(1)画期的な捜査、前代未聞の逮捕・・・・という声もあがっている。
6月16日、福岡県警が野村悟(68)・「工藤会」(特定危険指定暴力団)総裁を脱税容疑で逮捕した。下部団体による組の上納金に着目し、4年分の上納金およそ10億円のうち、2億2,700万円を野村個人の所得隠しとして摘発したのだ。【注1】
(2)暴力団組織において、親分や上部団体への上納金は、周知のとおりだ。
<例>山口組(日本最大の暴力団組織)・・・・直系の「直参」2次団体は、100万円前後の「会費」を本部に払わねばならない。
工藤会も、傘下団体をいくつも抱え、上納金は年に2億4,000万円。新聞報道によれば、個々の組員が所属する下部団体の組織に上納し、そこから吸い上げるシステムになっている。
<「組員は3ランクに分かれている。Aランクは1人20万円、Bランクは15万円、Cランクは5万円。この組の場合は、Aが1人、Bが2人、Cが12人だから集金額は月110万円」。工藤会系の下部団体に対する捜査に携わった経験のある福岡県警幹部は解説する。>【注2】
(3)暴力団担当の刑事は、常に資金源を追いかけている。
<例>2005年に山口組直参組織を固く捜索(ガサ入れ)した際、次のような収穫があった。ガサは何回かに分けて行ったが、1回目に金庫に3千数百万円を見つけて押収、2回目(3日後)にも金庫に3千数百万円を見付けて押収した【大阪府警の元捜査員】。
首相官邸にある監房機密費みたいなものか。大物ヤクザの自宅や事務所には、急な物入りに備え、常に一定の現金が眠っているらしい。捜査当局は、そこを狙い、組織の資金の流れを解明しようとしてきた。
(4)仮にこうして現金を発見して押収しても、それ自体を罪に問うことはできなかった。なぜなら、暴力団組織そのものが法人格のない任意団体だからだ。
暴力団関係者が絡んだ脱税の摘発は、皆無ではないが、捜査対象はフロント企業など法人に限った話だった。
もとより実態は、子分が親分に上納しているのだが、当人が組のカネだと言えばそれまでで、個人所得と立証するのは至難の業だ。実際、町内会の会費と同じく会長が勝手に使えるものではない、とシラを切られたら、それ以上追求できなかった。
過去、暴力団の上納金システムを脱税として摘発したケースが皆無かごく稀れなのは、上納金を組長の個人所得として認定、立証するのが非常に困難だからだ。
(5)このたびの工藤会に対する捜査は、(4)の壁をぶち破った。
そこまで踏み切ったのは、警察当局の熱意の裏返しかもしれない。が、半面、危うさも見え隠れする。
福岡県警は、側近の金庫番のメモから、野村「工藤会」総裁の個人所得だ、と認定した。そのメモに、高級車の購入や遊興費に使ったことを示す記載があるらしい。
上納金の脱税事件が成立すれば、暴力団が壊滅的な痛手を被るのは間違いない。
しかし、メモや状況証拠だけで、個人のカネと立証できるか。やはり、公判は揉めそうだ。
【注1】指定暴力団工藤会(本部・北九州市)の「上納金」などをめぐる脱税事件で、福岡県警は7月9日、工藤会総裁でトップの野村悟容疑者(68)=殺人罪などで起訴=ら2人を所得税法違反容疑で再逮捕し、同市小倉南区八幡町の無職山中千代子容疑者(60)を同容疑で新たに逮捕し、発表した。すでに起訴された分を含め、野村容疑者が申告しなかった所得は2010年からの5年間で約8億1千万円にのぼり、県警は約3億2千万円を脱税したとみている。野村容疑者の逮捕は昨秋以降、6回目。【記事「工藤会トップ再逮捕 「上納金」7100万円脱税容疑」(朝日新聞デジタル 2015年7月9日)】
【注2】記事「工藤会脱税容疑事件:上納金にランク…年2億4000万円」(毎日新聞 2015年6月23日)
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□森功「上納金は「所得」か? 工藤会・脱税容疑逮捕で暴力団の資金が枯渇する ~ジャーナリストの目 第257回~」(「週刊現代」2015年7月4日号)
