語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【ドイツ】「貧困移民」大量流入を懸念する与党が「給付金の不正受給者は国外追放」

2014年03月04日 | 社会
 (1)1月8日、連邦政府は立ち上げた。移民の社会保障給付金に係る不正受給のチェックと対応策について協議する政務次官レベルの委員会を。
 今年元日から、ブルガリア人とルーマニア人に対する就労制限が撤廃された。EU全域内で自由に移動、居住、就労できるようになった。
 これに伴って、連立政権を担うキリスト教社会同盟(CSU)が、社会保障給付金の受給を目的とする「貧困移民」の大量流入を阻止しようと、「不正受給者は国外追放されるべし」との見解書を年末に出し、連立政権内外に波紋を広げたことが原因だ。

 (2)ブルガリアとルーマニアは、2007年にEU加盟したが、新規加盟国には最大7年間の就労制限を課すことができるため、ドイツでも2013年末までは就労ビザなしに働くことはできなかった。それでも、職を求めて両国から移住してくる者は、2007年移行、急増し、昨年半ばの時点でブルガリア人13万人、ルーマニア人23万人が居住していた。
 ベルリン、ドルトムント、デュイスブルグといった市に移民が集中し、彼らに支給される児童手当や緊急医療費などの出費で自治体の財政がさらに逼迫するといったケースが報告された。それとともに、一部地区でゲットー化が進む、といったことがメディアで頻繁にクローズアップされるようになった。
 さらに、昨年10月には、ノルトライン=ヴェストファーレン州の地方裁判所が、ドイツで職に就いたことのない求職中のルーマニア人家族に対して、長期失業者と生活保護者向け給付金ハルツⅣの受給(大人1人当たり月額391ユーロ=54,000円)を認める判決を下した。
 ために、2014年以降は給付金目当てに移民が押し寄せるのではないか、という懸念が一挙に広がり、昨年11月には15の市長が連立与党党首に対し、国の財政支援などを求める請願書を提出するまで至っていた。

 (3)連立政権から出されたのが、CSUの見解書だ。入国後3か月は社会保障給付金を給付しない。不正受給が発覚した場合は国外退去と再入国を禁止する。・・・・というもの。
 これに対して連立政権内部からは、
  (a)5月のEU議会選挙をにらんだキャンペーンだ(非難の声)。
  (b)特定の外国人グループを犯罪者と見なしている(批判の声)。
 連立を組む社会民主党(SPD)のシュタインマイヤー外相は、報道官を通じてコメントした。「EUで保障される居住と就労の自由を放棄することは許されない」

 (4)メルケル首相は、連立政権内の亀裂を危惧。問題を感情論ではなく、客観視すべきとして、委員会の設置を指示した。会議には、11省庁の政務次官と連邦移民・難民庁長官が加わり、不正受給の実態把握や法的措置の検討、さらに増加する移民に伴う自治体の支出増大に国としての支援策を検討し、6月をめどに最終的な結論を出す。

 (5)移民問題に係る国民感情は複雑だ。
 公共放送ZDFが1月17日に報告した世論調査では、56%が「移民が必要だ」と回答しつつも、62%が「ルーマニアとブルガリアから移民がやってくるのは社会保障給付金が目当てである」とみている。今の自分たちの豊かな暮らしを守りたい、と願う気持ちと、それを脅かすかもしれない者への不安の表れだろう。

 (6)専門家は、今年ルーマニアとブルガリアからドイツへ来る移民の数は、10万人から18万人にのぼる、と予測している。
 EUの最貧国から、EUの勝ち組であるドイツへ少しでも良い暮らしと将来への活路を求めて人々が移住してくるのは当然の流れだとも言える。
 そもそも、ドイツは戦後の高度成長期にトルコ、イタリア、スペインといった国々から大量の外国人労働者を招き、外部からの活力を取り入れて経済力を伸ばしてきた。
 今や、ドイツ国民の5人に1人が移民をバックグラウンドに持つ。10歳以下の子どもに至っては、3人に1人が移民ルーツだ。

 (7)ルーマニアとブルガリアからの移民といっても、単純作業にしかありつけない人から高学歴の人まで、多様な人材がいる。少子高齢化の影響が懸念される今だからこそ、さまざまな力を取り込む好機だ。
 それは、EUの索引力であるドイツの果たすべき役割であり、ひいてはEUの命運がここにかかっている。

□神野直子「「貧困移民」の大量流入を懸念する与党CSUが「給付金の不正受給者は国外追放」と見解出し波紋」(「週刊金曜日」2014年2月14日号)
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