語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【古賀茂明】労働者派遣法改正前にすべきこと

2014年03月01日 | 社会
 (1)これまでは、専門的なものを除く普通の業務では、労働者派遣を活用できる期間は「3年」が上限だった。
 この規制を緩和し、すべての仕事で、3年ごとに派遣労働者を代えれば、派遣に仕事を任せ続けられるようにする、という。
 これに対して、非正規雇用をますます増加させる、として反対の声が上がっている。

 (2)自民党を支持する既得権団体の反対が怖くて、規制改革をほとんど進められない安倍政権にとって、雇用関連の規制改革は、
  (a)固定客を失う心配がなく、
  (b)しかも経団連が一番喜ぶ話なので、
どうしてもやりたい政策だ。連合も、実は大企業正社員の既得権を守る団体だから、本気で反対はしない。実現しやすい。

 (3)最近、格差批判が高まっているが、その最大の原因は、
  (a)企業や産業の生産性が上がらず、
  (b)国際競争力が弱まる中で、
  (c)企業があらゆる手段で賃金抑制によるコスト削減を図っていることにある。

 (4)(3)に対して事後的に格差を是正するための政策(<例>累進課税の累進度を上げる、など)を強化するだけでは労働意欲が減退し、生産性はかえって低下するため、分配すべきパイそのものが縮小してしまう。
 経済学的には、労働者を生産性の低い企業や産業から生産性の高いところに移動させればよい、というのが定説だ。よって、派遣などの非正規雇用を使いやすくしよう、という理屈になる。
 しかし、この要請は、あくまでも経営者側の視点に立ったものだ。雇用関連の課題は多岐にわたるが、
  (a)これらは単に企業競争力の観点だけで論じるべきものではないし、
  (b)労働者保護の観点だけで考えてもいけない。
 また、雇用問題を労使の対立問題とする従来の図式では、社会全体の視点が抜け落ちていた。その結果、日本の社会構造が歪む結果になってしまった。

 (5)最大の問題は、日本人男性の働き方だ。会社に従属し、夜遅くまで働き、休みもろくに取れない。この非人間性は、先進国では類を見ない。
 女性の社会的進出が叫ばれている。男性同様に活躍したい、という女性は、滅私奉公しかない男性社会のなかで、男性と同じ働き方をしなければならない。
 そんな環境で、子どもを産み育てるのは難しい。
 その結果、優れた女性の才能が埋もれ、少子化が進み、経済的にも大きなマイナスとなった。

 (6)さらに問題なのは、男性も女性も会社に縛られているから、民間の様々な活動が弱い。自助、共助、公助のうち、共助が弱いのが日本の特色だ。
 労働運動、消費者運動、環境活動、政治活動、脱原発活動、さまざまな慈善活動・・・・すべてが弱く、政府・自治体がそれに代わる役割を求められているため、官が肥大化する。
 政府と企業だけが強大な社会は、歪んだ社会だ。
 こん歪んだ社会は、先進国にはない。

 (7)(6)の状況から抜け出すために、何をすべきか。
 サービス残業撲滅のため徹底的に取り締まるのだ。似非管理職制や裁量労働制の乱用を規制するのだ。
 <例1>年収で800万とか1,000万以上という規制をかける。有給休暇の強制取得または買い取りを義務づける。残業の割増率を高める。・・・・これらは、雇用増加にもつながる。
 <例2>残業実態や有休取得実績の開示を義務づけ、不当表示には厳罰をもってする。厳格な同一労働同一賃金規制を導入する。企業の年金、健康保険の対象となっていない非正規雇用の労働者にも広くこれらの権利を与える。
 こうした改革やセイフティネットの強化策とともに、雇用の流動化を検討するのが本筋だ。
 むろん、経団連は反対するだろう。
 安部総理は、それと戦う勇気があるのか。
 アベノミクスは誰のためにあるのか。

□古賀茂明「派遣法改正前にすべきこと ~官々愕々第99回~」(「週刊現代」2014年3月8日号)
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 【参考】
【労働】一気に進む雇用規制緩和 ~「岩盤規制」緩和と「国家戦略特区」~
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