(1)露国ラジオ放送「ロシアの声」は1月13日放送のニュース番組で、NATOの動向に詳しいリック・ロゾフ・米国ジャーナリストが警告した。「米国はウクライナをロシアから引き離した後にNATOに加盟させ、ウクライナに命じて黒海艦隊を撤収させるのを狙っている」
実際、事態はこういう方向へ進んでいる模様だ。
(2)米国は、1991年以降、ウクライナの「民主的制度の発展」等のため「50億ドルを投じてきた」。【ビクトリア・ヌーランド・米国国務次官補、昨年12月13日、ワシントンで開かれた「国際ビジネス会議」における記者会見】
米国や欧州の同盟国のいわゆる「民主主義が花開いた」ウクライナ「暫定政権」で、極右「スヴォボダ」は副首相や国防相ら5人の閣僚ポストを得た。「スヴォボダ」は、2004年まで欧州ネオナチのバッジを党章として使用し、以前から「反ユダヤ主義」と批判されているネオナチだ。
この集団に米国から資金が流入したかどうかは不明だが、ヌーランド次官補やジョン・マケイン上院議員(共和党タカ派)が昨年からキエフで「スヴォボダ」幹部と会見し、「反政府運動の支援」を約束している。
(a)アンドレイ・バルビ・「国家安全保障国防会議」(軍事・外交の大統領顧問機関)新議長は、「スヴォボダ」のオレーフ・チャフニボーク総裁と共に、1991年、ネオナチの「社会国家党」を創設した経歴がある。
(b)ドミントロ・ヤロシュ・「国家安全保障国防会議」新副議長も、第二次世界大戦中、ナチスと協力して9万人のユダヤ人やポーランド人を虐殺したファシスト「ウクライナ民族主義組織」の直系の活動家で、「ロシアとの全面戦争」を唱えている。
(3)かかるネオナチの影響力が、ウクライナで一挙に増した。この状況が、対ロシア軍事包囲網をその周辺で構築中の米国にとって不都合なはずはない。
だが、反ロシア色を強め、NATO加盟と再核武装を検討している、とされる「暫定政権」が今後クリミア問題で強硬措置を取り、ロシアとの緊張を高める可能性も、現時点では排除されていない。
クリミアをめぐる危機の本質は、ロシアだけを「悪玉」にして説明できるほど単純ではない。
(4)ちなみに、クリミア情勢緊迫には伏線がある。黒海西岸のルーマニアとブルガリアを拠点とした米軍による対ロシア軍事包囲網の動きだ。
この両国がNATOに加盟した2004年以降、米軍は既存の軍事基地を使用するなどして急速に強化。特にセバストポリとは目と鼻の先にあるルーマニアは、次のように対ロシア最前線基地としての性格を強めている。
(a)港湾都市コンスタンツァの米海軍拠点化。2004年以降米海軍艦船の入港やそこを拠点とする演習が急増し、いまや黒海における米海軍の最大の拠点となった。冷戦時代と異なり、黒海が完全に米海軍の作戦領域に変化した。ロシア外務省は、2011年6月12日、ミサイル防衛(MD)の一環を担う米海軍イージス巡洋艦モントレーがコンスタンツァに寄港後黒海に展開した際、「わが国の国境間近に米軍の戦略的任務を負う部隊が接近するのは、安全への驚異だ」と抗議したが、米側は無視した。
(b)コンスタンツァに近いミハイル・コガルニセアヌ空港の軍事化。2005年に米軍の共同使用が認められ、すでに85の軍事施設が建設。2013年から空軍の戦略的輸送基地として稼働し、アフガニスタンからの数万人規模の撤退部隊受け入れ等のトランジット機能を発揮し、米軍の世界展開に欠かせない存在になっている。同基地には、米欧州陸軍の部隊が駐留している外、海兵隊の特殊空陸任務部隊がローテーション配備。これら兵員は、ルーマニア国内で新たに確保した4か所の演習場で、ルーマニアやブルガリアのみならず、グルジアの陸軍に対しても軍事訓練を実施している。
