語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【詩歌】三好達治「湖水」

2015年07月15日 | 詩歌
 この湖水で人が死んだのだ
 それであんなにたくさん舟が出てゐるのだ

 葦と藻草の どこに死骸はかくれてしまつたのか
 それを見出した合図の笛はまだ鳴らない

 風が吹いて 水を切る艪の音櫂の音
 風が吹いて 草の根や蟹の匂ひがする

 ああ誰かがそれを知つてゐるのか
 この湖水で夜明けに人が死んだのだと

 誰かがほんとに知つてゐるのか
 もうこんなに夜が来てしまつたのに

□三好達治「湖水」(『測量船』、第一書房、1930)
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 【参考】
【詩歌】三好達治「雪」
【詩歌】三好達治「春の岬」
【詩歌】何をうしじま千とせ藤 ~牛島古藤歌~
【読書余滴】ミラボー橋の下をセーヌが流れ ~母音~

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【メディア】と広がる安倍政権追撃の戦線(4) ~読売・NHKは?~

2015年07月15日 | 批評・思想
 (承前)

 (14)読売新聞は、6月5日以降、
    3憲法学者の「違憲」見解も
    日本記者クラブの河野・村山対談会見も
    日本記者クラブの元自民党4長老の会見も
ろくに報じてこなかった。
    6日「集団的自衛権 限定容認は憲法違反ではない」
    8日「沖縄知事訪米 普天間の危険除去をどうする」
    11日「集団的自衛権 脅威を直視した議論が大切だ」
    16日「集団的自衛権 最高裁判決とも整合性がある」
などの社説を掲げてきた。「安倍ノー」の世論を抑え、政権を激励し、先導さえしようとする態度が露骨だ。

 (15)NHKの役割も無視できない。
 憲法学者が投じた波紋に慌てた自民党が、急遽、街頭の宣伝活動で反論せよ、と全党に指令を発した。
 東京では、7日、新宿駅前に谷垣禎一・幹事長らが街宣車を繰り出した。ところが、その前に立った聴衆は30人程度。これを取り囲んで、婦人や若者多数を含む100人以上の市民が集まり、「戦争反対」「ダメダメ改憲」などのプラカードを掲げ、シュプレヒコールを繰り返した。自民党勢が20分そこそこで退散した後も、包囲陣は長い間気勢を上げていた。
 しかし、19時のNHKニュースは、街宣車上の谷垣幹事長の演説姿をアップで映し、反対陣営の姿はいっさい映さなかった。NHKは、何がニュースかを見抜くセンスまでなくしてしまったらしい。【注】

 (16)長谷部教授と小林名誉教授は、15日にも外国特派員協会、日本記者クラブと、立てつづけに会見に臨み、内外記者団の取材を捌いた。
 今や、欧米のジャーナリストの安倍政権に対する関心は大きく、問題意識の水準も高い。
    フランスのロブス(L’obs:元ヌーベル・オプセルバトゥールの後継誌)5月21日号が「安倍晋三の隠された顔」
    英エコノミスト誌6月5日号が「右側上へ」
と、仏英の週刊誌がつづけて右翼団体「日本会議」の特集を中心に、これとべったりの安倍政権の行方も占った。
 その対米追随と国家ナショナリズムへの傾斜の奇妙な混淆がもたらす日本の危うさは、当の日本のメディアがあまり深入りしてこなかった問題だ。
 
