(1)NHK
7月16日、炎天下に「さようなら原発10万人集会」が17万人の人々を集めた。その場所は、代々木公園。NHKは目と鼻の先にある。
この日、NHKの報道はお粗末だった。朝から、日中の猛暑を警告する字幕が画面を囲み、昼は熱中症関連ニュースが延々と続いた。あたかもデモに参加するな、と警告するがごとき熱の入れようだった(「抑制効果」狙い)。後半にヘリコプターの空影映像が入ったが、映っていたのは、一本の川筋だけ。女性がそこで溺れた、という(死亡事故ではなかった)。
「10万人集会」は、NHKにとっては単なる騒音でしかなかったらしい。
「10万人集会」主催者は、「脱原発1,000万人署名」を呼びかけている。
6月時点で754万筆の署名が集まり、一部を藤村官房長官に提出した【注】。
その翌週、野田首相は大飯原発再稼働を決めた。
それを聞いた大江健三郎(呼びかけ人の一人)は中野重治『春さきの風』にある「わたしらは侮辱のなかに生きています」を引用して語りかけた。
もう十数万にものぼる私らは侮辱のなかで生きてゆくほかないのか。
あるいは、もっと悪く、次の原発の大爆発によって侮辱のなかで死ぬほかないのか・・・・。
その夜のNHKニュースは、19時も21時も、1分30秒から40秒程度、簡単に流しただけだった。
報道は、本来現場に立つ記者の取材に基づくものでなければならない。
NHkは、前もって目の前の集会を大きく扱わないという方針を立て、それに唯唯諾諾と従う記者たちがいた。・・・・そう説明する以外、かかる無内容な放送を説明することはできない。
(2)民放
他方、テレビ朝日は脱原発の立場から活発な報道を行った。昼間からなんども現場中継を入れ、結果的に集会の「拡大効果」の役割を果たした。
しかし、他はおしなべて低調だった。
7月16日のフジテレビ「FNNスーパーニュース」は、言語のクラッシュを見せつけた。
「10万人集会」の映像と、スタジオの野田首相のワンショットが分割画面に映し出されている。
安藤優子キャスター、野田首相に尋ねていわく、「毎週、金曜日にも反原発の集会が開かれている。こうした声にどう答えるのか」。
野田首相、「この問題は国論を二分するテーマになっていると考えている。さまざまな声にしっかり耳を傾けて行きたい」。
これは奇妙な答だ。国論は二分されていない。どのような統計をとっても、大半が原発に反対している。
だが、安藤キャスターは「ゑ? 二分ではありませんよ」などとは突っ込まない。
とはいえ、続いて、放射能汚染された地域からの声を背後に、安藤キャスターは詰め寄る。「もう形ある未来を提示すべき時が来ているのではないか。戻れないかもしれない、戻れるかもしれないというのが一番辛いんじゃないですか」
野田首相、「住民の皆さまに情報をしっかり開示し、見通しをなるべく早く立てられるようにすることが責任だと思う」。
質問をちっとも踏まえていない答だ。こんな日に、目の前で起きていることの意味さえ掴めないまま、一国の宰相がテレビ局で涼んでいてよいのか。
夜のテレビ朝日「報道ステーション」は、「やらせ」続発の国の意見聴取会を取り上げながら、2030年の原発比率として政府が誘導しようとしている「15%」は、事実上の原発継続になる、と指摘した。「40年で廃炉の原則を適用すれば、原発を増設せずにそのまま達成できる。しかし、これは80%という高い稼働率を前提としたもので、より現実的な70%の稼働率の場合には、原発2基分を新設する必要がある。つまり、脱原発を推進するわけではない」うんぬん。
原発稼働率を過去に遡れば、80%台を維持していたのは、1995年から2002年まで。2002年に原発検査記録の改竄問題で東電の全原発が停止し、稼働率は急速に低下し、その後は50%から70%台を推移した。福島第一原発事故後、今年5月7日に日本中の原発が定期検査などで停止した。
しかし、わずか1ヵ月半で再稼働が強行された。そのあとに、いわがわしい意見聴取会が設定された。なにかが壊れているとしか言いようがない。
【注】鎌田慧によれば、藤村官房長官に提出したのは780万筆。【「【原発】「さようなら原発」17万人集会の記録」】
以上、神保太郎「メディア批評第57回」(「世界」2012年9月号)の「(1)情報は「拡大」から「拡散」の時代に」に拠る。
【参考】
「【原発】情報は「拡大」から「拡散」の時代に ~金曜日の人々~」
↓クリック、プリーズ。↓
