真面目にこつこつ働ているにもかかわらず、基本的な生活を成り立たせることができないワーキング・プア。
医療費を支払うこともできず、自らを蝕む疾患を放置せざるをえない人々。
成長期に必要な栄養すら賄えず、ふらふらになりながら日々の生活を送る子どもたち。
こうした困難な状況に置かれている人々にのみ目を向けていると、格差社会の隠れた病理に気づかず、やり過ごしてしまっているかもしれない。
格差の拡大は、貧困状態に陥っている人々ばかりだけでなく、以外の人々にも、目に見えない仕方でその生命をじわじわと蝕んでとのいる可能性があるからだ。
そうした研究の端緒となったのは、リチャード・ウィルキンソン・経済史家/社会疫学者の研究だ。その後、社会における格差の大きさと、その社会の健康状態の悪さ(死亡率などで示される)との間に創刊関係があることを示す複数の研究が現れてきた。
その中に日本を対象とした研究もある。
<例>所得格差は健康に影響を与える(有意な相関関係)。所得格差を示すジニ係数が0.3より上がった場合、人々の死亡のリスクが上がる。2007年における日本のジニ係数は0.314だが、それによる過剰死亡の数は2.3万人であると推計される。【近藤尚樹・東京大学大学院医学系研究科教授】
格差社会の中の貧しい層の健康状態が悪化することは容易に想像できる。だが、格差の負の影響はそれにとどまらず、豊かな人の健康をも削り取る。格差社会はすべての人の健康にとって悪いものなのだ。
格差が拡大している社会は、自らと他者との生活状況の差がより目につくものとなり、それゆえにこそ自らの「ランク」を意識せざるをえないという感覚が昂進している社会だ。そのような状況下では、格差社会の中で有利な立場にいる人も、自らの自負心を守るため自らの価値を示し続けようと過剰なストレスに曝されざるをえない。こうしたストレスこそが、社会の中で有利な立場にいる人に対しても、その健康状態を損なう影響を及ぼす。
格差の問題を、社会的に不利な立場の人固有の問題として捉えるのではなく、共に社会を形作る私たちすべての問題として捉える態度が望まれる。
前記R・ウィルキンソンは、格差は健康に悪影響を及ぼすだけでなく、治安や人々相互の信頼等、私たちが安心して社会生活を営んでいける基盤そのものにも影響が及ぶ、と指摘している。
格差の問題は、すべての人にとっても問題であり得る。そのようには思えないほど、格差が社会に対してもたらす病理は目に見えにくい。そうした見えにくい病理を前に、それでもなお、私たちが共に社会を作る人への想像力をたくましくする倫理こそ、今問われているのだ。
□伊東俊彦「格差社会の病理と倫理 すべての人の健康を蝕む過剰ストレス」(「週刊金曜日」2014年12月12日号)
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医療費を支払うこともできず、自らを蝕む疾患を放置せざるをえない人々。
成長期に必要な栄養すら賄えず、ふらふらになりながら日々の生活を送る子どもたち。
こうした困難な状況に置かれている人々にのみ目を向けていると、格差社会の隠れた病理に気づかず、やり過ごしてしまっているかもしれない。
格差の拡大は、貧困状態に陥っている人々ばかりだけでなく、以外の人々にも、目に見えない仕方でその生命をじわじわと蝕んでとのいる可能性があるからだ。
そうした研究の端緒となったのは、リチャード・ウィルキンソン・経済史家/社会疫学者の研究だ。その後、社会における格差の大きさと、その社会の健康状態の悪さ(死亡率などで示される)との間に創刊関係があることを示す複数の研究が現れてきた。
その中に日本を対象とした研究もある。
<例>所得格差は健康に影響を与える(有意な相関関係)。所得格差を示すジニ係数が0.3より上がった場合、人々の死亡のリスクが上がる。2007年における日本のジニ係数は0.314だが、それによる過剰死亡の数は2.3万人であると推計される。【近藤尚樹・東京大学大学院医学系研究科教授】
格差社会の中の貧しい層の健康状態が悪化することは容易に想像できる。だが、格差の負の影響はそれにとどまらず、豊かな人の健康をも削り取る。格差社会はすべての人の健康にとって悪いものなのだ。
格差が拡大している社会は、自らと他者との生活状況の差がより目につくものとなり、それゆえにこそ自らの「ランク」を意識せざるをえないという感覚が昂進している社会だ。そのような状況下では、格差社会の中で有利な立場にいる人も、自らの自負心を守るため自らの価値を示し続けようと過剰なストレスに曝されざるをえない。こうしたストレスこそが、社会の中で有利な立場にいる人に対しても、その健康状態を損なう影響を及ぼす。
格差の問題を、社会的に不利な立場の人固有の問題として捉えるのではなく、共に社会を形作る私たちすべての問題として捉える態度が望まれる。
前記R・ウィルキンソンは、格差は健康に悪影響を及ぼすだけでなく、治安や人々相互の信頼等、私たちが安心して社会生活を営んでいける基盤そのものにも影響が及ぶ、と指摘している。
格差の問題は、すべての人にとっても問題であり得る。そのようには思えないほど、格差が社会に対してもたらす病理は目に見えにくい。そうした見えにくい病理を前に、それでもなお、私たちが共に社会を作る人への想像力をたくましくする倫理こそ、今問われているのだ。
□伊東俊彦「格差社会の病理と倫理 すべての人の健康を蝕む過剰ストレス」(「週刊金曜日」2014年12月12日号)
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