 (17)日本のメディアはまた、翁長沖縄県知事の訪米を、大方のメディアは成果なし、と黙殺した。
 だが、2014年に沖縄の海兵隊基地建設に反対の声を上げたノーム・チョムスキー、ジョン・ダワー、オリバー・ストーン、ナオミ・クラインなど28名の米知識人との連携は、底辺で強まっている。
 さらに、5月に米国の日本研究者・歴史学者が連名で(最終的には187人に膨れあがった)公表した「日本の歴史家を支持する声明」も注目されてよい。
 日本では、慰安婦問題で日本政府を非難し、反省を求める声明であるかのように報じられた。しかし、全文をよく読めば、安倍政権のもたらす危機に抗し、歴史の正しい道筋を示してほしいと、日本の研究者に連帯の激励を送る文章であることがわかる。
 日本に屈従を強いる米国政治の行き詰まりに対する批判や、その打開を自らの課題ともする問題意識に裏打ちされている。
 確実に大きな歴史の転換期が訪れつつあるのだ。試されるのは学者だけではない。メディアもだ。

 【注】「【NHK】「反対」議会隠し ~安保法案に反対の地方議会が7割強~

□神保太郎「メディア批評第92回」(「世界」2015年8月号)の「(1)広がる安倍政権追撃の戦線とメディア」
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 【参考】
【メディア】と広がる安倍政権追撃の戦線(3) ~新聞はどう報じたか~
【メディア】と広がる安倍政権追撃の戦線(2) ~違憲が争点に~
【メディア】と広がる安倍政権追撃の戦線(1) ~SNS上の痛烈な批判~
【古賀茂明】「反安倍」の起爆剤 ~若者たちの「反安倍」運動~

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【メディア】と広がる安倍政権追撃の戦線(3) ~新聞はどう報じたか~

2015年07月15日 | 批評・思想
 (承前)【注】

 (10)地方の動きも注目に値する。
 6月15日には、憲法審査会に義務づけられた地方公聴会が高知市で開かれた。意見陳述人6人中、県知事ともう1人を除く4人が、安保関連法案は「違憲」と明確に指摘した【高知新聞】。
 高知新聞は、独自に長谷部恭男・早稲田大学教授にロング・インタビューを行い、10日朝刊に長文の記事を掲載していた。このような地方紙の健闘が、地域の世論を着実に変化させてきたのだ。

 (11)6月5日以降の主要地方紙の社説・論説をみると、
  (a)河北新聞(仙台)・・・・「安保法案説明不足/深まらぬ理解、無理筋を暗示」(5日)
  (b)北海道新聞・・・・「『結論ありき』の議論だったのではないか」(6日)
  (c)信濃毎日新聞・・・・「そもそも今の憲法の下で許される法案なのか」(6日)
  (d)熊本日日新聞・・・・「安保法制 『憲法違反』の揃い踏みだ」(6日)
  (e)南日本新聞(鹿児島)・・・・「やはり法案を撤回すべき」(6日)
  (f)西日本新聞(福岡)・・・・「安全保障法制 『憲法違反』の指摘は重い」(7日)
  (g)琉球新報・・・・「安保法制は廃案しかない」(7日)
  (h)愛媛新聞・・・・「法治国家の原理原則に立ち返れ」(8日)

 (12)政府の法案推進に対して意見表明決議を行う地方議会は、246に達した。「政府に賛成」は3のみ。【6月20日、NHK「ニュース7」】

 (13)在京紙では、
  (a)東京新聞・・・・6月4日の憲法学者「意見」見解表明の直後、同日夕刊トップでこれを大きく報じた。この機敏さが、読者に鮮烈な影響を与えた。
  (b)朝日新聞・・・・初報を翌日朝刊に回した。一面左隅、5分の1程度の紙幅での扱いで、東京新聞の一面トップと比べ、大いに見劣りがした。社説も、「違憲との疑惑に答えよ」と、釈明を促す程度の感じだった。5日以降も数本の安保法制関連社説を掲げ、政府批判を続行したが、ついに16日、ようやく、「『違憲』の安保法制 廃案で出直すしかない」の1本社説を掲げた。
  (c)毎日新聞・・・・社説は、一日遅れたが、「安保転換を問う」のシリーズ・タイトルを立て、6日「『違憲法案』見解 根本的な矛盾あらわに」から12日「日本と米国『対等な同盟』のリスク」と結び、17日は18歳選挙権成立を受け、大きな1本社説で「若者こそ政治に参加を」と呼びかけたのはいいタイミングだった。

