(1)2015年6月30日、ギリシャはIMFへの返済ができず、事実上の債務不履行に陥った。
7月5日、緊縮策(EUからの要望)の賛否を問う国民投票が実施された。
ここまで財政赤字が膨れ上がった原因は、高すぎる年金、公務員優遇だ・・・・などと報道されているが、もう一つの重要な要因には、なぜか報道されていないし、日本人には余り知られていない。
債務の半分以上を占めるのは防衛予算だ、という事実だ。
(2)NATO同盟国28ヶ国の中で、予算に占める軍事支出比率は、
1位 米国
2位 ギリシャ
なのだ。金融危機から5年経った2015年においても、前年(財政赤字がGDPの175%だった)よりも軍事費を1%増やし、EU最大規模(GDP比2.4%)を維持し続けている。
(3)(2)の問題について、サノス・ドコス欧州外交政策財団所長はガーディアン紙のインタビューで次のように答えている。
「1,300両(イギリスの2倍以上の数)の戦車がほんとうに必要なのかどうかは議論が分かれるところだろう。だが、トルコの軍事的脅威に対してバランスをとるためにはやむを得ない措置なのだ」
(4)トルコの脅威? 本当にそれだけなのか?
奇妙なことに、危機に陥ってからこの方、IMF、EU、欧州中央銀行から提示された緊縮財政メニューの中に、軍事費削減は載っていない。
ギリシャへの財政支援条件として最も強く緊縮財政を要求していたドイツ(最大債権国)も、ギリシャに軍事費を半減させ、ドイツと同じGDP1%台に抑えることでIMFへの当座の支払いをさせる、という現実的な要求は決してやってない。
代わりにメルケル首相は、救済金の大半を国内経済の立て直しではなく、軍事支出に振り分けるようギリシャ政府に圧力をかけている。
メルケル首相には、そうするだけの理由があったのだ。ドイツは武器輸入大国ギリシャから、米国に次いで最も恩恵を受けている国の一つだからだ。
ちなみに、ギリシャへの武器輸出国ベスト・スリーは、そして2010年から2014年までの5年間にギリシャ政府が購入した武器の価格は、
1位 米国
2位 ドイツ・・・・5億5,100万ドル分
3位 フランス・・・・1億3,600万ドル分
(5)2012年に金融支援の条件としてギリシャ政府が課せられた
・20%もの最低賃金引き下げ
・公務員の給与凍結
はいったい何のためだったのか?
IMFに言われるがままに、
・障害者の自己負担を高騰させ
・医師数を大幅に減らし、
・病院を閉鎖させ、
国家にとって最大の財産であるはずの国民を公衆衛生上の危機に陥れた対価は、さらなる財政赤字となってギリシャ政府にのしかかった。
(6)次々に暴露される腐敗劇に、ギリシャ国民の怒りは爆発寸前だ。
・2010年、メルケル首相&サルコジ大統領が、借入金が入る前に武器輸入契約の維持をギリシャ政府に約束させた。
・2013年、ドイツの防衛産業からの収賄が暴露され、ギリシャの元防衛大臣ほか政府高官らが逮捕された。
(7)ギリシャでは、100万人の失業者、ホームレス人口の急増、若者の2人に1人が職を失い、20万人もの国民が国外へ逃げ、貧困層の間では感染症が拡大している。
欧米の商業マスコミは公務員天国の自堕落なギリシャ像を描くが、彼らと縁のないところで、笑いのとまらない勝ち組が笑っているのだ。
□堤未果「緊縮財政のギリシャで軍事予算だけは削られない理由 ~ジャーナリストの目 第260回~」(「週刊現代」2015年7月25日・8月1日合併号)
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