語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【詩歌】ゲーテ「昔ツウレに王ありき」 ~『ファウスト』より~

2015年07月10日 | 詩歌
 昔ツウレに王ありき
 盟渝(かへ)せぬ君にとて
 妹は黄金の杯を
 遺してひとりみまかりぬ

 こよなき寳の杯を
 乾しけり宴の度毎に
 此杯ゆ飲む酒は
 涙をさそう酒なりき

 死なん日近くなりし時
 国の県の数々を
 世嗣の君に譲りしに、
 かの杯は留め置きぬ。

 海に臨める城の上に
 王は宴を催しつ。
 壮士あまた宮のうち
 御座の下に集ひけり。

 これを限の命の火
 盛れる杯飲み干して、
 その杯を立ちながら
 海にぞ王は投げてける。

 落ちて傾き、沈み行く
 杯を見てうつむきぬ。
 王は宴の果ててより
 飲まずなりにき雫だに。

 Es war ein König in Thule
 Gar treu bis an das Grab,
 Dem sterbend seine Buhle
 Einen goldnen Becher gab.

 Es ging ihm nichts darüber,
 Er leert’ ihn jeden Schmaus;
 Die Augen gingen ihm über,
 So oft er trank daraus.

 Und als er kam zu sterben,
 Zählt’ er seine Städt im Reich,
 Gönnt’ alles seinem Erben,
 Den Becher nicht zugleich.

 Er saß beim Königsmahle,
 Die Ritter um ihn her,
 Auf hohem Vätersaale,
 Dort auf dem Schloß am Meer.

 Dort stand der alte Zecher,
 Trank letzte Lebensglut,
 Und warf den heil'gen Becher
 Hinunter in die Flut.

 Er sah ihn stürzen, trinken
 Und sinken tief ins Meer.
 Die Augen täten ihm sinken;
 Trank nie einen Tropfen mehr.

 *

 ツウレ(トゥーレ)は、古典文学の中で語られる伝説の地で、通常は島。古代ヨーロッパの説明や地図によれば、ツウレ(トゥーレ)は遥か北、しばしばアイスランドの、恐らくはオークニー諸島、シェトランド諸島、スカンジナビアにあるとか。中世後期やルネサンス期にはアイスランドやグリーンランドにあるとも。バルト海のサーレマー島のことだという考え方もあったらしい。【ウィキペディア】

□ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ(森林太郎・訳)『ファウスト』(冨山房、1913)
□Johann Wolfgang von Goethe “Goethe Fuenfzig Gedichte” Reclam,1999
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【書評】佐藤優『超したたか勉強術』

2015年07月10日 | ●佐藤優
 佐藤優は、連載を幾本も抱え、毎月のように、しかも複数の単行本を刊行する多作家だ。さすがに全部の文章の密度を上げるわけにはいかないのか、あるいは意図的な作業なのか、彼の文章は密度において2種類に分かれる。
 (1)読みやすいが、密度の高くない文章。Facebookの多くの文章のように。
 (2)密度の高い文章。
 本書は(2)だ。

 本書はハウツー本で、21世紀の比較的若年層が、この困難な時代に適応していくための根底的な、しかも実践的なテクニックが記されている。
 <例1>脳の記憶容量を大きく変える技術
 <例2>表現力と読解力を向上させる技術

 本書には、ハウツー本でありながら、一種異様な緊張感が貫く。現代日本が抱える課題に真っ向から向き合っているからだ。例えば、
 (a)著者の専門とする外交の分野において、ルールを無視して突っ走る安倍晋三政権の反知性主義。
 (b)明治政権以来の「日本帝国」が沖縄に対してとる差別的抑圧政策。

 本書ではイギリスの中学生向け教科書『イギリスの歴史【帝国の衝撃】』を軸に据えて論じる。16世紀から20世紀なかばまで(「アメリカへの植民」から「植民地インドからの撤退」まで)の帝国主義国としてのイギリスに焦点をあてた教科書だ。
 これは、自国の失敗の歴史を、将来を担う世代に考えさせることで生き残りの道を探らせる教科書なのだ。
 中学生のうちに、自分たちの失敗を研究し、失敗の理由を徹底的に考えさせる。そうやって、したたかさを養うのだ。

 本書において、ハウツーの伝授は比較的若年層の世代の育成という目的があるのだが、同時に、(a)や(b)の問題を社会の力で改善していこう、とする意図があるからに違いない。

□佐藤優『超したたか勉強術』(朝日新書、2015)
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 【参考】
【佐藤優】脳の記憶容量を大きく変える技術 ~超したたか勉強術(2)~
【佐藤優】表現力と読解力を向上させる技術 ~超したたか勉強術~

    

【企業】大赤字・無配でも社長は高額報酬 ~ソニー「経営改革」の蹉跌~

2015年07月10日 | 社会
 (1)ソニーの凋落が著しい。2015年3月期は1,259億円もの連結純損失を計上、2期続けて大赤字で、ついに上場以来初めて無配に転落した。
 伊庭保・元ソニー副会長が、刺激的なタイトル「経営陣に告ぐ! 君たちは恥ずかしくないか」【注】で、インタビューに応えて経営陣を批判している。
 最高財務責任者(CFO)も務めた伊庭元副会長が経営を分析した結果、浮かび上がってきた最大の問題は、経営体制の在り方だった、という。
 「技術を標榜するソニーなのに、12人の取締役の中に技術系は一人もいない」
とエンジニア軽視を指摘。かつ、社外取締役が9人もいることに疑問を呈している。