 【注】<安全保障関連法案は15日午後、衆院特別委員会で採決が行われ、自民・公明両党の賛成多数で可決された。審議を締めくくる総括質疑の終了後、維新の党が退席し、民主・共産両党が抗議する中、与党が採決を強行した。法案は16日にも衆院本会議で可決される見通しだが、安倍晋三首相は15日午前の質疑で「残念ながら、まだ国民の理解が進んでいる状況ではない」と認めた。><法案については、多くの憲法学者が憲法違反だと指摘。報道各社の世論調査でも法案への反対意見が多い。>【記事「安保法案、衆院委で可決 与党が採決強行」(朝日新聞デジタル 2015年7月15日)】

□神保太郎「メディア批評第92回」(「世界」2015年8月号)の「(1)広がる安倍政権追撃の戦線とメディア」
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 【参考】
【メディア】と広がる安倍政権追撃の戦線(2) ~違憲が争点に~
【メディア】と広がる安倍政権追撃の戦線(1) ~SNS上の痛烈な批判~
【古賀茂明】「反安倍」の起爆剤 ~若者たちの「反安倍」運動~

      サルビア・ファリナセア
    


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【メディア】と広がる安倍政権追撃の戦線(2) ~違憲が争点に~

2015年07月15日 | 批評・思想
 (承前)

 (4)大きな変化に向かう転機の到来は、6月14日の
    「戦争させない・9条を壊すな! 総がかり行動実行委員会」
主催による国会包囲の行動も、予感させた。多様な関係団体を網羅した共同戦線的なこの行動への参加者は、主催者発表によると25,000人。与党を除く政党代表、各界有識者、沖縄の青年、神奈川の主婦など、多彩な参加者がそれぞれの立場から、法案の撤回を求める抗議の声を上げ、国会を包囲する大勢がこれに呼応する状況が出現した。

 (5)(4)のような状況を生き生きと伝える点でも、ネットが面白い。
 <例1>14日には、国会前集会とは別に、東京・渋谷で“若者でも”「戦争立法反対! 渋谷デモ」が3,500人を集めた。19日夜には、「SEALDs」に結集する学生たちが2,500人参加して、国会正門前で集会を成功させた。
 <例2>20日には、戦争法案にレッドカードを突きつけようと、赤いファッションで装った女性15,000人が国会を包囲

 (6)安倍政権の法案成立強行作戦をめぐる状況も、ここへきて変わりつつある。
 それは、
   昨年7月の集団的自衛権武力行使容認閣議決定
   今年4月の日米首脳会談における日米防衛協力新ガイドライン合意
   米上下両院合同会議で「夏までに安保関連法を実現する」と約束した首相演説
など、
   国民・国会を無視し、
   ひたすら米国政府に取り入り、
挙げ句には全面改憲に結びつけようと企む政権の強引さが、野党やメディアの反発を掻き立てた結果といえる。

 (7)大きな国民的反対を呼び覚ましたのには、与って学者・研究者の力が大きい。アンデルセン童話「裸の王様」のように、首相の企みの明白な違憲性があっさりと引き剥がされ、インチキなものはインチキだと国民が言い合える闊達な空気が一気に醸し出された。
 6月4日、衆議院憲法審査会に参考人として招かれた3人の憲法学者、
   長谷部恭男・早稲田大学教授(与党推薦)
   小林節・慶應義塾大学名誉教授(民主推薦)
   笹田栄司・早稲田大学教授(維新推薦)
が、揃って「政府提案の安保法制は違憲」とする見解を披瀝したことが、一連の動きの口火を切った。

