語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【波止場日記抄】6月15日

2015年06月15日 | ●エリック・ホッファー
 いつも考えているのだが、社会にとっては、その成員全てが等しく関心を抱き、かつ何らかの見識を抱ける共通の対象が、いくつかなければならぬのか。ビザンチウムにおいては、神学と戦車レースがそれであった。この国においては、機械とスポーツである。
 I have always wondered whether it is vital for a society that all its members shoud have some common subjects in which they are equally interested and in which they all have some expertise. In byzantium the common subjects were theology and chariot races. In this contry they are machines and sports.

□エリック・ホッファー(田中淳訳)『波止場日記』(みすず書房、1971)
□Eric Hoffer : Working and Thinking on the Waterfront / A JOURNAL : June 1958-May 1959 (HARPER & ROW, PUBLISHERS, NEW YORK, EVANSTON, AND LONDON)
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 【参考】
【波止場日記抄】6月13日
【波止場日記抄】6月5日
【波止場日記抄】6月4日
【波止場日記抄】6月2日
【波止場日記抄】6月1日
書評:『波止場日記』

      


【詩歌】中村真生子「自分育て」

2015年06月15日 | 詩歌
【詩歌】中村真生子「自分育て」

 春の雨のようにやわらかく
 なにかが私に降りそそぐ。

 その瞬間、
 私の中になにかが芽生える。

 その芽生えた小さな芽を
 大切に育てていくこと。

 ときには嵐にあいながらも。
 ときには日照りにあいながらも。

□中村真生子「自分育て」(『メルヘンの木』(祐園、2005))
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 【参考】
【詩歌】中村真生子「語る」
【詩歌】中村真生子「蠢く」
【詩歌】中村真生子「メルヘンの木」
【本】中村真生子『メルヘンの木』


【政治】「国連憲章」再読 ~安倍事態(アベノリスク)(2)~

2015年06月15日 | 批評・思想
 (承前)

 (7)このところ、暗い戦前の、その前の明るい時代として「明治」がやたらと引き合いに出される。
 今年2月の施政方針演説で、安倍首相いわく、「明治の日本人にできて、今の日本人にできないわけはありません」「『知と行は二つにして一つ』--何よりも実践を重んじ、明治維新の原動力となる志士たちを育てた吉田松陰先生の言葉であります」。
 何のことはない、安倍首相ゆかりの山口県(長州藩)の自慢話なのであった。
 5月4日、連休をねらいすましたかのように、「明治日本の産業革命遺産 九州・山口」がユネスコから世界遺産への登録を勧告されるというニュースが飛び込んできた。テレビは、ここぞとばかり、ご祝儀番組で応えた。

 (8)安倍首相の復古的スローガン「日本を取り戻す」は、そのまま単純な思考回路を経て、2014年7月の産業遺産国際会議での発言に現れた。「植民地にならずして、産業革命の波を自ら取り込んで近代国家に変貌を遂げた日本に世界中が驚きました」
 山口県の先人たちのおかげで、中国やアジア諸国のように植民地化されず、あまつさえそれらを植民地化した・・・・という見方から、その歴史を誇って見せた。
 しかし、ユネスコの諮問機関イコモスは、登録名称を「明治日本の産業革命遺産 製鉄、鉄鋼、造船、石炭産業」に変更するよう求めている。山口の名は消えたが、松下村塾だけはリストに残っている。殖産興業と富国強兵のイデオローグを育てた塾ということなら、かろうじて理屈がつく。

 (9)だが、隣の韓国が登録反対の声をあげた。日本の「産業革命」の蔭には、挑戦から強制徴用された人びとの犠牲があったはずだと。
 官邸は、産業革命遺産は明治維新から1910年までに限定されたもので、韓国合併後の徴用とは無関係だと反論している。
 しかし、長州藩が天皇を担ぎあげて明治維新を行い、藩閥政府が富国強兵を進め、日清・日露の戦争を経て朝鮮半島を植民地化した。その結果、炭鉱などで働く朝鮮人労働者の動員があったのは事実だ。因果関係を時間で区切ることはできない。ここにも自己中心的な「安倍事態」が起きている。

 (10)“危機の2週間”、つまり
    4月30日(日本時間)、安倍首相は、米上下院で「希望の同盟」をぶち上げた。
    5月14日、「平和安全法制整備法」が閣議決定された。
 ・・・・という時期に、やはり「明治もの」がメディアに登場した。5月2日に放映されたNHKスペシャル「明治神宮 不思議の森--100年の大実験」は、自然番組のスタイルをとりながら、じょじょに視聴者を「有り難い」気分にさせる内容に仕上がっている。
 明治神宮は、明治天皇と昭憲皇后を祭神とする社だ。建立に際して、代々木の荒地に“太古の森”を人工的につくろうという企画のもと、針葉樹と常緑広葉樹を混ぜて植樹した。以来100年、人が勝手に入れない神域は都心では考えられない生物多様性のモデルを出現させた。このタイムカプセルを開くべく、現代の生物学者たちが内苑に分け行った・・・・。
 だが、この番組内容には疑問符がつく。内苑は果たして純粋培養された森なのか。今回の調査で外来種はまったく見つからなかったのか。
 「日本各地から集まった10万本もの樹木を5年がかりで植林した」そうだが、実際は当時植民地だった朝鮮半島や台湾の植物も植えられていた。
 この番組の意図がどこにあったにせよ、結局、近代天皇制下の八紘一宇と現代風のエコロジーが神秘的に合体したのである。ネットの書き込みにそれが反映されている。「明治の人は偉大だったねえ」「こういうのに受信料をぶっこむのはいいな」

 (11)この際、天皇制についても真面目な議論が必要だろう。
 安倍首相の極右的言説に倦んだ国民にとって、現天皇の言動がずいぶん平和的に映るにしても、そこで思考停止してよいのか。不思議の森や沈黙の象徴に呪縛されたままでいいのか。
 「安倍事態」をこのまま放置しておくと、ポスト安倍の政治家あるいは軍人が「万世一系・万邦無比」を背に強権を発動する事態へ発展しかねない。

□神保太郎「メディア批評第回」(「世界」2015年7月号)の「(1)これではもはや「安倍事態(アベノリスク)」だ!」
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 【参考】
【政治】どんどん言葉が死んでいく ~安倍事態(アベノリスク)~