(c)ミサイル防衛基地建設。昨年10月28日、デベセル空軍基地(ルーマニア南部)で「欧州ミサイル防衛」基地建設をスタートさせた。イージス艦に搭載されているMD用迎撃ミサイルSM3の地上配備型が展開される外、それとセットの前方展開用Xバンドレーダーも設置される。
(5)ブルガリアにおいても、米国は「ブルガリア政府の許可なく自由に第三国に出撃できる」軍事協定を締結(2006年)後に、2つの空軍基地と、演習場および兵站基地の各1を「共同使用」という形で獲得。うちベズメル基地はいま大拡張工事中で、将来は嘉手納基地やラムシュテイン基地(独)に匹敵する米空軍の海外6大基地の1つに生まれ変わる予定だ。
(6)3月6日、ルーマニアの米大使館は、8日から3日間、米原子力巡洋艦トラクスタンがコンスタンツァを拠点にルーマニア・ブルガリア両海軍と演習を実施する、と発表した。クリミア情勢に対する索制だった。
(7)冷戦後、緊張状態もない黒海で、近隣諸国に脅威をもたらしてはいないロシアに、米国は(4)や(5)の軍事力を突きつけた。
その米国が、セバストポリの防衛とロシア系住民の保護のためクリミアへ海兵隊や空挺特殊部隊を増派したロシアを「国際法違反の軍事介入」(オバマ大統領)と批判しても、説得力がない。
□成澤宗男(編集部)「黒海の対ロシア包囲戦略と米国の思惑 ネオナチがウクライナ暫定政権の中枢を把握」(「週刊金曜日」2014年2月14日号)
↓クリック、プリーズ。↓
【参考】
「【佐藤優】北方領土返還のルールが変化 ~ロシアのクリミア併合~」
「【佐藤優】ロシアが危惧するのは軍産技術の米流出 ~ウクライナ~」
「【佐藤優】新冷戦ではなく帝国主義的抗争 ~ウクライナ~~」
「【佐藤優】クリミアで衝突する二大「帝国主義」 ~戦争の可能性~」
「【佐藤優】「動乱の半島」クリミアの三つ巴の対立 ~セルゲイ・アクショーノフ~」
「【佐藤優】ウクライナにおける対立の核心 ~ユリア・ティモシェンコ~」
「【ウクライナ】とEU間の、難航する協定締結に尽力するリトアニア」
「【佐藤優】ロシアとEUに引き裂かれる国 ~ウクライナ~」
実際、事態はこういう方向へ進んでいる模様だ。
(2)米国は、1991年以降、ウクライナの「民主的制度の発展」等のため「50億ドルを投じてきた」。【ビクトリア・ヌーランド・米国国務次官補、昨年12月13日、ワシントンで開かれた「国際ビジネス会議」における記者会見】
米国や欧州の同盟国のいわゆる「民主主義が花開いた」ウクライナ「暫定政権」で、極右「スヴォボダ」は副首相や国防相ら5人の閣僚ポストを得た。「スヴォボダ」は、2004年まで欧州ネオナチのバッジを党章として使用し、以前から「反ユダヤ主義」と批判されているネオナチだ。
この集団に米国から資金が流入したかどうかは不明だが、ヌーランド次官補やジョン・マケイン上院議員(共和党タカ派)が昨年からキエフで「スヴォボダ」幹部と会見し、「反政府運動の支援」を約束している。
(a)アンドレイ・バルビ・「国家安全保障国防会議」(軍事・外交の大統領顧問機関)新議長は、「スヴォボダ」のオレーフ・チャフニボーク総裁と共に、1991年、ネオナチの「社会国家党」を創設した経歴がある。
(b)ドミントロ・ヤロシュ・「国家安全保障国防会議」新副議長も、第二次世界大戦中、ナチスと協力して9万人のユダヤ人やポーランド人を虐殺したファシスト「ウクライナ民族主義組織」の直系の活動家で、「ロシアとの全面戦争」を唱えている。
(3)かかるネオナチの影響力が、ウクライナで一挙に増した。この状況が、対ロシア軍事包囲網をその周辺で構築中の米国にとって不都合なはずはない。
だが、反ロシア色を強め、NATO加盟と再核武装を検討している、とされる「暫定政権」が今後クリミア問題で強硬措置を取り、ロシアとの緊張を高める可能性も、現時点では排除されていない。
クリミアをめぐる危機の本質は、ロシアだけを「悪玉」にして説明できるほど単純ではない。