 (8)6月6日夜、与党はうろたえ、メディアも大きく取り上げ、騒然とする空気が巻き起こるなか、憲法学者・政治学者などによる「立憲デモクラシーの会」(樋口陽一・東大名誉教授&山口二郎・法大教授が共同代表)が東大・本郷構内でシンポジウム「立憲主義の危機」を開いた。1,400人が集まる盛況となった。
 6月15日、研究分野を横断する学者61人が代表の「安保関連法案に反対する学者の会」が、学士会館(東京・神保町)で反対声明を発表、賛同者が学者2,700人、市民1,800人にも達している模様を報告した。
 両者の合計人数は、19日現在、12,000人を超えた。発起人は、佐藤学・学習院大教授(教育学)、間宮陽介・青学大特任教授(経済学)、上野千鶴子・東大名誉教授(社会学)など。

 (9)この間、政界、法律家・文化関係者のあいだでも注目すべき動きが生じた。
 6月9日、日本記者クラブの河野洋平・元自民党総裁&村山富市・元首相の対談と記者会見は、「戦後70年談話」の検討を予定、早くに開催日が決まっていたが、この日が(7)のとおり3憲法学者の「違憲発言」後となったため、会場には300人超の取材陣が押しかけた。
 6月12日、日本記者クラブは次いで、山崎拓、亀井静香、武村正義、藤井裕久の4氏共同記者会見も開催した。いずれもかつては自民党の大幹部だった面々。
 以上6氏の、安倍政権の危うさをそれぞれ自分の言葉で語った話も、メディアを賑わせた。

 (10)法律家の動きとしては、日本弁護士連合会が、早くも5月14日、同日の安保関連法案閣議決定に対し、「日本の在り方、覆す」とする反対声明を明らかにしていた。
 政府が憲法学者の「違憲」論を覆そうと、「砂川事件」の最高裁判決を根拠に集団的自衛権行使の合憲性を強弁するに至るや、
 6月12日、「砂川事件」の元弁護団、司法記者クラブで会見、当該判決は日米安保・在日米軍基地を憲法判断の埒外に置いたものに過ぎず、集団的自衛権行使の合憲判断はしていない、と政府のウソを粉砕した。
 (8)で記したように「学者の会」が反対声明を発した6月15日、国会内で「安保体制打破 新劇人会議」が会見を行い、俳優座、民藝、青年劇場、前進座、東京芸術座、人形劇団プーク、劇団風の子の関係者が出席、「憲法9条を壊す『戦争立法』=平和安全法制整備法案・国際平和支援法案に反対します」の声明を発表。これに32劇団、演劇関係4団体が賛同(第一次集約分)、なお賛同者・団体が増加中と報告した。
 こうした共同での意思表示は「60年安保闘争以来」という。

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 【参考】
【メディア】と広がる安倍政権追撃の戦線(1) ~SNS上の痛烈な批判~
【古賀茂明】「反安倍」の起爆剤 ~若者たちの「反安倍」運動~

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【メディア】と広がる安倍政権追撃の戦線(1) ~SNS上の痛烈な批判~

2015年07月15日 | 批評・思想
 (1)元自衛官(航空ミサイル部隊)の泥憲和(姫路市在住)さんがFacebookに投稿している【注】。彼は、自分の経験に照らして、安倍政権の安保関連法案に批判的だが、「安倍ちゃんにツッコミ入れるJK」と題する3コマのコラージュが傑作だ。このJK(女子高生)は、教室のなか、隣で笑顔をみせる安倍首相に知らんぷり。自席に固まったまま。両人の口から出ている吹き出しに書かれたやりとりは、次のとおり。
  (a)最初のコマ
    安倍「戦争に行ってくれませんか?」
    JK「ポツダム宣言読んでから言えよ。カス」
  (b)つぎ
    安倍「戦争する国にはなりません」
    JK「アメリカに戦争させられる国になるんだろーが」
  (c)終わり
    安倍「集団的自衛権で日本はもっと安全になります」
    JK「お前 原発でも同じことを言ってただろ!」
 ちょっとお行儀の悪いJKだが、彼女の言うことのほうがよほどまともだ。