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6月16日、福岡県警が野村悟(68)・「工藤会」(特定危険指定暴力団)総裁を脱税容疑で逮捕した。下部団体による組の上納金に着目し、4年分の上納金およそ10億円のうち、2億2,700万円を野村個人の所得隠しとして摘発したのだ。【注1】
(2)暴力団組織において、親分や上部団体への上納金は、周知のとおりだ。
<例>山口組(日本最大の暴力団組織)・・・・直系の「直参」2次団体は、100万円前後の「会費」を本部に払わねばならない。
工藤会も、傘下団体をいくつも抱え、上納金は年に2億4,000万円。新聞報道によれば、個々の組員が所属する下部団体の組織に上納し、そこから吸い上げるシステムになっている。
<「組員は3ランクに分かれている。Aランクは1人20万円、Bランクは15万円、Cランクは5万円。この組の場合は、Aが1人、Bが2人、Cが12人だから集金額は月110万円」。工藤会系の下部団体に対する捜査に携わった経験のある福岡県警幹部は解説する。>【注2】
(3)暴力団担当の刑事は、常に資金源を追いかけている。
<例>2005年に山口組直参組織を固く捜索(ガサ入れ)した際、次のような収穫があった。ガサは何回かに分けて行ったが、1回目に金庫に3千数百万円を見つけて押収、2回目(3日後)にも金庫に3千数百万円を見付けて押収した【大阪府警の元捜査員】。
首相官邸にある監房機密費みたいなものか。大物ヤクザの自宅や事務所には、急な物入りに備え、常に一定の現金が眠っているらしい。捜査当局は、そこを狙い、組織の資金の流れを解明しようとしてきた。
(4)仮にこうして現金を発見して押収しても、それ自体を罪に問うことはできなかった。なぜなら、暴力団組織そのものが法人格のない任意団体だからだ。
暴力団関係者が絡んだ脱税の摘発は、皆無ではないが、捜査対象はフロント企業など法人に限った話だった。
もとより実態は、子分が親分に上納しているのだが、当人が組のカネだと言えばそれまでで、個人所得と立証するのは至難の業だ。実際、町内会の会費と同じく会長が勝手に使えるものではない、とシラを切られたら、それ以上追求できなかった。
過去、暴力団の上納金システムを脱税として摘発したケースが皆無かごく稀れなのは、上納金を組長の個人所得として認定、立証するのが非常に困難だからだ。
(5)このたびの工藤会に対する捜査は、(4)の壁をぶち破った。
そこまで踏み切ったのは、警察当局の熱意の裏返しかもしれない。が、半面、危うさも見え隠れする。
福岡県警は、側近の金庫番のメモから、野村「工藤会」総裁の個人所得だ、と認定した。そのメモに、高級車の購入や遊興費に使ったことを示す記載があるらしい。
上納金の脱税事件が成立すれば、暴力団が壊滅的な痛手を被るのは間違いない。
しかし、メモや状況証拠だけで、個人のカネと立証できるか。やはり、公判は揉めそうだ。
【注1】指定暴力団工藤会(本部・北九州市)の「上納金」などをめぐる脱税事件で、福岡県警は7月9日、工藤会総裁でトップの野村悟容疑者(68)=殺人罪などで起訴=ら2人を所得税法違反容疑で再逮捕し、同市小倉南区八幡町の無職山中千代子容疑者(60)を同容疑で新たに逮捕し、発表した。すでに起訴された分を含め、野村容疑者が申告しなかった所得は2010年からの5年間で約8億1千万円にのぼり、県警は約3億2千万円を脱税したとみている。野村容疑者の逮捕は昨秋以降、6回目。【記事「工藤会トップ再逮捕 「上納金」7100万円脱税容疑」(朝日新聞デジタル 2015年7月9日)】
【注2】記事「工藤会脱税容疑事件:上納金にランク…年2億4000万円」(毎日新聞 2015年6月23日)
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□森功「上納金は「所得」か? 工藤会・脱税容疑逮捕で暴力団の資金が枯渇する ~ジャーナリストの目 第257回~」(「週刊現代」2015年7月4日号)
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