語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【古賀茂明】「避難計画」なき原発再稼働

2014年03月27日 | 震災・原発事故
 (1)原発再稼働が最終プロセスに入った。
 原子力規制委員会は、3月13日、再稼働審査中の10原発のうち、九州電力川内原発(鹿児島県)の審査を優先的に進めることにした。
 かくて、この夏の川内原発再稼働がほぼ確実になった。

 (2)3年前、東日本大震災直後の2011年春、経済産業省では官僚たちが原発再稼働のための戦略ペーパーを作っていた。その後、新設される「原子力規制委員会」をどのようにして「再稼働のための組織」にするかが大きな課題になるのだが、彼らは実に見事にそれをやり遂げた。
  (a)規制委員会の人選を国会ではなく、関西電力大飯原発再稼働を強行した野田内閣が行う仕組みにした。
  (b)2年はかかると言われていたのに、日本の原発を動かすための甘い規制基準案をわずか半年で作らせることに成功した。
  (c)規制委員会を設立後1年近く再稼働の準備に専念させた。福島第一原発の悪い情報は上げず、関心を逸らした。その結果が汚染水問題の深刻化と事故収束の遅れだ。
  (d)これが実は非常に大きいのだが、原発事故の避難対策は規制委員会の仕事ではないことにしてしまった。安倍政権は、規制委員会が規制に適合していると認めた原発は、地元がよいと言えば再稼働させる、という立場だ。その結果、避難対策には規制委員会も政府も責任を持たず、地元自治体に丸投げされることになった。地元自治体は、再稼働最優先のところがほとんどだ。まともな避難対策はできない。つまり、日本では、過酷な事故で放射能が検出されると想定しながら、それから逃げるための避難対策が著しく不十分なまま原発を動かすことができるようになった。

 (3)ある民間の研究所が行った原発ごとの試算では、避難に必要な時間が8~63時間だった。
 試算がある自治体の数字とも符合する。
 ちなみに、試算の前提は「すべての道路が壊れていないこと」だった。大地震では道路は寸断される。
 しかも、大雪、台風、さらに逃げ遅れたお年寄りや病人を高濃度汚染されている地域に誰が行って、どう助けるか、なども「想定外」のままだ。実際の避難には、数十時間から100時間以上かかるだろう。

 (4)メルトダウンは2時間で起きる。
 規制委員会はフィルタベント(原発事故時に蒸気を、放射性物質を低減してから外部に逃がす装置)の設置を義務づけているが、放出される放射能濃度は人体に有害なレベルでもよいことになっている。ここから帰結されるのは、事故が起こると多数の住民が深刻な放射能被曝に合う、ということだ。
 逆に言えば、避難対策をきちんとやれ、と言うと、日本の原発はすべて再稼働できなくなる。
 だから、規制委員会は避難対策を無視することにした。
 田中俊一・規制委員会委員長は、廣瀬直己・東京電力社長には会うが、泉田裕彦・新潟県知事の面会要求を拒否している。泉田知事の避難対策に係る質問に答える能力がないからだ。

 (5)規制委員会は、安全でないのに安全だと見せかけて再稼働につなげる、という難しい任務を背負わされている。
 自民党の原子力ムラの議員や経産相らから「早く審査しろ」と圧力がかかる。
 安部首相らが、原発が止まって化石燃料輸入増で貿易赤字になった、と喧伝する。
 全部規制委員会の責任だ(と原子力ムラは言う)。

 (6)規制委員会も政府に反撃するがよい。
 <例>電力会社に損害賠償保険への加入を義務づけるよう経産省に勧告する。
 誰も保険を受けなければ、安部のお得意の経団連へ要請してもらえばよい。安全だというのだから、経団連企業が引き受けるだろう。

□古賀茂明「「避難計画」なき原発再稼働 ~官々愕々第103回~」(「週刊現代」2014年4月5日号)
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 【参考】
【原発】【古賀茂明】利権構造が完全復活 ~東日本大震災3年~

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【原発】非核神戸方式への影響懸念も ~神戸市が憲法集会の後援を拒否~

2014年03月27日 | 震災・原発事故
 (1)核兵器を積載していない旨、非核証明書を提出しない艦船は入港を認めない・・・・この「非核神戸方式」が神戸市議会で決議されて39年。
 特定秘密保護法案が強行採決されて以降、「非核神戸方式」をめぐって緊張感が高まっている。

 (2)先ごろ、市民団体などが主催し、毎年開かれていた「5月3日憲法集会」への後援神聖を、神戸市および神戸市教育委員会が断った。これが、緊張感の高まりとなる直接のきっかけだった。
 「非核神戸方式」は、1975年3月18日、神戸市議会が全会一致で採択した「核兵器積載艦船の神戸入港拒否に関する決議」に由来する。以来、神戸港に米軍艦船は入港していない。
 これに並行して、神戸市では憲法集会への後援も事実上、「慣例」となっていた。
 しかし、昨秋就任した久元喜造・神戸市長は総務官僚出身だ。
 自民主導で選挙をしており、自民党に過度な配慮をしている。いよいよ馬脚を現してきた。【林英夫・神戸市議】
 神戸市は、3月18日に開催予定の非核神戸方式決議39周年記念集会への後援は、今のところ維持している。しかし、消極姿勢が目立つ同市の対応からして、「安倍改憲の先取り」を憂慮する市民の声も強い。今後への悪影響が懸念される。

 (3)公務員には、憲法尊重擁護義務が課せられている(憲法第99条)。
 だが、今回の後援不承認は、「憲法に関する集会そのものが政治的中立を損なう可能性」を理由としている。市教委は、「昨今の社会情勢に鑑みた」という。
 この後退姿勢は「地方自治の放棄」だ。【上脇博之・神戸学院大学教授】

 (4)「非核神戸方式」の精神・手法は、ニュージーランドにも取り入れられた。世界各国の範とされ、国内では、核持ち込み「密約」を暴く力にもなった。
 今年の39周年記念集会のテーマは「秘密保護法で非核『神戸方式』はどうなる?!」だ。新原昭治・国際問題研究者が、非核・非同盟の日本づくりの展望を語る。

□たどころあきはる(ジャーナリスト)「神戸市が憲法集会の後援を拒否 非核神戸方式への影響懸念も」(「週刊金曜日」2014年2月14日号)
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