 (2)磯崎陽輔・国家安全保障担当・総理補佐官と10代の女性「ほなみ」とのツイッター上での応酬も見もの。どう見ても、磯崎補佐官がヘコまされたかっこうだ。
   磯崎「集団的自衛権とは、隣の家で出火して、・・・・初期消火に努めている中、『うちではまだ延焼していないので、後ろから応援します。』と言って消火活動に加わらないで、我が家を本当に守れるのかという課題なのです」
   ほなみ「バカをさらけ出して恥ずかしくないんですか。分かりやすく解説じゃなくて都合よく解説お疲れさまです。・・・・集団的自衛権と個別自衛権の違いを勉強してください」
   磯崎「・・・・『バカ』とまでおっしゃってくれていますので、是非あなたの高邁な理論を教えてください。・・・・結論だけ『バカ』と言うのは、『××』ですよ」
   ほなみ「まず例えが下手。戦争と火事は別ものだし笑」「火事を戦争と同等にして例えるのがまずおかしい。わかる? 火事には攻撃してくる敵がいない。戦争は殺し合い。・・・・危険なのわかるよね? それが分からないなら本当に脳みそ腐ってんじゃない?」
   磯崎「『例え話』というのが分からないのですか?」「もう少し上品な言葉を使いましょうね」
   ほなみ「やばい。・・・・中学生でも論破できるレベルの政治家」
   磯崎(ほなみをブロック)

 (3)18歳以上の(2)のような若者が選挙権、国民投票権を手にすれば、日本の政治は大きく変わる。来年7月の参院選では、新しい若い有権者が頑張ってくれるだろう。

 【注】「泥憲和(Facebook)

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【古賀茂明】「反安倍」の起爆剤 ~若者たちの「反安倍」運動~

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【古賀茂明】「反安倍」の起爆剤 ~若者たちの「反安倍」運動~

2015年07月15日 | 社会
 (1)衆議院における安保法案の採決が秒読み段階に入った。採決の日程に関して、与野党の対立が激しさを増している。7月13日、与党側は15日に委員会で採決する方針を固めた。これに対し、民主党などは、15日の採決には応じられないと強く反発し、民主党と共産党は14日の委員会には欠席した。(7月14日現在)。【注1】

 (2)日程とともに与党が必死になっているのは、採決への野党の出席確保だ。反対してもよいから席に着いてくれ、というのだ。
 その理由は何か。
 来年選挙を控えた参議院議員は、世論の動向に敏感だ。与党議員でさえ風向きを読んで、来年の選挙のためには反対に回ったほうが得策だ、という誘惑に駆られても不思議ではない。
 そこで、安倍政権としては、「強行」採決の色彩を少しでも弱めるために、採決への野党の「出席」を重視しているのだ。

 (3)最近、安倍政権に不都合な事象が次々に現れている。
  (a)毎日新聞の調査で、内閣発足以来初めて内閣不支持が支持を上回った。支持率低下が顕著なのだ。安保法案の今国会成立に対する反対もどんどん増加し、反対が7~8割に昇っている。
  (b)自民党議員の報道弾圧が、支持率低下に拍車をかけた。
  (c)世論の変化を察知した週刊誌も、記事のトーンを安倍批判へと転換し始めた。
  (d)最大の変化は、若者の間に反自民の風潮が急速に高まっていることだ。安部総理は、ネトウヨ(ネット右翼)に支えられ、若者に人気があると思い込んでいたからこそ、選挙権年齢を18歳に引き下げた。が、これが裏目に出かねない情勢だ。

