語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【加藤周一】高校生のための読書術 ~どう読むかの技術~

2014年03月23日 | 批評・思想
 「今年高校に入った子どもに、入学するまでの間、何か1冊読ませたい。何を読ませたらよいでしょうか?」
 そういう相談があったとする。
 本書を推薦したい。

 著者がカナダのブリティッシュ・コロンビア大学で教鞭をとっていた頃、高校生向けのカッパ・ブックス『読書術―頭の回転をよくする読書術』を刊行した。
 1960年に口述し、カナダに渡った後、口述筆記が送られてきたが、なかなか手を入れる余裕がなく、原稿が完成したのは1962年だった。原稿に費やした時間は正味1か月だったが、とりかかってから刊行されるまで2年以上の時間が経っていた。
 それだけのことはあったらしく、本書はベストセラーになった。

 本書は2部で構成される。第1部は「どこで読むか」。第2部は「どう読むか、その技術」。
 第1部はリードのようなもので、第2部が本題だ。
 おそく読む「精読術」、はやく読む「速読術」、本を読まない「読書術」、外国語の本を読む「解読術」、新聞・雑誌を読む「看破術」、むずかしい本を読む「読破術」・・・・読む技術のあれこれが具体的に、論理的に、時にはいくぶん諧謔をこめて語られる。
 口述筆記がもとになっているから、読みやすい。

 本書の「あとがき、または30年後」で、30年前の議論の要点が今でも通用する、と加藤周一は言い、事実通用すると思う。
 なお、ここで2つの議論、(1)外国での読書、(2)読書の愉しみ・・・・を追記し、駄目を押している。

 読書の初心者向けの本だが、読書に慣れている人も本書により読書術を整理し直してもよいかもしれない。ことに、新聞・雑誌を読む「看破術」は、 このメディアが過去のものになりつつある21世紀、その意義を改めて考える手がかりとなる。

□加藤周一『読書術』(岩波現代文庫、2000)
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【野口悠紀雄】ビットコインに関して政府がなすべきこと

2014年03月23日 | ●野口悠紀雄
 (1)いまのところ、ビットコイン総額は経済の総取引額に比べて微々たるものだ。よって、社会に対する影響は、大きなものではない。しかし、今後、取引が急速に膨れ上がる可能性がある。そうなれば基幹的社会制度にきわめて大きな変更が要求される。それに対応するには時間がかかる。いまから早急に対応を検討しなければならない。
 問題は幾つもあるが、ここでは利用者保護と税制の二つを取り上げる。

 (2)利用者保護。
 政府の基本方針は、金融機関などの関与を禁止し、それによって責任を回避しようとするものだ。ビットコインそのものの規制は技術的に困難なため、こうしたことになる。
 しかし、それでは利用者は保護されない。「ビットコイン利用は自己責任で行うべきであり、政府は関与しない」とは言えない。
  (a)両替所など関連サービス提供者を監視する。
  (b)ウォレットのQRコード。秘密鍵が知られるようなQRコードだとすれば、設計にミスがあったことになる。
  (c)コイン保有者がコンピュータ事故や災害などで鍵を紛失すると、保有していたコインは永久に失われてしまい、取り戻せない。鍵をコピーすることが助言されているが、十分なIT知識を持たない人も利用できるようになると、「自己責任で鍵をコピーせよ」は、過大な要求になるだろう。この点に関する安全性の確保が必要だ。
 以上のような問題がまだ多数あるかもしれない。これらのすべてについて、利用者に自己責任を求めるのは酷だ。政府が関係事業者を指導すべきだ。マスメディアにも政府にも共通して求められるのは、情報提供と教育だ。

 (3)税制。
 政府は、ビットコインを売って実現した譲渡益に課税するとしている。それは現在の税制でも当然のことだ。
  (a)正直な納税者は納税するだろう。しかし、正直でない者は脱税する。税務署は脱税を摘発できないから、不公平が拡大する。
  (b)報酬の支払いにビットコインが用いられると、受取人の収入を税務署が捕捉できないので、(a)と同じ問題が発生する。かくして、税の公平性が著しく損なわれる。
  (c)ビットコインが広範に利用されるようになり、正直でない者が増えれば、税収が減る。それが進めば、国家の基礎であり土台である税制が崩壊してしまう危険がある。
  (d)(a)~(c)の問題はビットコインの匿名性から発生する。次の2点に注意しなければならない。
    ①ビットコインの取引そのものは、暗号化されていない。全世界の個々の取引がリアルタイムで公開されている。取引をこれほど透明に知り得る通貨はない。しかし、アドレスと現実の個人や組織との対応がわからないのだ。仮にこの対応がつけば、税務当局はビットコインを用いた資金の流れを完全に追跡できるから、徴税は今より容易になる。問題は、如何にして対応づけられるかだ。今後、口座やウォレット作成の際の本人確認は、より厳しく行われるだろう。しかし、それだけでは不十分だ。公開鍵から、いくらでも新しいアドレスを作れるからだ。実際、取引のたびに新しいアドレスを使用することが奨励されている。よって、本人との対応づlけは現実には到底不可能だ。また、国内での鍵生成だけを規制しても、明らかに無意味だ。
    ②これまでの税務署は現金取引を完全には捕捉できなかった。実際、アンダーグラウンド経済の存在は、南米諸国で税収を減らしている大きな原因だ。ために、直接税でなく、間接税への依存を高めているのだ。
  (e)(d)-①及び②から得られる結論は、「ビットコインの匿名性を剥ごうとするよりは、税の体系を変えるほうが現実的ではないか」ということ。匿名性が高い決済手段の利用増加に対応して税制を変えるのだ。
   <例>外形標準課税。法人なら資本金、従業員数、生産高などを指標とした課税。個人であれば人頭税。または、保有不動産や自動車などにリンクした課税だ。
  (f)ビットコインの実力を認めて、社会制度をそれにあったものにつ栗直すべきだ。

□野口悠紀雄「ビットコインに関して政府がなすべきこと ~「超」整理日記No.701~」(「週刊ダイヤモンド」2014年3月22日号)

 【参考】
【野口悠紀雄】ビットコインに関する深刻な誤報と誤解
【野口悠紀雄】ビットコインは理想通貨か徒花か?
【仮想通貨】ビットコインは中国経済をどう変えるか?
【仮想通貨】ビットコインは円を駆逐するか?

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