(1)スペインの全国管区裁判所が、2月10日、チベットにおける虐殺に関与した容疑で、中国の江沢民・元国家主席、李鵬・元首相らの国際手配を国際刑事警察機構(ICPO)に求める、と決定した。
<スペインの裁判所は10日、チベットでの「虐殺」に関与した疑いがあるとして、中国の江沢民・元国家主席らを国際手配するよう国際刑事警察機構(インターポール)に求めると決めた。実際に逮捕される可能性は極めて乏しいとみられるが、中国は反発を強めている>【注】
<AFP通信などが伝えた。国際手配を求められたのは江氏や李鵬・元首相ら計5人。亡命チベット人らの団体が「虐殺や拷問が重ねられた」としてスペインで告発していた。インターポールは仏リヨンに本部を構え、中国も加盟している。中国が国際手配に反対するのは確実だ>【注】
<スペインの裁判所は昨年11月に告発の内容を認め、手続きを進めてきた。中国外務省の華春瑩副報道局長は11日の定例記者会見で「強烈な不満と断固たる反対」を表明した>【注】
<華副局長は「チベット独立勢力があの手この手で中国政府を攻撃している」と批判。「スペイン政府が適切に問題を処理するよう希望する」と述べ、結果次第では「両国関係の健全な発展にも影響する」との見方を示した>【注】
(2)フランコ総統時代のスペインは、第二次世界大戦中、ナチス・ドイツや日本に対して好意的な中立国だった。
戦後も、欧米の民主主義国とは一線を画した権威主義的な統治が行われた。
1946年12月の国連総会は、ファッショ国家であるスペインを国連から排除すべきである、との決議を採択した。その後、東西冷戦の激化によって、西側諸国はスペインに対する姿勢を軟化させた。しかし、フランコは権威主義的統治を継続した。他の西欧諸国では廃止ないし停止されていた死刑の執行もスペインでは行われた。
(3)1975年にフランコ死去後、スペインは立憲君主体制に回帰した。急速に民主化が進行した。
フランコ時代の人権抑圧に対する反省から、現在のスペインは人権問題に対して敏感で、同国の裁判所には反人道罪については海外の事件でも管轄が認められている。
在外チベット人団体は、スペインのかかる事情に着目し、訴訟戦術によって中国当局によるチベット民族弾圧を国際社会に強く訴えることを試み、成功した。
(4)もっとも、スペインにおいても司法は独立している。
スペイン政府が中国に対してチベット人問題についてシグナルを発したわけではない。
スペイン国内でもカタルーニャ州、バスク自治州において、深刻な分離・独立運動がある。よって、スペイン政府が中国からのチベットの分離・独立に肯定的態度をとることはない。
今回は、ICOP加盟国である中国が江沢民らの引き渡しを拒否することは必至だ。事態がこれ以上深刻化することはない。
もっとも、江沢民、李鵬らの悪名が世界に轟いたので、本件は中国の国益にとってマイナスだ。
スペイン政府としても、今後、類似の問題が起きて中国との関係に悪影響を与えないよう、法改正を行うだろう。
【注】記事「「江沢民氏、国際手配を」スペインの裁判所 チベット「虐殺」関与の疑い」(朝日デジタル 2014年2月12日05時00分)
□佐藤優「スペイン司法が中国要人を手配した理由 ~佐藤優の人間観察 第99回~」(「週刊現代」2014年3月8日号)
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<スペインの裁判所は10日、チベットでの「虐殺」に関与した疑いがあるとして、中国の江沢民・元国家主席らを国際手配するよう国際刑事警察機構(インターポール)に求めると決めた。実際に逮捕される可能性は極めて乏しいとみられるが、中国は反発を強めている>【注】
<AFP通信などが伝えた。国際手配を求められたのは江氏や李鵬・元首相ら計5人。亡命チベット人らの団体が「虐殺や拷問が重ねられた」としてスペインで告発していた。インターポールは仏リヨンに本部を構え、中国も加盟している。中国が国際手配に反対するのは確実だ>【注】
<スペインの裁判所は昨年11月に告発の内容を認め、手続きを進めてきた。中国外務省の華春瑩副報道局長は11日の定例記者会見で「強烈な不満と断固たる反対」を表明した>【注】
<華副局長は「チベット独立勢力があの手この手で中国政府を攻撃している」と批判。「スペイン政府が適切に問題を処理するよう希望する」と述べ、結果次第では「両国関係の健全な発展にも影響する」との見方を示した>【注】
(2)フランコ総統時代のスペインは、第二次世界大戦中、ナチス・ドイツや日本に対して好意的な中立国だった。
戦後も、欧米の民主主義国とは一線を画した権威主義的な統治が行われた。
1946年12月の国連総会は、ファッショ国家であるスペインを国連から排除すべきである、との決議を採択した。その後、東西冷戦の激化によって、西側諸国はスペインに対する姿勢を軟化させた。しかし、フランコは権威主義的統治を継続した。他の西欧諸国では廃止ないし停止されていた死刑の執行もスペインでは行われた。
(3)1975年にフランコ死去後、スペインは立憲君主体制に回帰した。急速に民主化が進行した。
フランコ時代の人権抑圧に対する反省から、現在のスペインは人権問題に対して敏感で、同国の裁判所には反人道罪については海外の事件でも管轄が認められている。
在外チベット人団体は、スペインのかかる事情に着目し、訴訟戦術によって中国当局によるチベット民族弾圧を国際社会に強く訴えることを試み、成功した。
(4)もっとも、スペインにおいても司法は独立している。
スペイン政府が中国に対してチベット人問題についてシグナルを発したわけではない。
スペイン国内でもカタルーニャ州、バスク自治州において、深刻な分離・独立運動がある。よって、スペイン政府が中国からのチベットの分離・独立に肯定的態度をとることはない。
今回は、ICOP加盟国である中国が江沢民らの引き渡しを拒否することは必至だ。事態がこれ以上深刻化することはない。
もっとも、江沢民、李鵬らの悪名が世界に轟いたので、本件は中国の国益にとってマイナスだ。
スペイン政府としても、今後、類似の問題が起きて中国との関係に悪影響を与えないよう、法改正を行うだろう。
【注】記事「「江沢民氏、国際手配を」スペインの裁判所 チベット「虐殺」関与の疑い」(朝日デジタル 2014年2月12日05時00分)
□佐藤優「スペイン司法が中国要人を手配した理由 ~佐藤優の人間観察 第99回~」(「週刊現代」2014年3月8日号)
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