米上院情報特別委員会は、「CIAの秘密情報活動」に関する調査報告書を公表した。国家の安全保障にかかわる「秘密情報」であっても、国民の知る権利が優先されることを示したのだ。
同報告書は、ブッシュ政権下の「テロとの戦い」において、拘束したテロ容疑者への拷問の有無を解明するため、国務省やCIAなどに保管されていた多数の資料を収集、分析したものだ。
特に「諜報活動報告書、内部メモ、Eメール、インタビュー記録、契約書といった600万枚以上にのぼるCIA資料」に基づいて過酷な尋問の実態を明らかにした。その6,700ページにわたる報告のうち、今回525ページ分が公表された。
「イスラム国」のテロの脅威が増す中、公表をめぐって激しい議論の応酬があった。
しかし、上院情報特別委員会の設置理念が、反対意見を押し切った。
同委員会は、「米国の情報諜報活動が、合衆国憲法と法に準拠していると保証するため、絶えず用心深く監視する」ことを使命としている。
調査を指揮したダイアン・ファインスタイン委員長は、12月9日に公表した理由を説明した。すなわち、先の中間選挙の結果、「来年1月に上院のリーダーシップが替わる。そうなれば、この報告書が公表される見込みは薄くなる。5年半かけて調査したこのレポートを出すには時間制限があった」。
もとを辿れば、この委員会の理念は、米国の独立戦争の際に謳った政治宣言の一つに基づく。つまり「出版の自由」に関する権利」である。
<(この権利により)権力を乱用する役人どもは自らを恥ずかしく思うようになり、職務執行のうえでもっとも誠実かつ公正なやり方をとるようになるのである。>【注1】
英国の圧政を撥ね退けた理念が、まさに「出版の自由」だった。
米国との比較において、特定秘密保護法(2014年12月10日施行)は不安を残す。
外務省、防衛省など19の行政機関の長が指定した「特定秘密」について、日本では、充分な監視が行き届く仕組みとなっていない。
一応、内閣府に設置した「独立公文書管理監」が、不正な秘密指定や同法の運用についてチェックすることになっている。しかし、その権限は限られている。秘密指定の資料を強制的に提出させることはできない。
加えて、初代の「独立公文書管理監」は法務官僚であり、事務局スタッフも各省からの出向者だ。・・・・政府の一員による監視では、独立性が担保されていない。
かつて、沖縄返還をめぐる日米両政府間の密約を西山太吉・毎日新聞記者がスクープしたことがあった。
しかし、政府は密約の存在を否定し続け、西山記者は、外務省の女性職員をそそのかして機密電報を入手したとして逮捕、起訴された。最高裁で有罪が確定した。その裁判において、
<どういう形で申し合わせがあったかわかりませんが、政権中枢や外務省関係者は明白に虚偽の証言をした。検察の調べに対しても、上から下まで虚偽の供述を重ねていたのです。国家権力は、場合によっては、国民はもちろん、司法に対しても積極的に嘘を言う。そういうことが端無くも歴史上、証明されたのが密約事件です。歴史の中で、あそこまで露骨に事実を虚偽で塗り固めて押し通したものはありません。国家の秘密をめぐっては、こういうことがあるんだ、と検察官、裁判官も、事実として認識すべきです。>【注2】
特定秘密保護法は、情報の漏洩者に重い刑罰をかけることで、秘密を法の壁の中に閉じ込めるものだ。
しかし、その前提として、秘密が、日本国憲法と法に準拠して公正に指定されていることを保証する必要があるはずだ。国民の信頼を確保するためにも、やはり国会にこの法律の運用をチェックできる特別委員会を設置するべきではないか。
国民の代表に、特定秘密を検証させることもなく、官僚が決めたことを絶対視させる仕組みは、民主主義社会にあって、時代錯誤でしかない。
【注1】奥平康弘『「表現の自由」を求めて -アメリカにおける権利獲得の軌跡-』(岩波書店、1999)
【注2】記事「(インタビュー)秘密法、密約事件の教訓 元検事総長・松尾邦弘さん」(朝日新聞デジタル 2014年12月10日)
□岩瀬達哉「米国とあまりに違う! 時代錯誤で官僚任せの「秘密情報」の扱い方 ~ジャーナリストの目 第234回~」(「週刊現代」2015年1月3・10日号)
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【参考】
