2008年末から2009年にかけて取り組まれた「年越し派遣村」は、1,700人に近いボランティア、5,000万円超のカンパ、全国に派生した無数の「派遣村」の取り組みなど、市民の大きな反響を呼んだ。
政治も反応し、後の民主党への政権交代につながった。民主党政権は、労働の規制緩和から労働者保護へ舵を切り、不十分な内容だったが、日雇い派遣や派遣先の責任を強化した派遣法改正にも繋がった。
しかし、安倍政権は労働者保護から規制緩和へ再び舵を切った。それは、働く者の尊厳を再び奪おうとするものだ。
安倍政権の雇用政策に通底するスローガンとして「人を動かす」がある。
安倍政権の経済政策を検討する会議(<例>産業競争力会議に置かれた「雇用・人材分科会」と国家戦略特区ワーキンググループ、規制改革会議に置かれた雇用ワーキンググループ)では、動くのが人であることを忘れているような議論がしばしば行われる。衰退産業で人が余っている状況を「余剰在庫」と呼び、賃金が下がっていることを「価格調整の失敗」と呼ぶ。人を「商品」のように扱いたい本音が出ている呼び方だ。
ILOのフィラデルフィア宣言を持ち出すまでもなく、人は商品ではない。
しかるに、2008年の年末、企業は余った商品を廃棄するかのように派遣労働者を解雇し、住居=寮から追い出した。労働の商品化は、仕事がなくなっても飯を食わねばならないし、眠る場所が要るという現実を見失わせてしまう。
安倍首相が好んで使う「岩盤規制」とは「労働者保護ルール」のことだ。岩盤規制に穴を開けるとは、労働者保護ルールを破壊するということだ。
労働者の商品化を最も進めるのは労働者派遣法改正案(臨時国会へ提出)だ。改正案は、専門26業種をなくし、すべての派遣労働者(派遣会社で基幹の定めのない契約の者を除く)の働く上限を3年にした。一方、企業は3年の上限が来ても人を替えれば同じ職場で派遣労働者を使うことが可能になる。派遣は、臨時的、一時的な仕事に利用するという原則が消え、常時ある仕事に派遣は使えないという常用代替禁止も機能不全に陥る。改正案がめざすのは「正社員ゼロ」「生涯派遣」の構造であった。
改正案は、安定して働きたいと願う現・派遣労働者の希望を打ち砕くものでもあった。
ロンドンの金融街「シティ」で演説した安倍首相は、その後の記者会見で労働時間規制緩和への意欲を示した。
新しい労働時間制度として、労働政策審議会(厚生労働省)で議論されているが、内容は第一次安倍政権(2006~07年)の時に提案されたホワイトカラー・エグゼンプション(WE)とほぼ同じだ。年収1,000万円以上で専門的な業務に就く労働者を労働時間規制(1日8時間、週40時間)から除外する制度だ。残業という概念がなくなり、何時間でも使い放題になる。
前回は、「過労死促進法」「残業代ゼロ法」と批判を浴び、法案を国会へ提出できなかった。
今回は、「長時間労働の抑制を徹底する」と掲げているが、労働基準監督官を増員して監督を厳しくするのが唯一の具体策だ。しかし、対象者は時間規制から除外されるのだから、監督・指導しようがない。使い放題は野放しとなる。
過労死・過労自殺の被害者が過去最悪レベルで推移している現状で、こうした改正を目論むのは不謹慎でさえある。
解雇の金銭解決も検討されている。使用者は、裁判のリスクを考えることなく解雇できる。実質的な解雇の自由だ。
「人を動かす」にはその地位を奪うのが一番早い。
解雇が怖くてモノ言わぬ労働者が群れをなすであろう。
□東海林智「正社員ゼロ」「残業代ゼロ」、労働の商品化が加速する 「派遣村」から6年、「人間の尊厳」を奪う安倍政権」(「週刊金曜日」2014年11月21日号)
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【参考】
「【非正規】臨時教員は潜在的失業者 ~「安上がり」教育が生む労働破壊~」