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7月16日、炎天下に「さようなら原発10万人集会」が17万人の人々を集めた。その場所は、代々木公園。NHKは目と鼻の先にある。
この日、NHKの報道はお粗末だった。朝から、日中の猛暑を警告する字幕が画面を囲み、昼は熱中症関連ニュースが延々と続いた。あたかもデモに参加するな、と警告するがごとき熱の入れようだった(「抑制効果」狙い)。後半にヘリコプターの空影映像が入ったが、映っていたのは、一本の川筋だけ。女性がそこで溺れた、という(死亡事故ではなかった)。
「10万人集会」は、NHKにとっては単なる騒音でしかなかったらしい。
「10万人集会」主催者は、「脱原発1,000万人署名」を呼びかけている。
6月時点で754万筆の署名が集まり、一部を藤村官房長官に提出した【注】。
その翌週、野田首相は大飯原発再稼働を決めた。
それを聞いた大江健三郎(呼びかけ人の一人)は中野重治『春さきの風』にある「わたしらは侮辱のなかに生きています」を引用して語りかけた。
もう十数万にものぼる私らは侮辱のなかで生きてゆくほかないのか。
あるいは、もっと悪く、次の原発の大爆発によって侮辱のなかで死ぬほかないのか・・・・。
その夜のNHKニュースは、19時も21時も、1分30秒から40秒程度、簡単に流しただけだった。
報道は、本来現場に立つ記者の取材に基づくものでなければならない。
NHkは、前もって目の前の集会を大きく扱わないという方針を立て、それに唯唯諾諾と従う記者たちがいた。・・・・そう説明する以外、かかる無内容な放送を説明することはできない。
(2)民放
他方、テレビ朝日は脱原発の立場から活発な報道を行った。昼間からなんども現場中継を入れ、結果的に集会の「拡大効果」の役割を果たした。
しかし、他はおしなべて低調だった。
7月16日のフジテレビ「FNNスーパーニュース」は、言語のクラッシュを見せつけた。
「10万人集会」の映像と、スタジオの野田首相のワンショットが分割画面に映し出されている。
安藤優子キャスター、野田首相に尋ねていわく、「毎週、金曜日にも反原発の集会が開かれている。こうした声にどう答えるのか」。
野田首相、「この問題は国論を二分するテーマになっていると考えている。さまざまな声にしっかり耳を傾けて行きたい」。
これは奇妙な答だ。国論は二分されていない。どのような統計をとっても、大半が原発に反対している。
だが、安藤キャスターは「ゑ? 二分ではありませんよ」などとは突っ込まない。
とはいえ、続いて、放射能汚染された地域からの声を背後に、安藤キャスターは詰め寄る。「もう形ある未来を提示すべき時が来ているのではないか。戻れないかもしれない、戻れるかもしれないというのが一番辛いんじゃないですか」
野田首相、「住民の皆さまに情報をしっかり開示し、見通しをなるべく早く立てられるようにすることが責任だと思う」。
質問をちっとも踏まえていない答だ。こんな日に、目の前で起きていることの意味さえ掴めないまま、一国の宰相がテレビ局で涼んでいてよいのか。
夜のテレビ朝日「報道ステーション」は、「やらせ」続発の国の意見聴取会を取り上げながら、2030年の原発比率として政府が誘導しようとしている「15%」は、事実上の原発継続になる、と指摘した。「40年で廃炉の原則を適用すれば、原発を増設せずにそのまま達成できる。しかし、これは80%という高い稼働率を前提としたもので、より現実的な70%の稼働率の場合には、原発2基分を新設する必要がある。つまり、脱原発を推進するわけではない」うんぬん。
原発稼働率を過去に遡れば、80%台を維持していたのは、1995年から2002年まで。2002年に原発検査記録の改竄問題で東電の全原発が停止し、稼働率は急速に低下し、その後は50%から70%台を推移した。福島第一原発事故後、今年5月7日に日本中の原発が定期検査などで停止した。
しかし、わずか1ヵ月半で再稼働が強行された。そのあとに、いわがわしい意見聴取会が設定された。なにかが壊れているとしか言いようがない。
【注】鎌田慧によれば、藤村官房長官に提出したのは780万筆。【「【原発】「さようなら原発」17万人集会の記録」】
以上、神保太郎「メディア批評第57回」(「世界」2012年9月号)の「(1)情報は「拡大」から「拡散」の時代に」に拠る。
【参考】
「【原発】情報は「拡大」から「拡散」の時代に ~金曜日の人々~」
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