●佐々木圭一『伝え方が9割』(ダイヤモンド社、2013.3.1)
論理的にしっかりしているプレゼンテーションでもメッセージが相手に伝わらないことがある。そういうときは、レトリック(修辞)を改善すると、コミュニケーション力が飛躍的に高まる。佐々木圭一氏の以下の指摘が本質を突いている。
<「芝生に入らないで」
→あなたのメリットでしかない。
「芝生に入ると、農薬の臭いがつきます」
→相手の嫌いなことからつくり、あなたのお願いを聞くこと(芝生に入らないこと)が相手のメリットに変わった。>
政治や外交の世界でも「おまえ、うそをつくな」と言えばけんかになる。それに対して、「お互いに正直にやろう」と語りかければ、相手も「そうしよう」と答え、特に問題は生じない。伝え方によって、メッセージが持つ効果がまったく異なってくる。外務官僚が本書を読んで、伝え方の技術を学べば、日本の外交交渉力が高まる。
□佐藤優「知を磨く読書 第41回」(「週刊ダイヤモンド」2014年3月8日号)
*
●森炎『教養としての冤罪論』(文藝春秋、2014.1.24)
元裁判官が描く司法の闇の深さ
コンプライアンス(法令順守)を無視する企業は生き残っていけない。できるタイプのビジネスパーソンは、どうしてもやり過ぎてしまい、コンプライアンスに引っかかることがある。裁判になっても、「疑わしきは被告人の利益に」という推定無罪の原則が働くと思うのは甘いという現実について、元裁判官で現在は弁護士として活躍する森炎氏が説得力のある議論を展開する。
<職業裁判官は決して、客観的中立的で無色透明な、合理性だけを追い求める開明的な存在ではない。それどころか、国家刑罰権の行使という暗い色彩を不可避的にまとった歪んだ存在である。広い意味では、治安維持の任務を帯びた権力的存在にほかならない。何しろ、そのために公給をもらっているのだから>という森氏の指摘はその通りと思う。
現役裁判官の中で、森氏のように自分の置かれた状況を客観的に認識している人は少ないと思う。司法の闇の深さがわかる良書だ。
□佐藤優「知を磨く読書 第40回」(「週刊ダイヤモンド」2014年3月1日号)
*
●春原剛『日本版NSCとは何か』(新潮新書、2014.1.15)
日本版NSC設置と安部政権の思惑
国家安全保障会議(日本版NSC)について、これまで評者が読んだ本の中で、本書が最も優れている。日米両国の政策決定者との強力な人脈を持っている春原剛氏だからこそ書けた本だ。
日本版NSCと特定秘密保護法の関係、安倍政権の思惑について春原氏はこう記す。<外交・安全保障政策の司令塔となる日本版NSCが本格的に立ち上がるのに連動する形で、その現状(情報収集だけでなく情報保全も遅れている現状:引用者注)から抜け出そうという試み、言い換えれば、この情報分野における守りを固めようという考えの具体策が、「特定秘密保護法」ということになります。/(中略)安倍政権のシナリオに沿えば、日本版NSCの設置法案と特定秘密保護法案は「セット案件」であり、これら二つの法案の成立には大きなタイムラグが生じないようにしたい、というのが本音だったと言えるでしょう>。この現実が見えている国会議員があまりに少ないのが日本の悲劇だ。
□佐藤優「知を磨く読書 第39回」(「週刊ダイヤモンド」2014年3月1日号)
【参考】
「【佐藤優】の書評 ~知を磨く読書~」
↓クリック、プリーズ。↓
論理的にしっかりしているプレゼンテーションでもメッセージが相手に伝わらないことがある。そういうときは、レトリック(修辞)を改善すると、コミュニケーション力が飛躍的に高まる。佐々木圭一氏の以下の指摘が本質を突いている。
<「芝生に入らないで」
→あなたのメリットでしかない。
「芝生に入ると、農薬の臭いがつきます」
→相手の嫌いなことからつくり、あなたのお願いを聞くこと(芝生に入らないこと)が相手のメリットに変わった。>
政治や外交の世界でも「おまえ、うそをつくな」と言えばけんかになる。それに対して、「お互いに正直にやろう」と語りかければ、相手も「そうしよう」と答え、特に問題は生じない。伝え方によって、メッセージが持つ効果がまったく異なってくる。外務官僚が本書を読んで、伝え方の技術を学べば、日本の外交交渉力が高まる。
□佐藤優「知を磨く読書 第41回」(「週刊ダイヤモンド」2014年3月8日号)
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●森炎『教養としての冤罪論』(文藝春秋、2014.1.24)
元裁判官が描く司法の闇の深さ
コンプライアンス(法令順守)を無視する企業は生き残っていけない。できるタイプのビジネスパーソンは、どうしてもやり過ぎてしまい、コンプライアンスに引っかかることがある。裁判になっても、「疑わしきは被告人の利益に」という推定無罪の原則が働くと思うのは甘いという現実について、元裁判官で現在は弁護士として活躍する森炎氏が説得力のある議論を展開する。
<職業裁判官は決して、客観的中立的で無色透明な、合理性だけを追い求める開明的な存在ではない。それどころか、国家刑罰権の行使という暗い色彩を不可避的にまとった歪んだ存在である。広い意味では、治安維持の任務を帯びた権力的存在にほかならない。何しろ、そのために公給をもらっているのだから>という森氏の指摘はその通りと思う。
現役裁判官の中で、森氏のように自分の置かれた状況を客観的に認識している人は少ないと思う。司法の闇の深さがわかる良書だ。
□佐藤優「知を磨く読書 第40回」(「週刊ダイヤモンド」2014年3月1日号)
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●春原剛『日本版NSCとは何か』(新潮新書、2014.1.15)
日本版NSC設置と安部政権の思惑
国家安全保障会議(日本版NSC)について、これまで評者が読んだ本の中で、本書が最も優れている。日米両国の政策決定者との強力な人脈を持っている春原剛氏だからこそ書けた本だ。
日本版NSCと特定秘密保護法の関係、安倍政権の思惑について春原氏はこう記す。<外交・安全保障政策の司令塔となる日本版NSCが本格的に立ち上がるのに連動する形で、その現状(情報収集だけでなく情報保全も遅れている現状:引用者注)から抜け出そうという試み、言い換えれば、この情報分野における守りを固めようという考えの具体策が、「特定秘密保護法」ということになります。/(中略)安倍政権のシナリオに沿えば、日本版NSCの設置法案と特定秘密保護法案は「セット案件」であり、これら二つの法案の成立には大きなタイムラグが生じないようにしたい、というのが本音だったと言えるでしょう>。この現実が見えている国会議員があまりに少ないのが日本の悲劇だ。
□佐藤優「知を磨く読書 第39回」(「週刊ダイヤモンド」2014年3月1日号)
【参考】
「【佐藤優】の書評 ~知を磨く読書~」
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