語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【ピケティ】現代経済学を刷新する巨大なインパクト ~トマ・ピケティ(2)~

2014年12月29日 | 批評・思想
 ピケティの議論は、歴史、理論、政策を串刺しにしたような総題な広がりをもつ。
 そして、資本主義に対する楽観的な見方(長らく通説とされてきた)に根本的な修正を迫る。次の
   (1)の「逆U字型仮説」も、
   (2)の「生産関数の理論」も、
ともに20世紀前半の平等化の過程にあった資本主義経済を角に一般化することから生まれた。
 ピケティは、両者をしりぞけ、その後の資本主義の発展の経緯に即して現代経済学が想定してきた以上に資本主義が不安定な構造をもつことを浮き彫りにした。

(1)「逆U字型仮説」(サイモン・クズネッツ)に関わる。
 (a)クズネッツは、1914年から1945年の先進国の所得分配の変化を分析し、見通しを示した【1950年代半ばの論文】。すなわち、
    資本主義は一般にその発展の初期段階において不平等を強めるが、
    ある程度の発展以降は平等化が進む。
 (b)クズネッツは、当時、長期統計の最高権威であり、米国経済学会の会長でもあった。彼の見解は、冷戦下、東西の経済体制がせめぎ合うなか、資本主義の優位性を示唆するものとされた。特に、独立を果たした途上国が社会主義か資本主義かを選択するうえで、計りしれない影響をもった。
 (c)ピケティは次のように述べて、20世紀全体をみれば所得と資産の分配の不平等はむしろ拡大し、U字型を辿っていることを実証的に明らかにすることによってクズネッツ仮説を棄却した。
   <クズネッツ曲線の実証的根拠はきわめて脆弱であり、先進諸国の所得不平等の是正は世界大戦とそれに伴う経済的政治的ショックによるものであった。>
 
(2)生産関数の理論
 (a)戦後の経済学は、資本主義的市場が資本家or企業にとっても、労働者にとっても、公正な分配を保障するものであり、双方の取り分がバランスよく増大していく・・・・と想定した。この「生産関数の理論」は、かたちを進化させて今日の経済成長理論の柱となっている。
 (b)モデル分析で用いられる「コブ・ダグラス型生産関数」【注】について、ピケティは実証的に批判する。
   <一定期間の分析への接近としては有益だが、利潤と賃金の変化を調和的に説明し、富と所得の分配の不平等の問題、資本所得比率の変化を考慮しない。> 

 【注】経済学者のポール・ダグラス(1920年代からジョン・デューイらとともに社会主義的な第三政党運動に取り組んだ)が、数学者のチャールズ・コブとともに定式化した理論。この理論を彼の市場経済にもとづく社会民主主義的な経済戦略の基礎と考えた。

□本田浩邦「現代経済学を刷新する巨大なインパクト ~ピケティ現象を読み解く~」(「週刊金曜日」2014年12月19日号)
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 【参考】
【ピケティ】分析の特徴と主な考え ~トマ・ピケティ『21世紀の資本』~
【経済】累進資産課税が格差を解決する ~アベノミクス批判~
【経済】格差が広がると経済が成長しない ~株主資本主義の危険~
【経済】なぜ格差は拡大するか ~富の分配の歴史~