 (4)(3)-(d)は、とりわけ学生の団体「SEALDs」の運動が注目される。【注2】
 SEALDsは、特定の政治思想を持つ団体ではない。ごく普通のまじめな学生たちだ。特定秘密保護法をきっかけに、日本の将来の危機から、自分たちが最も影響を受けるのだ、という皮膚感覚で若者たちに訴えている。
 ソーシャルネットワーク(ツイッターやフェイスブックなど)を駆使して急速に拡大を続けている。
 その運動のスタイルはおしゃれで、プラカードもキャンペーンに使う言葉も、既成の反政府運動とはまったく異なる。反安倍をファッションにまで昇華させている。今や、「自民感じ悪いよね」という言葉がツイッター上で爆発的に拡大しているほどだ。
 見逃せないのは、純粋な若者の運動に大人たちが自然に合流を始めていることだ。(大人の運動は、各団体の主導権争いもあって、大同団結できない。)
 ハチ公前では、広場を埋め尽くす群衆の前で、何と、共産党と維新の議員が握手するシーンまで出現した。
 毎週金曜日には、土砂降りの雨でも国会前に3,000人が集まる。

 (5)1960年安保では、国会を30万人のデモ隊が包囲し、ついには岸政権が倒れた。
 今回は、おそらく、数万人規模でも、選挙を控えた政党や議員の心は揺れるだろう。
 危機感を強めた安部総理は、テレビに出たい、と言い出した。まずは自民党の番組に出演し、YouTubeでもネット放送されたが、反響は今までと違って芳しくなかった。【注3】
 SEALDsのような若者たちの運動が、日本の危機を回避する最後の切り札になるのではないか。

 【注1】記事「安保関連法案 採決前日に、身内の石破大臣から「待った」」(フジテレビ系(FNN) 2015年7月14日18時23分配信)
 【注2】志葉玲(フリージャーナリスト)「安倍政権を揺るがす!?学生団体SEALDsが今週3日間連続で安保法制強行採決反対の国会前抗議」(YAHOOニュース 2015年7月14日)
 【注3】記事「たとえ話で伝わる? 安保法案、首相がネット番組で説明」(朝日新聞デジタル 2015年7月12日)

