語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【大岡昇平ノート】『神聖喜劇』評 ~大西巨人を悼む~

2014年03月13日 | ●大岡昇平
     

●大岡昇平「現代への鋭利な諷刺」 ~『神聖喜劇』評~

 日本の軍隊は老朽化し官僚化し、各種「操典」や「令」の、文語カタカナ書きの煩雑な条文に縛られていた。敵が退却したのに、追撃しないと「作戦要務令」違反になるため、猪突して壊滅したりした。
 大西巨人氏は、超人的記憶力をもつ主人公を設定することにより、この条文を逆手にとって、軍隊生活の喜劇性を生き生きと描き出すのに成功した。この喜劇性はまた、ますます官僚化しつつある現代の生産社会のものであるから、現代への鋭利な諷刺になっている。

□『神聖喜劇 第1巻』(光文社、1978)添付の栞。

   *

●記事「作家の大西巨人さん死去 97歳、小説「神聖喜劇」」

 <超人的な記憶力と論理的思考力で、非人間的な軍隊組織に抵抗する兵士を描いた長編小説「神聖喜劇」で知られる作家の大西巨人(おおにし・きょじん、本名巨人〈のりと〉)さんが12日午前0時半、死去した。97歳だった。故人の遺志により葬儀は行わない。長男は作家の赤人(あかひと)さん。
 政治や差別問題にも筆をふるい、鋭い風刺で社会の問題点を突いた。約25年かけて1980年に完成した「神聖喜劇」は、主人公の陸軍2等兵が軍隊という強大な権力機構に独りで向き合い、上官らと渡り合う姿を描いた。松本清張や埴谷雄高らの支持を得た。原作にした漫画も出版され、2007年に日本漫画家協会賞大賞を受賞した。
 福岡市生まれ。九州大法文学部中退後、新聞社勤務を経て、召集で対馬要塞(ようさい)重砲兵連隊に入隊。戦後、福岡で「文化展望」の編集にあたり、日本共産党に入党。52年に上京、新日本文学会常任委員となった。評論「俗情との結託」(52年)で野間宏の「真空地帯」を大衆追従主義と批判し、野間や宮本顕治らと論争。その後、共産党と絶縁状態となり、72年に新日本文学会を退会した。
 小説に、労働運動の堕落を告発した「天路の奈落」、評論集に「戦争と性と革命」「巨人批評集」、朝日ジャーナル誌での連載をまとめた「巨人の未来風考察」などがある。
 遅筆、寡作で知られたが、晩年に「深淵」「縮図・インコ道理教」「地獄篇三部作」などの作品を発表し続けた。
 赤人さんによると、昨年暮れに肺炎で入院した後、自宅で療養していたという。>

□記事「作家の大西巨人さん死去 97歳、小説「神聖喜劇」」(朝日デジタル 2014年3月13日)
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン

          

   *
 
 大岡昇平も大西巨人も不正に敏感で、差別を批判した。
 大西は、二人の子どもが血友病であることもあって、次のような論陣を張った。ほかに、ハンセン病などについても言及がある。

(1)優生思想について
 「破廉恥漢渡部昇一の面皮をはぐ」
 「指定疾患医療給付と谷崎賞」
 「指定疾患医療給付と谷崎賞・補説」
 「渡部昇一における鉄面皮ぶりの一端」
 「恥を恥と思わぬ恥の上塗り」
   ※以上、『大西巨人文選3』(みすず書房、1996)

  【注】一連の論争については、「神聖な義務」アーカイブがある。

(2)障害児の教育権
 「障害者にも学ぶ権利がある」
 「文部大臣への公開状」
 「ふたたび文部大臣への公開状」
 「学習権妨害は犯罪である」
 「『私憤』の激動に徹する」
 「『学校教育法』第二十三条のこと」
   ※以上、『時と無限 大西赤人作品集・大西巨人批評集』(創樹社、1973)
 「面談『大西赤人問題』今日の過渡的決着」
 「付審判請求から特別抗告へ」
   ※以上、『巨人批評集』(秀山社、1975)

     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン

     

【原発】巻き返しをはかる原発推進派の策動 ~利権構造の再現~

2014年03月13日 | 震災・原発事故
 (1)安部政権は、今井尚哉・前経済産業省資源エネルギー庁次長を首相秘書官に据える。今井は、開催電力大飯原発再稼働の先頭に立った。
 その安部“原子力ムラ内閣”が、原発再稼働に本格的に手を染め始めた。
 原子力規制委員会を矢面に立たせるのが、その手法だ。同委員会が「世界で一番厳しい基準」で安全と判断すれば再稼働していきたい・・・・と安部首相は繰り返し強調する。だが、「世界で一番厳しい基準」という発言こそ、安部首相の無知の証明、経産官僚に洗脳されている証左だ。

