語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【原発】福島に不足する熟練作業員 ~ミスが続く原因~

2014年03月11日 | 震災・原発事故
 (1)2014年2月19日深夜、福島第一原発H6エリアのタンクから汚染水が漏れているのが見つかった。
 翌20日、東京電力は、100トンもの汚染水が漏洩した、と発表。かかる大量の汚染水が漏洩した経緯は、東電説明によれば、次のとおり。
 汚染水をタンクに送り込む配管の、弁の開閉状態が違っていたため、本来、汚染水を送り込むはずだったEエリアのタンクではなく、H6エリアのタンクに流れ、その結果溢れた。
 つまり、「単純操作ミス」だった可能性がある。

 (2)疑問は、まだある。
 汚染水を断続的に移送していた19日14時から23時まで、Eエリアタンク内の水位に変化はなかった。つまり、タンクに水が送られていない可能性が考えられる。にも拘わらず、担当者が作業を止めなかった。水位の変化がなければ、どこかで漏洩の可能性もある。だが、放置されていた。
 東電は、水位に気づかなかった理由は「調査中」としている。

 (3)福島第一原発では、昨年来、かかる初歩的ミスを原因とするトラブルが続出している。
  (a)2013年10月1日には、作業員が窒素注入装置の停止ボタンを誤って押し、1系統が停止した。翌日、汚染水の貯蔵タンクの傾きを知らなかった担当者が、通常通りに注水し、汚染水が溢れた。
  (b)1週間後の9日には、除染装置の配管を間違って外して、大量の高濃度汚染水を漏洩させた上に、作業員6人に汚染水を浴びさせてしまった。さらに、現場責任者がPHSの通話可能範囲を知らず、連絡が遅れ、11トンもの大量漏洩に繋げてしまった。

 (4)なぜ、こうしたミスが続くのか。
 大きな要因として考えられるのは、現場を熟知した熟練作業員の不足だ。
 作業員の被爆限度は、法律上、50mSv/年or100mSv/5年だ。ここで言う5年の起点は2011年4月1日だ。ただし、福島第一原発に係る作業は、事故が発生した3月の分も加算される。
 事故から4年目を迎える今、事故直後から収束作業に関わってきたベテラン作業員が、100mSvの上限に近づいて現場から抜けるケースが増えてきている。このため、現場を統括できる人材が不足してきているのだ【注】。
 ここ半年間で続出した一連の事故の背景に、現場の管理能力の低下がある。
 ベテラン作業員らが現場に戻ることができるのは、被曝線量がリセットされる2年後(2016年)の4月1日だ。

 (5)熟練作業員が減る一方で、初めて原発に入る作業員が増加している。最近は、東電の事務系社員が現場に入ることもある。
 ある作業員は、困惑して漏らす。「工具の使い方や専門用語から教えないと行けない」 
 事故前は、先輩作業員について仕事を覚えるのが当然だったが、そうした時間はない。
 それでも東電は、中期的には「作業員の不足はない」と説明する。放射線作業従事者の登録人数は8,000人。福島第一原発の作業員数は1日あたり3,500人程度なので余裕がある、という説明だ。
 だが、福島第一原発で収束作業にあたった作業員の中には、被曝線量の関係で現場を離れても非常時のために登録を残している人がいる。だから、登録人数の8,000人がそのまま実働可能な作業員数になるわけではない。
 
 (6)さらに、東電は8,000人の作業員が「ベテラン」なのか「新人」なのかといった詳細を明らかにしていない。記者会見では、「パーツ、パーツで見ているわけではない」と述べている。
 危機的状況が現実になる中、この回答は不誠実だ。責任放棄に近い。
 また、たとえ2年後にベテラン作業員が戻ってきたとしても、今後は被曝線量の大きい原子炉建屋内の作業が増える。作業内容が高度になり、かつ、被爆低減のためには多くの人員が必要になる。
 仮に、その時点で再稼働が始まっていたら、危険な福島第一原発に行く作業員は、今より少なくなる。

 (7)事故収束までに、最低でも数十年かかる。
 現場の安全を確保しつつ廃炉を進めるには、東電の解体を含めた体制の見直しが急務だ。

 【注】記事「(東日本大震災3年)作業員1.5万人、5ミリシーベルト超 被曝、汚染水対策で」(朝日デジタル 2014年3月9日05時00分)

□木野龍逸(ジャーナリスト)「1Fで不足気味の熟練作業員」(「週刊金曜日」2014年3月7日号)
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 【参考】
【原発】東電が隠す放射能拡散のリスク ~4号機核燃料の搬出~
【原発】汚染水を浄化できるか ~福島第一原発はどうなっているのか~
【原発】今、そこにある汚染水危機(3) ~次の震度6~
【原発】「汚染水」の本当の深刻さ ~東電のコストカットが一因~
【原発】「被ばく労働を考えるネットワーク」結成
【原発】停止しても25兆円儲ける原子力ムラ ~除染・廃炉ビジネス~





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