語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【詩歌】村上昭夫「兎」

2015年06月02日 | 詩歌
 月には兎がいるのだと
 私は小さい時思っていた

 恐らく月はでこぼこの冷たい山が広がるばかりで
 平地には崩れた塵埃が
 幾重にも重なっているだけだろう

 海というものは名ばかりで
 一滴の水もない暗さが
 深く沈んでいるだけだろう

 だが今でも私は
 月には兎がいるのだと思っている
 月は昔疲れた飢えた旅人のために
 身を焼きささげた兎だったと
 この涯というもののない宇宙のなかには
 死んだものはひとつもいないのだと
 おそらく数知れない天体のなかには
 数知れない兎がすんでいて
 数知れない疲れた旅人もいるだと
 今でも子供のように思っている

□村上昭夫「兎」(『動物哀歌』、1967【第18回H氏賞】)
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 【参考】
【詩歌】村上昭夫「空を渡る野犬」
【詩歌】村上昭夫「太陽にいるとんぼ」
【詩歌】村上昭夫「金色の鹿」
【詩歌】村上昭夫「雁の声」
【詩歌】村上昭夫「うみねこ」
【詩歌】村上昭夫「鴉」
【詩歌】村上昭夫「荒野とポプラ」
【詩歌】村上昭夫「シリウスが見える」
【詩歌】村上昭夫「賢治の星」 ~ふたごの星~


【原発】韓国をWTOに提訴した日本の愚 ~日本産の輸入停止~

2015年06月02日 | 震災・原発事故
 (1)東京電力福島第一原発事故後、韓国は2013年から福島を含む8県の全水産物の輸入停止措置などをとってきた。その韓国政府に対して、日本政府は、科学的根拠に乏しい不当な規制だ、として、世界貿易機関(WTO)に提訴した(5月21日発表)。
 事故以来、汚染水は絶えることなく海洋に流れ出ている。これを止める有効な手段を東電も日本政府もとっていない。かかる状況下の日本のこうした対応に、韓国では反発が高まっている。
 そもそも、「科学的根拠に乏しい」とする日本の主張自体に根拠がないのだ。

 (2)日本政府は、食品の放射性物質規制基準として、「1キログラム当たり100ベクレル(Bq)」という基準を定めている。この基準値を下回る水産物が安定的に捕れていることなどが政府のいわゆる「科学的根拠」のひとつだ。
 基準値は、毎日食べても年間の限度線量1ミリシーベルト(mSv)を超えないことを目安に定められている。これを毎日食べ続ければ、内部被曝だけで年間の限度量に達する。
 放射線には、ある線量以下であれば安全だ、という境界の線量はない。基準値未満だからといって、食べ続けても安全だ、ということにはならない。
 リスクは、線量に比例して増加する、という「閾値なし直線(LNT)モデル」が国際放射線防護委員会(ICRP)をはじめとする国際機関の合意事項となっている。
 にも拘わらず、ICRPは年間の公衆被曝線量限度を1mSvとしている。
 ただし、放射線リスクを過小評価している、と批判されるICRPモデルに従って計算しても、1mSv/年を10,000人が被曝した場合、その仲の1人が癌になる。

 (3)1mSv/年と決めたのはなぜか。
 核エネルギーを発電に使えば、放射性物質が日常的に環境に排出され、放射線による健康リスクが高まる。これを限りなくゼロに近づけようとすると、コストが莫大で採算が合わない。ICRPが採用した“妥協案”はリスクを一定量は我慢し、コストを安くすることだ。
 つまり、リスクと社会的コストとの兼ね合いで1mSv/年とした。
 「科学的根拠」ではない。

 (4)WTO協定と連動する国際条約では、WTO加盟国の輸入・輸出制限について、「公徳の保護、人、動物等の生命又は健康の維持等を目的とした一般的例外」を認めている【1994年の関税及び貿易に関する一般協定(GATT)20条】
 にも拘わらず、日本政府は、輸入規制を強化した台湾をWTOへ提訴する意向も示した。
 だが、一方で、
   ・福島を含む10都県の全食品や飼料の輸入停止措置をとる中国
   ・14県の水産物を含む食品に対して輸入停止措置をとる米国
などには口をつぐんでいる。
 これに係る問いには、外務省は答えようとしない。

□崎山比早子・高木学区メンバー+渡辺睦美(編集部)「韓国をWTOに提訴した日本の愚」(「週刊金曜日」2015年5月29日号)
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【波止場日記抄】6月2日

2015年06月02日 | ●エリック・ホッファー
 6月2日
 自分自身の幸福とか、将来にとって不可欠なものとかがまったく念頭にないことに気づくと、うれしくなる。いつも感じているのだが、自己にとらわれるのは不健全である。
 I am cheered when I realize that things vital for my welfare or propects have completely escaped my mind. Preoccupation with the self has always seemed to me unhealthy.

□エリック・ホッファー(田中淳訳)『波止場日記』(みすず書房、1971)
□Eric Hoffer : Working and Thinking on the Waterfront / A JOURNAL : June 1958-May 1959 (HARPER & ROW, PUBLISHERS, NEW YORK, EVANSTON, AND LONDON)
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 【参考】
【波止場日記抄】6月1日
書評:『波止場日記』