「【非正規】雇用の構図に大変化 ~企業と消費者のリスクも高まる~」
政治も反応し、後の民主党への政権交代につながった。民主党政権は、労働の規制緩和から労働者保護へ舵を切り、不十分な内容だったが、日雇い派遣や派遣先の責任を強化した派遣法改正にも繋がった。
しかし、安倍政権は労働者保護から規制緩和へ再び舵を切った。それは、働く者の尊厳を再び奪おうとするものだ。
安倍政権の雇用政策に通底するスローガンとして「人を動かす」がある。
安倍政権の経済政策を検討する会議(<例>産業競争力会議に置かれた「雇用・人材分科会」と国家戦略特区ワーキンググループ、規制改革会議に置かれた雇用ワーキンググループ)では、動くのが人であることを忘れているような議論がしばしば行われる。衰退産業で人が余っている状況を「余剰在庫」と呼び、賃金が下がっていることを「価格調整の失敗」と呼ぶ。人を「商品」のように扱いたい本音が出ている呼び方だ。
ILOのフィラデルフィア宣言を持ち出すまでもなく、人は商品ではない。
しかるに、2008年の年末、企業は余った商品を廃棄するかのように派遣労働者を解雇し、住居=寮から追い出した。労働の商品化は、仕事がなくなっても飯を食わねばならないし、眠る場所が要るという現実を見失わせてしまう。
安倍首相が好んで使う「岩盤規制」とは「労働者保護ルール」のことだ。岩盤規制に穴を開けるとは、労働者保護ルールを破壊するということだ。
労働者の商品化を最も進めるのは労働者派遣法改正案(臨時国会へ提出)だ。改正案は、専門26業種をなくし、すべての派遣労働者(派遣会社で基幹の定めのない契約の者を除く)の働く上限を3年にした。一方、企業は3年の上限が来ても人を替えれば同じ職場で派遣労働者を使うことが可能になる。派遣は、臨時的、一時的な仕事に利用するという原則が消え、常時ある仕事に派遣は使えないという常用代替禁止も機能不全に陥る。改正案がめざすのは「正社員ゼロ」「生涯派遣」の構造であった。
改正案は、安定して働きたいと願う現・派遣労働者の希望を打ち砕くものでもあった。
ロンドンの金融街「シティ」で演説した安倍首相は、その後の記者会見で労働時間規制緩和への意欲を示した。
新しい労働時間制度として、労働政策審議会(厚生労働省)で議論されているが、内容は第一次安倍政権(2006~07年)の時に提案されたホワイトカラー・エグゼンプション(WE)とほぼ同じだ。年収1,000万円以上で専門的な業務に就く労働者を労働時間規制(1日8時間、週40時間)から除外する制度だ。残業という概念がなくなり、何時間でも使い放題になる。
前回は、「過労死促進法」「残業代ゼロ法」と批判を浴び、法案を国会へ提出できなかった。
今回は、「長時間労働の抑制を徹底する」と掲げているが、労働基準監督官を増員して監督を厳しくするのが唯一の具体策だ。しかし、対象者は時間規制から除外されるのだから、監督・指導しようがない。使い放題は野放しとなる。
過労死・過労自殺の被害者が過去最悪レベルで推移している現状で、こうした改正を目論むのは不謹慎でさえある。
解雇の金銭解決も検討されている。使用者は、裁判のリスクを考えることなく解雇できる。実質的な解雇の自由だ。
「人を動かす」にはその地位を奪うのが一番早い。
解雇が怖くてモノ言わぬ労働者が群れをなすであろう。
□東海林智「正社員ゼロ」「残業代ゼロ」、労働の商品化が加速する 「派遣村」から6年、「人間の尊厳」を奪う安倍政権」(「週刊金曜日」2014年11月21日号)
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【参考】
「【非正規】臨時教員は潜在的失業者 ~「安上がり」教育が生む労働破壊~」
「【非正規】雇用の構図に大変化 ~企業と消費者のリスクも高まる~」