語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【ピケティ】分析の特徴と主な考え ~トマ・ピケティ『21世紀の資本』~

2014年12月28日 | 批評・思想
(1)ピケティの分析の特徴
 これまで格差拡大の指標とされてきたジニ係数ではなく、納税記録【注】をもとに最上位所得層への所得の集中の実態を明らかにした。
 この手法によって、格差拡大を主導した所得分位がどの範囲の層であるかを高い精度で突き止めた。

 【注】ピケティは、世界中の共同研究者とともに、先進国および途上国の所得と資産に関する大規模な長期的データの蒐集とその綿密な比較研究を行ってきた。彼は、国際的な研究のネットワークを作り、米国・英国・仏国・独国・日本その他の先進国および主要な発展途上国の統計を集めている。特に先進国のデータはほぼ150年から200年にわたる膨大なものだ。

(2)ピケティやその共同研究者の考え
 研究によって、この数十年間で所得と資産の多くを集中したのは最上位1%であり、米国でそれらは現在、所得の20%、資産の30%を占め、それらが所得拡大の主因、つまり今日の経済格差の病巣であることが具体的に明らかにされた。
 (a)今日の先進国は、格差の強い20世紀初頭以前の状態から、二つの世界大戦を経て戦後の平等化された分配構造へ移行した。
 (b)所得分配の平等化は、
    技術革新、教育の普及、人口動態、移民
といった要因よりも、
    所得や資金に対する「社会的規範意識」が二つの大戦を経て大変化した
ことによって生じた。
 (c)米国において(b)は、
    戦時経済下の賃上げの許可制、最高税率が90%超の累進課税率の強化
などの制度的変化となって現れた。
 (d)かかる平準化された所得分配の状況は1960年代まで維持された。
 (e)1970年代以降、再び経済格差が強まり始めた。なぜなら、ここでもまた、
    教育、技術格差
というよりも、むしろ格差を抑え込んできた
   ①戦後の所得分配をめぐる社会的規範意識
   ②①を支えた歴史的条件
が衰微し、それによって政策的変化が起こったからだ。
 (f)米国や英国では、高額所得層に対する累進税率の引き下げによって企業の重役報酬が桁外れに跳ね上がった。かくて、上位集中型の新たな所得と資産の格差が生まれた。
 (g)20世紀半ば以降の平準化された所得分配は例外なのであった。現在の格差拡大の傾向は、第一次世界大戦以前のトレンドへの回帰を示す。
 
□本田浩邦「現代経済学を刷新する巨大なインパクト ~ピケティ現象を読み解く~」(「週刊金曜日」2014年12月19日号)
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン

 【参考】
【経済】累進資産課税が格差を解決する ~アベノミクス批判~
【経済】格差が広がると経済が成長しない ~株主資本主義の危険~
【経済】なぜ格差は拡大するか ~富の分配の歴史~