6章「日米原子力同盟の形成と展開」
第7章「異端から正統へと進化した脱原発論」
第8章「脱原発路線の目標とシナリオの多様性」・・・・一口に脱原発と言っても、多くのヴァリエーションがある。目標とする社会のあり方も一様ではないことを示す。政治的な右翼と左翼の差異にかかわらず、脱原発が多くの人々の支持するところとなった現在、その多様性に注目するのは重要だ。また、脱原発を進める戦略についても、大きく2つの方式、つまり①政府主導方式と②民間誘導方式があることを示す。①は、脱原発のための法律を作り、国家計画にもとづいて粛々と脱原発を進める方式。②は、原発が政府の電力業界への推進協力指令と、その見返りとしての全面的な保護・支援なくしては成立しない事業であることを踏まえ、そうした指令や保護・支援を廃止することで、電力業界に自主的な脱原発を促す方式。
第9章「核燃料サイクルのシナリオ」・・・・核燃料サイクル事業について、まず概観を与えた上で、その廃止シナリオを示す。核燃料サイクルは、原子炉の付属物ではない。むしろ、原子力開発利用の初期においては、原子炉のほうがプルトニウム生産装置であり、核燃料サイクルの付属物だった。今日でも、核武装の技術的・産業的ポテンシャルを獲得・強化するためには、核燃料サイクルを進める必要がある。それを廃止することは、核武装の技術的ポテンシャルを捨てることを意味する。その廃止にもっとも強硬に抵抗しているのは青森県行政当局だ。むろん、県民も連帯責任を負っている。
以上、吉岡斉『脱原子力国家への道』(岩波書店、2012)の「プロローグ」に拠る。
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