 (2)かつて盛田昭夫・ソニー創業者は、経済不振にあえぐ英国の首相に就任したマーガレット・サッチャーからアドバイスを求められて、
 「私のアドバイスは、貴国をエンジニアが尊敬されるような社会にしていただきたい、ということです」
と答えた、という。

 (3)エンジニアを重視した盛田の薫陶を受けた伊庭元副会長は、ソニーが凋落した契機について、
 「出井さんが『リ・ジェネレーション(第二の創業)』と言い出したころからおかしくなった」
と語っている。
 たしかに、大胆な経営改革を断行し、企業風土をつくり変えたのは出井伸之氏だった。社長就任(1995年)以降、2005年まで10年間、経営のトップに君臨した出井氏は、「第二の創業」を掲げ、盛田や井深大が率いた「創業経営」からの脱皮を急いだ。改革の肝が米国流企業統治の導入だった。
 社長時代、インタビューにおいて、「経営者の報酬」にこだわりを見せた。
 ソニーで初めて「サラリーマン社長」となった出井氏は、「株主から委託を受けたプロの経営者」を標榜した。米国では、大企業から別の大企業へ移籍する「プロの経営者」は珍しくない。高額報酬でヘッドハントされるのだ。
 前記取材において、
 「創業者の盛田さんと、市場理論でプロの経営者チームをリードするぼくたちとは当然違う」
と述べ、
 「企業の市場価値を高めたことに対するリターンを経営者グループがちゃんともらうのが市場の論理」
と出井氏は強調していた。実際、最初に取り組んだ改革は、ソニーの株価に連動する報酬制度の導入(役員が対象)だった。

 (4)「プロの経営者」を自認する出井氏は、経営チームと事業現場の間に明確な線を引いた。日本の企業として初めて、執行役員制度を採用し、その後、多数の社外取締役を迎え入れた。当時は、「先進的な経営」と高く評価されたが、こうした経営陣と事業現場の分離が、「エンジニア軽視」の土壌を醸成した。

 (5)現在、ソニーのOBや株主の批判の的となっているのが、社長の高額報酬だ。
 平井一夫・社長の年収は、基本報酬2億200万円にストックオプションなどを加えて総額3億2,690万円だ【有価証券報告書、2015年3月期】。
 経営改革の唯一の成果が、
 「大赤字、無配でも巨額報酬を手にする経営者」
だとすれば、これほど皮肉なことはない。

 【注】記事「経営陣に告ぐ! 君たちは恥ずかしくないか」(「週刊現代」2015年6月27日号)

□佐々木実「大赤字・無配でも社長は高額報酬 ソニー「経営改革」の蹉跌 ~経済私考~」(「週刊金曜日」2015年7月3日号)
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【佐藤優】脳の記憶容量を大きく変える技術 ~超したたか勉強術(2)~

2015年07月10日 | ●佐藤優
 敷衍を効果的に行うためには、テキストの文字面だけでなく行間を読む力も必要だ。つまり、読解力が要求される。
 敷衍する力をつけるためには、さまざまな分野の本を読むことも大切だが、丸暗記をすることも効果がある。
 試しに『イギリスの歴史』の第九章(中略) 暗記しておくことで必要な場面ですぐに運用できる。ぜひ身につけてほしい。
 アラブ人やユダヤ人など、中東世界の人々の知的強靱さは記憶力によるところが大きい。イスラム世界ではコーランを覚えている人はざらにいて、子どもたちによる暗唱大会も開かれている。ユダヤ教の世界でもトーラーすなわち、モーセ五書(旧約聖書の創世記、出エジプト記、レビ記、民数記、申命記)を暗記している人は珍しくない。
 中東世界の人は、宗教と日常生活が密接な関係にあり、記憶は常にメインテナンスされている。しかし、普通は丸暗記しても三カ月も経てば忘れるし、忘れて構わない。
 ここから先が重要だ。丸暗記の作業に並行して、キーワードをメモしておこう。そのキーワードをもとに同じ内容を話すことができるか否かを確かめてみるのだ。原文とそっくり同じ言葉を使う必要はない。ただし、少なくとも主観的には、暗記した原文や原発言の骨格を歪めないように注意することが肝心だ。
 キーワードに基づいた記憶の再現は二つに分けることができる。一つが要約(summation)だ。これは学校教育でも行われているから説明の必要はないだろう。
 もうひとつが、ぜひ身につけたい敷衍だ。記憶した事柄をより詳しく説明する。あるいは、別の言葉で言い換えてみる。記憶していた内容を他人に説明するつもりで行うといいだろう。自分が理解できていないことは説明することができないから、どの点がわかっていて、どの点が飲み込めていないのかを確認することができる。
 記憶力と展開力の訓練のために自分の専門分野に関連する論文を三、四本丸暗記しておき、折あるごとに要約と敷衍を繰り返すといいだろう。
 要約と敷衍を身につけることができれば、人文系の教養としては完成する。
 脳の記憶容量が大きくなり、さまざまな情報が記憶の引き出しにストックできるようになると、ある課題を解決しようとするときに、類似した事柄を適宜引き出して比較検討できる。つまりアナロジーで物事をうまく考えられるようになるわけだ。

□佐藤優「アナロジーや敷衍に磨きをかけ、脳の記憶容量を大きく変える丸暗記のすすめ(第2章 コラム①)」から引用、『超したたか勉強術』(朝日新書、2015)所収
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 【参考】
【佐藤優】表現力と読解力を向上させる技術 ~超したたか勉強術~