□古賀茂明「「反安倍」の起爆剤 ~官々愕々第163回~」(「週刊現代」2015年7月25日・8月1日合併号)
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 【参考】
【古賀茂明】維新の党の深謀遠慮 ~風が吹けば橋下市長が儲かる~
【古賀茂明】腐った農政 ~画餅に帰しつつある「日本再興」~
【古賀茂明】読売新聞の大チョンボ ~違法訪問勧誘~
【古賀茂明】「信念」を問われる政治家 ~違憲な安保法制~
【古賀茂明】機能不全の3点セット ~戦争法案を止めるには~
【古賀茂明】維新が復活する日
【古賀茂明】戦争法案審議の傲慢と欺瞞 ~官僚のレトリック~
【古賀茂明】「再エネ」産業が終わる日 ~電源構成の政府案~
【古賀茂明】「増税先送り」「賃金増」のまやかし ~報道をどうチェックするか~
【古賀茂明】週末や平日夜間に開催 ~地方議会の改革~
【古賀茂明】原発再稼働も上からの目線で「粛々と」 ~菅官房長官~
【古賀茂明】テレビコメンテーターの種類 ~テレ朝問題(7)~
【報道】古賀氏ら降板の裏に新事実 ~テレ朝問題(6)~
【古賀茂明】役立たずの「情報監視審査会」 ~国民は知らぬがホトケ~
【報道】ジャーナリズムの役目と現状 ~テレ朝問題(5)~
【古賀茂明】氏を視聴者の7割が支持 ~テレ朝問題(4)~
【古賀茂明】氏、何があったかを全部話す ~テレ朝「報ステ」問題(3)~
【古賀茂明】氏に係る官邸の圧力 ~テレ朝「報道ステーション」(2)~
【古賀茂明】氏に対するバッシング ~テレ朝「報道ステーション」問題~
【古賀茂明】これが「美しい国」なのか ~安倍政権がめざすカジノ大国~
【古賀茂明】原発廃炉と新増設とはセット ~「重要なベースロード電源」論~
【古賀茂明】改革逆行国会 ~安倍政権の官僚優遇~
【古賀茂明】安部総理の「大嘘」の大罪 ~汚染水~
【古賀茂明】「政治とカネ」を監視するシステム ~マイナンバーの使い方~
【古賀茂明】南アとアパルトヘイト ~曽野綾子と産経新聞~
【古賀茂明】報道自粛に抗する声明
【古賀茂明】「戦争実現国会」への動き
【古賀茂明】日本人を見捨てた安倍首相 ~二つのウソ~
【古賀茂明】盗人猛々しい安倍政権とテレビ局
【古賀茂明】安倍政権が露骨な沖縄バッシングを行っている
【古賀茂明】官僚の暴走 ~経産省と防衛省~
【古賀茂明】安倍政権が、官僚主導によって再び動き出す
【古賀茂明】自民党の圧力文書 ~表現の自由を侵害~
【古賀茂明】自民党が犯した最大の罪 ~自民党若手政治家による自己批判~
【古賀茂明】解散と安倍政権の暴走 ~傾向と対策~
【古賀茂明】解散と安倍政権の暴走
【古賀茂明】文書通信交通滞在費と維新の法案
【古賀茂明】宮沢経産相は「官僚の守護神」 ~原発再稼働~
【古賀茂明】再生エネルギー買い取り停止の裏で
【古賀茂明】女性活用に本気でない安部政権
【古賀茂明】【原発】中間貯蔵施設で官僚焼け太り
【古賀茂明】御嶽山で多数の死者が出た背景 ~政治家の都合、官僚と学者の利権~
【古賀茂明】従順な小渕大臣と暴走する官僚 ~原発再稼働~
【古賀茂明】イスラム国との戦争 ~集団的自衛権~
【古賀茂明】「地方創生」は地方衰退への近道 ~虚構のアベノミクス~
【古賀茂明】【原発】原子力ムラの最終兵器
【古賀茂明】【原発】凍らない凍土壁に税金を投入し続けたわけ
【古賀茂明】【原発】勝俣恒久・元東電会長らの起訴 ~検察審査会~
【古賀茂明】安倍政権の武器輸出 ~時代遅れの「正義の味方」~
【古賀茂明】またも折れそうな第三の矢 ~医薬品ネット販売解禁の大嘘~
【古賀茂明】「1年後の夏」に向けた布石 ~集団的自衛権~
【古賀茂明】法人減税で浮き彫りにされる本当の支配者 ~官僚と経団連~
【古賀茂明】都議会「暴言問題」の真実 ~記者クラブによる隠蔽~
古賀茂明】集団的自衛権とワールドカップ
【古賀茂明】野党再編のカギは「戦争」
【古賀茂明】電力会社の歪んだ「競争」 ~税金をもらって商売~
【原発】【古賀茂明】規制委員会人事とメディアの責任
【古賀茂明】医師と官僚の癒着の構造
【古賀茂明】電力会社「値上げ救済」の愚 ~経営難は自業自得~
【古賀茂明】竹富町「教科書問題」の本質 ~原発推進教科書~
【古賀茂明】安部総理の「11本の矢」 ~戦争国家への道~
【古賀茂明】理研は利権 ~文科官僚~
【古賀茂明】「武器・原発・外国人」が成長戦略 ~アベノミクスの今~
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【古賀茂明】東電を絶対に潰さずに銀行を守る ~新再建計画~
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【古賀茂明】「建設バブル」の本当の問題 ~公共事業中毒の悪循環経済~  
【古賀茂明】安倍政権の戦争準備 ~恐怖の3点セット~
【原発】【古賀茂明】利権構造が完全復活 ~東日本大震災3年~
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【古賀茂明】労働者派遣法改正前にすべきこと
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