(4)ちなみに、クリミア情勢緊迫には伏線がある。黒海西岸のルーマニアとブルガリアを拠点とした米軍による対ロシア軍事包囲網の動きだ。
この両国がNATOに加盟した2004年以降、米軍は既存の軍事基地を使用するなどして急速に強化。特にセバストポリとは目と鼻の先にあるルーマニアは、次のように対ロシア最前線基地としての性格を強めている。
(a)港湾都市コンスタンツァの米海軍拠点化。2004年以降米海軍艦船の入港やそこを拠点とする演習が急増し、いまや黒海における米海軍の最大の拠点となった。冷戦時代と異なり、黒海が完全に米海軍の作戦領域に変化した。ロシア外務省は、2011年6月12日、ミサイル防衛(MD)の一環を担う米海軍イージス巡洋艦モントレーがコンスタンツァに寄港後黒海に展開した際、「わが国の国境間近に米軍の戦略的任務を負う部隊が接近するのは、安全への驚異だ」と抗議したが、米側は無視した。
(b)コンスタンツァに近いミハイル・コガルニセアヌ空港の軍事化。2005年に米軍の共同使用が認められ、すでに85の軍事施設が建設。2013年から空軍の戦略的輸送基地として稼働し、アフガニスタンからの数万人規模の撤退部隊受け入れ等のトランジット機能を発揮し、米軍の世界展開に欠かせない存在になっている。同基地には、米欧州陸軍の部隊が駐留している外、海兵隊の特殊空陸任務部隊がローテーション配備。これら兵員は、ルーマニア国内で新たに確保した4か所の演習場で、ルーマニアやブルガリアのみならず、グルジアの陸軍に対しても軍事訓練を実施している。
(c)ミサイル防衛基地建設。昨年10月28日、デベセル空軍基地(ルーマニア南部)で「欧州ミサイル防衛」基地建設をスタートさせた。イージス艦に搭載されているMD用迎撃ミサイルSM3の地上配備型が展開される外、それとセットの前方展開用Xバンドレーダーも設置される。
(5)ブルガリアにおいても、米国は「ブルガリア政府の許可なく自由に第三国に出撃できる」軍事協定を締結(2006年)後に、2つの空軍基地と、演習場および兵站基地の各1を「共同使用」という形で獲得。うちベズメル基地はいま大拡張工事中で、将来は嘉手納基地やラムシュテイン基地(独)に匹敵する米空軍の海外6大基地の1つに生まれ変わる予定だ。
(6)3月6日、ルーマニアの米大使館は、8日から3日間、米原子力巡洋艦トラクスタンがコンスタンツァを拠点にルーマニア・ブルガリア両海軍と演習を実施する、と発表した。クリミア情勢に対する索制だった。
(7)冷戦後、緊張状態もない黒海で、近隣諸国に脅威をもたらしてはいないロシアに、米国は(4)や(5)の軍事力を突きつけた。
その米国が、セバストポリの防衛とロシア系住民の保護のためクリミアへ海兵隊や空挺特殊部隊を増派したロシアを「国際法違反の軍事介入」(オバマ大統領)と批判しても、説得力がない。
□成澤宗男(編集部)「黒海の対ロシア包囲戦略と米国の思惑 ネオナチがウクライナ暫定政権の中枢を把握」(「週刊金曜日」2014年2月14日号)
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【参考】
「【佐藤優】北方領土返還のルールが変化 ~ロシアのクリミア併合~」
「【佐藤優】ロシアが危惧するのは軍産技術の米流出 ~ウクライナ~」
「【佐藤優】新冷戦ではなく帝国主義的抗争 ~ウクライナ~~」
「【佐藤優】クリミアで衝突する二大「帝国主義」 ~戦争の可能性~」
「【佐藤優】「動乱の半島」クリミアの三つ巴の対立 ~セルゲイ・アクショーノフ~」
「【佐藤優】ウクライナにおける対立の核心 ~ユリア・ティモシェンコ~」
「【ウクライナ】とEU間の、難航する協定締結に尽力するリトアニア」
「【佐藤優】ロシアとEUに引き裂かれる国 ~ウクライナ~」