 (2)<ソフトで対応するのか、ハードで対応するのかの違いはあれど、「メルトダウン事故は起きる」という前提で考えているのが世界の潮流です。ところが(日本の)技術委員会の議論を聞いていると、「メルトダウンが起きる」という前提の議論をしていない。「メルトダウンがいかに起きないのかを必死にで説明している」というのは、第二の安全神話を作るのにほかならない>(泉田裕彦・新潟県知事の定例記者会見・メディア懇談会、2013年10月16日)
 他方、安倍首相は「メルトダウン事故は起きる」という前提を考えていない。
 そもそも安部は、2年前の総選挙の選挙公約で、「原子力に依存しなくてもよい経済社会構造の確立」を掲げていた。
 ところが、今になって原発を「基盤となる重要なベース電源」(「エネルギー基本計画案」、2013年末策定)と言い出し、メルトダウン事故の対策もとらず、再稼働に踏み切ろうとし、原発輸出さえ目論んでいる。

 (3)さらに、いま進行中なのが、再稼働反対の脱原発派知事潰しだ。例えば、嘉田由紀子・滋賀県知事潰し。
  (a)2月22日、自民党滋賀県連大会で、上野賢一郎・県連会長/衆議院議員は、来賓の嘉田知事を前に「7月の滋賀県知事選では新しいリーダーを」と宣戦布告した。
  (b)嘉田知事の対抗馬は、原子力ムラの総本山である経産省の官僚だった小鑓隆史・前内閣官房日本経済再生総合事務局参参事官(2月28日退職)だ。
  (c)嘉田知事は、野田政権が進めた大飯原発再稼働に、橋下徹・大阪市長らと共に強く反対。今井資源エネルギー庁次長(当時)に、「再稼働しないと電力不足となって病院の電気が止まったらどうするのですか」などと脅された。安倍首相の側近に抜擢された今井ら官邸関係者が嘉田知事潰しのため後輩の経産官僚擁立に動いた、という見方もある。
  (d)嘉田知事潰しに加わるのが、東京電力に代わって電力業界のドンとなった関西電力だ。大飯原発再稼働の時も、関電がローラー作戦をかけ、滋賀県内をはじめ関西の中小企業を「再稼働しないと計画停電になる」と脅した。
  (e)自民党サイドからは、前回の知事選で嘉田知事を支援した滋賀県の経済界や各種団体に、「今度の選挙では嘉田知事を応援するな」という横やりをすでに入れ始めた。

 (4)経済3団体(日本経団連・経済同友会・日本商工会議所)は、3・11以降、原発再稼働や従来通りの原発の国策としての固定化等を求める提言・レポートを実に24も発表。
 各電力会社のトップらがほとんどの会長職を占めている北海道、中部、九州など地方の経済連合会も、政府に同趣旨の提言・要望を提出している。
 電気事業連合会を先頭に、財界が総力を挙げて巻き返しを狙っている。

 (5)昨年5月、原発族議員である自民党の「電力安定供給推進議員連盟」(細田博之・会長/党幹事長代行)が結成され、昨年末現在140人以上が加盟している。

 (6)今年1月、電力業界は、自民党内で国会議員に対する「エネルギー基本計画案」に対するアンケート調査を実施した際、電事連は同調査記入にあたっての「模範回答」まで議員に送付している。すなわち、①原発の重要電源としての位置づけ明記、②再稼働の迅速化、③原発新増設の明確化。【注】

 (7)メディアの原発報道も3年の間に大きく変わった。
 事故直後は、原発に批判的な番組が一気に増えた。
 今では、「原発事故関連番組は視聴率が取れない」【テレビ局関係者】として避ける傾向が目立つ。
 それどころか、安倍政権発足後は、原発輸出や再稼働に突き進む安倍政権を批判する番組は激減した。その一方、現役閣僚が、高支持率を背景に脱原発派のコメンテーターの番組出演にクレームの電話をかけたりする。

 【注】
記事「原発推進、水面下で工作 業界、自民議員らに「回答例」」(朝日デジタル 2014年1月31日05時00分)
記事「原発新増設、自民に促す 電力業界、議員に「模範回答」配布 政権方針超え、利益前面」(朝日デジタル 2014年1月31日05時00分)

□横田一「利権構造の再現を狙う 巻き返しをはかる原発推進派の策動」(「週刊金曜日」2014年3月7日号)
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン