(1)米国では、2010年に民間皆保険制度(通称オバマケア)が成立した。民間保険への加入を罰金付きで義務づけた制度だ。
これは日本の国民健康保険とはまったく別の代物。保険会社のロビイストが法案を書き、彼らに利益が出る仕組みだ。
(2)オバマケア成立後、多くの州で保険料が値上がりし、保険対象外の新薬や高額治療が増えた。
医療が「商品」の米国では、一部の富裕層以外、国民は常に“医療破産”と隣り合わせでいる。「いのちの格差」が深刻化している。
(3)(2)は対岸の火事ではない。
米国の医療産業複合体は、日本を次の優良市場として数十年前から政府に圧力をかけている。
<例>2013年に成立した「国家戦略特区法」。東京や関西を中心とした特区内で、医師以外の企業人も病院を経営しやすくなるetc.の規制緩和を進め、後に全国に展開する制度だ。
外資系企業や投資家は喜ぶが、医療の質の低下や皆保険制度崩壊のリスクがある。
先行する米国では、ER、小児科、産科など採算がとれにくい診療科が廃止されている。医療事故も増えている。
(4)2015年4月末に関連法案が衆議院を通過した「患者申し出療養制度」も要注意だ。
患者の希望に応じて未承認新薬がわずか2~6週間で承認され、混合診療が拡大する制度だ。
政府は「患者のため」というが、抗がん剤治療に月100万円も払える患者が、どれほど存在するか?
今のままでは、医療の商品化が進められ、米国式の医療格差社会が到来する。
□堤未果/聞き手:越膳綾子(ライター)「日本がアメリカ式の“医療格差社会”になる日」(「AERA」2015年5月25日号)
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(1)非正規雇用者数は、雇用者全体の40%に近い【総務省調べ】。2014年の経済協力開発機構(OECD)の生活調査でも「健康状態」は加盟国中で下位とお寒い状態だ。
(2)所得や学歴による「健康格差」も明らかになってきている。
それをあぶりだすのは「社会疫学」。健康に影響を与える社会的要因を研究する学問で、2000年ごろに確立し、海外では行政や企業などが格差縮小に活用している。
<例>米ニューヨーク市は、低所得や肥満度の高い人々が多い地域に生鮮食料品店を増やそうと、出店優遇策を始め、ロサンゼルスなど西海岸都市では低所得が多い地域でファストフード店の集中を抑制する動きも出ている。
日本でも、各大学の社会疫学研究者や医師が興味深い分析結果を出している。
所得別でみた男性の最下層の死亡リスクは、最富裕層の3.5倍、女性は2.48倍高い【平井寛・岩手大学准教授らの分析】。
(3)経済的ゆとりの感覚も影響する。
ゆとりがないとする男性(20~44歳)は「主観的健康不良感」を訴える割合が、ゆとりある男性の約4倍高い【海原純子・日本医科大学特任教授ら、日本人間ドック学会発表】。
日本特有の事情もある。英国では、公務員を25年間追跡した調査で、職業階層が高くなるほど死亡率が低くなるという結果が出たが、日本では逆の傾向が出ている。近藤尚己・東京大学大学院准教授は、こう分析する。
「日本ではバブル崩壊後、むしろ管理職の死亡率、特に自殺率が高まったというデータがある。リストラの影響で管理職の業務量が膨大になっていることが関係しているかもしれない」
(3)自治体別平均寿命によれば、別の要素もある。産業特性、世帯構成、教育環境など、地域特性の影響だ。
「母子家庭や高齢者、非正規雇用の増加など、今後はさらに日本なりの特徴を踏まえて研究、対策を打つ必要がある」【福田吉治・帝京大学教授】
(4)今春、社会疫学者と各分野の専門家による分析結果に基づいて「健康格差対策の7原則」を厚労省は発表したが、自分自身で健康寿命を育む方法もある。
「つながり」だ。友だちの数で寿命は決まる【石川善樹・予防医学研究者】。人が本当に親しい関係を築けるのは6人と言われるが、家族以外で3つ以上のコミニュティとつながれば、健康寿命が伸びる可能性がある。
政令指定都市25区と25市町村を対象に趣味サークルへの参加を分析したところ、3年間の自殺率の平均値は、集まりへの参加率が40%超の市町村は40%未満の地域より明らかに低い【近藤克則・千葉大学教授ら】。
今はSNSでつながりやすく、ラッキーな時代だ。
□鳴澤大(編集部)「病気予防は人づきあいから」(「AERA」2015年5月25日号)
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