「【佐藤優】「拷問」を行わない諜報機関はない ~CIA尋問官のリンチ~」
同報告書は、ブッシュ政権下の「テロとの戦い」において、拘束したテロ容疑者への拷問の有無を解明するため、国務省やCIAなどに保管されていた多数の資料を収集、分析したものだ。
特に「諜報活動報告書、内部メモ、Eメール、インタビュー記録、契約書といった600万枚以上にのぼるCIA資料」に基づいて過酷な尋問の実態を明らかにした。その6,700ページにわたる報告のうち、今回525ページ分が公表された。
「イスラム国」のテロの脅威が増す中、公表をめぐって激しい議論の応酬があった。
しかし、上院情報特別委員会の設置理念が、反対意見を押し切った。
同委員会は、「米国の情報諜報活動が、合衆国憲法と法に準拠していると保証するため、絶えず用心深く監視する」ことを使命としている。
調査を指揮したダイアン・ファインスタイン委員長は、12月9日に公表した理由を説明した。すなわち、先の中間選挙の結果、「来年1月に上院のリーダーシップが替わる。そうなれば、この報告書が公表される見込みは薄くなる。5年半かけて調査したこのレポートを出すには時間制限があった」。
もとを辿れば、この委員会の理念は、米国の独立戦争の際に謳った政治宣言の一つに基づく。つまり「出版の自由」に関する権利」である。
<(この権利により)権力を乱用する役人どもは自らを恥ずかしく思うようになり、職務執行のうえでもっとも誠実かつ公正なやり方をとるようになるのである。>【注1】
英国の圧政を撥ね退けた理念が、まさに「出版の自由」だった。
米国との比較において、特定秘密保護法(2014年12月10日施行)は不安を残す。
外務省、防衛省など19の行政機関の長が指定した「特定秘密」について、日本では、充分な監視が行き届く仕組みとなっていない。
一応、内閣府に設置した「独立公文書管理監」が、不正な秘密指定や同法の運用についてチェックすることになっている。しかし、その権限は限られている。秘密指定の資料を強制的に提出させることはできない。
加えて、初代の「独立公文書管理監」は法務官僚であり、事務局スタッフも各省からの出向者だ。・・・・政府の一員による監視では、独立性が担保されていない。
かつて、沖縄返還をめぐる日米両政府間の密約を西山太吉・毎日新聞記者がスクープしたことがあった。
しかし、政府は密約の存在を否定し続け、西山記者は、外務省の女性職員をそそのかして機密電報を入手したとして逮捕、起訴された。最高裁で有罪が確定した。その裁判において、
<どういう形で申し合わせがあったかわかりませんが、政権中枢や外務省関係者は明白に虚偽の証言をした。検察の調べに対しても、上から下まで虚偽の供述を重ねていたのです。国家権力は、場合によっては、国民はもちろん、司法に対しても積極的に嘘を言う。そういうことが端無くも歴史上、証明されたのが密約事件です。歴史の中で、あそこまで露骨に事実を虚偽で塗り固めて押し通したものはありません。国家の秘密をめぐっては、こういうことがあるんだ、と検察官、裁判官も、事実として認識すべきです。>【注2】
特定秘密保護法は、情報の漏洩者に重い刑罰をかけることで、秘密を法の壁の中に閉じ込めるものだ。
しかし、その前提として、秘密が、日本国憲法と法に準拠して公正に指定されていることを保証する必要があるはずだ。国民の信頼を確保するためにも、やはり国会にこの法律の運用をチェックできる特別委員会を設置するべきではないか。
国民の代表に、特定秘密を検証させることもなく、官僚が決めたことを絶対視させる仕組みは、民主主義社会にあって、時代錯誤でしかない。
【注1】奥平康弘『「表現の自由」を求めて -アメリカにおける権利獲得の軌跡-』(岩波書店、1999)
【注2】記事「(インタビュー)秘密法、密約事件の教訓 元検事総長・松尾邦弘さん」(朝日新聞デジタル 2014年12月10日)
□岩瀬達哉「米国とあまりに違う! 時代錯誤で官僚任せの「秘密情報」の扱い方 ~ジャーナリストの目 第234回~」(「週刊現代」2015年1月3・10日号)
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【参考】
「【佐藤優】「拷問」を行わない諜報機関はない ~CIA尋問官のリンチ~」