月には兎がいるのだと
私は小さい時思っていた
恐らく月はでこぼこの冷たい山が広がるばかりで
平地には崩れた塵埃が
幾重にも重なっているだけだろう
海というものは名ばかりで
一滴の水もない暗さが
深く沈んでいるだけだろう
だが今でも私は
月には兎がいるのだと思っている
月は昔疲れた飢えた旅人のために
身を焼きささげた兎だったと
この涯というもののない宇宙のなかには
死んだものはひとつもいないのだと
おそらく数知れない天体のなかには
数知れない兎がすんでいて
数知れない疲れた旅人もいるだと
今でも子供のように思っている
□村上昭夫「兎」(『動物哀歌』、1967【第18回H氏賞】)
↓クリック、プリーズ。↓

【参考】
「【詩歌】村上昭夫「空を渡る野犬」」
「【詩歌】村上昭夫「太陽にいるとんぼ」」
「【詩歌】村上昭夫「金色の鹿」」
「【詩歌】村上昭夫「雁の声」」
「【詩歌】村上昭夫「うみねこ」」
「【詩歌】村上昭夫「鴉」」
「【詩歌】村上昭夫「荒野とポプラ」」
「【詩歌】村上昭夫「シリウスが見える」」
「【詩歌】村上昭夫「賢治の星」 ~ふたごの星~」
私は小さい時思っていた
恐らく月はでこぼこの冷たい山が広がるばかりで
平地には崩れた塵埃が
幾重にも重なっているだけだろう
海というものは名ばかりで
一滴の水もない暗さが
深く沈んでいるだけだろう
だが今でも私は
月には兎がいるのだと思っている
月は昔疲れた飢えた旅人のために
身を焼きささげた兎だったと
この涯というもののない宇宙のなかには
死んだものはひとつもいないのだと
おそらく数知れない天体のなかには
数知れない兎がすんでいて
数知れない疲れた旅人もいるだと
今でも子供のように思っている
□村上昭夫「兎」(『動物哀歌』、1967【第18回H氏賞】)
↓クリック、プリーズ。↓



【参考】
「【詩歌】村上昭夫「空を渡る野犬」」
「【詩歌】村上昭夫「太陽にいるとんぼ」」
「【詩歌】村上昭夫「金色の鹿」」
「【詩歌】村上昭夫「雁の声」」
「【詩歌】村上昭夫「うみねこ」」
「【詩歌】村上昭夫「鴉」」
「【詩歌】村上昭夫「荒野とポプラ」」
「【詩歌】村上昭夫「シリウスが見える」」
「【詩歌】村上昭夫「賢治の星」 ~ふたごの星~」