語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【詩歌】エミリー・ディキンソン「声高く戦うのは勇ましい」

2015年06月21日 | 詩歌
 傷ついた鹿は一番高く躍り上がると
 狩人のいうのを聞いたことがある
 それはただ死の法悦にすぎなく
 やがて叢(くさむら)は静かになる

 砕かれた岩はいずみをほとばしる
 踏まれた鋼は跳ねかえす
 頬は病に冒されると
 かえって紅くなる

 陽気は苦悩のよろい
 なかでそれは注意ぶかく守っている
 だれかが血を見付けて
 “傷ついている”と叫ばないように

 A wounded deer leaps highest,
 I've heard the hunter tell;
 'Tis but the ecstasy of death,
 And then the brake is still.

 The smitten rock that gushes,
 The trampled steel that springs:
 A cheek is always redder
 Just where the hectic stings!

 Mirth is the mail of anguish,
 In which it caution arm,
 Lest anybody spy the blood
 And "You're hurt" exclaim!

□エミリー・ディキンソン「」(『ディキンソン・フロスト・サンドバーグ詩集 ~世界詩人全集12~』、新潮社、1968)
□亀井俊介編『対訳 ディキンソン詩集 ~アメリカ詩人選(3)』(岩波文庫、1998)
□MABEL LOOMS TODD & T.W.HIGGINSON “Collected Poem of EMILY DICKINSON”,Crown Publishers,Inc.1982
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 【参考】
【詩歌】エミリー・ディキンソン「声高く戦うのは勇ましい」
【詩歌】エミリー・ディキンソン「もし駒鳥たちがやってくるころ」
【詩歌】エミリー・ディキンソン「成功はすばらしく思われる」





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【労働】の世界がダブルスピーク化 ~『1984年』ふたたび~

2015年06月21日 | 批評・思想
 (1)派遣労働の最大の問題点は、労働契約を結ぶ雇い主(派遣会社)と働いている会社(派遣先)が別であるため、職場の労働条件改善を求めても「うちの社員じゃないから」と責任回避されてしまう点だ。
 このように労働権を行使できない働き手が恒常化しないよう、国際的に派遣労働は臨時的な仕事に限られてきた。
 日本でも、派遣社員が一定の年数を超えたら、派遣先は直接雇用を申し入れることで臨時性を保とうとしてきた。
 だが、改正案では、3年たったら別の派遣社員に取り替えれば派遣社員を雇い続けられる方式に切り替える。
 一方、日本では、欧米では当たり前の同一労働同一賃金原則がない。このため、正社員と同じような仕事をしても派遣会社の社員であることを理由にした賃金差が認められてきた。おかげで、日本の派遣会社は、派遣会社のコストと利益を上乗せしてもなお、派遣先の正社員の人件費より安い派遣料で派遣社員を提供できる。その結果、正社員の仕事は派遣に置き換えられてきた

 (2)維新の党は、自公と取り引きした。野党と共同提案していた「同一労働同一賃金推進法案」を一部修正し、これを可決することを見返りに、自公が提案する労働者派遣法改正案の採決に出席することを同意した。
 つまり、3年ごとにクビにする道をひらく制度に同意したのだ。
 仕事がなければ賃金はこないのだが、「賃金が平等だから、仕事なんかなくてもいいよね」というわけだ。

 (3)(2)のような奇妙な話法を「ダブルスピーク」という。実際とは逆の言葉で受け手の印象を操作し、本質をすり替えるのだ。
 別の例を挙げよう。
 6月4日、参議院会館の講堂で、JR東労組の女性フォーラムが開かれ、250人が参集した。
  (a)会社・・・・女性の採用が増え、アベノミクスの「女性が輝く」政策に乗って、会社は「女性管理職3割」を目標に掲げている。
  (b)参加女性・・・・男女共用トイレの職場はまだ多い。家族に配慮した転勤希望も無視されがちだ。体調が悪いときの休暇も十分には取れない。「輝け」といいつつ、本当に輝いて働けるための環境整備は後回しだ。

 (3)ダブルスピークは、ジョージ・オーウェル『1984年』(1949年刊)の中の
    ・平和省=永久に戦争を続けるための軍事機関
    ・真理省=真理を覆い隠すための歴史や記録の改竄機関
 などといった政府の欺瞞の手口をヒントに生まれた言葉だ。
 「同一労働同一賃金法」を理由に3年ごとに失業させる制度を通してしまう手法や、「女性が輝く」を掲げて女性から「活躍」を絞り出す手法は、まさにダブりスピークだ。
 こうした手口は、枚挙にいとまがない。
    ・リストラ=大量解雇
    ・ワークシェアリング=正社員をパートや派遣に切り替えて人件費を下げること
 『1984年』は、30年遅れで日本の労働界に出現した。
 賃上げや解雇だけでなく、ダブルスピークという新しい脅威も今後の労働運動の課題となる。

□竹宮三恵子「ジョージ・オーウェルもびっくり ダブルスピーク化する労働の世界 ~竹宮三恵子の経済私考~」(「週刊金曜日」2015年6月12日号)
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 【参考】
【労働】派遣労働の待遇悪化 ~「改正労働者派遣法」案~
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