語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【鶴見俊輔】を悼む

2015年07月25日 | 批評・思想
 1922(大正11)年6月25日生、2015(平成27)年7月20日没。93歳。
 初めてその顔を拝見したのは、ウィルフレッド・バーチェット【注1】が京都で講演したときのことだ。鶴見俊輔が通訳し、松田道雄が解説した。
 ベ平連が元気なころだった。私は参加していないが、大学のサークル仲間にベ平連の活動に熱心な男がいた。闘士というより、心やさしく、他人の痛みがわかる男だった。
 上野千鶴子は、24日付け朝日紙に寄せた追悼文「どこにも拠らず考えぬいた」で、<鶴見さんは、このひとが同時代に生きていてくれてよかった、と心から思えるひとのひとりだった>【注2】と書いている。まったく同感である。

《鶴見俊輔語録》 
 「憲法改正に関する国民投票を恐れてはいけない。その機会が訪れたら進んでとらえるのがいいんじゃないかな」「護憲派が六対四で負けるかもしれない。(中略)負けても四あることは力になる。そんなに簡単に踏みつぶせませんよ」(97年、憲法施行50年の朝日新聞インタビューで)

 「団結には恐ろしさがあるんです。『正義になる団結はいいじゃないか』というけど、そうじゃない。正義の団結がまた恐ろしいんです。正義の団結が十字軍もつくった、大東亜戦争までいくんですからね」(04年、「歴史の話」)

 「いい人ほど友達として頼りにならない。いい人は世の中と一緒にぐらぐらと動いていく。でも、悪党は頼りになる、敵としても味方としてもね」(11年、「日本人は何を捨ててきたのか」) 

 【注1】オーストラリア生まれのジャーナリスト。中野好夫訳『十七度線の北―ヴェトナムの戦争と平和』上・下巻(岩波新書、1957年)ほか。
 【注2】上野千鶴子「リベラル、鶴見俊輔氏のための言葉 上野千鶴子氏追悼文」(朝日デジタル 2015年7月24日)


□記事「戦争体験、反戦の力に 多才な行動派 鶴見俊輔さん死去」(朝日デジタル 2015年7月24日)
□天声人語「鶴見俊輔さん逝く」(朝日デジタル 2015年7月25日)
□社説「鶴見さん逝く 個々の行動に宿る理念」(朝日デジタル 2015年7月25日)

 *

《いい人》
 そう、いい人がいけない。悪人性がないでしょう。だから、真面目な人、いい人は困るなぁ。「正義の人ははた迷惑だ」。
 いい人ほど友達として頼りにならない。いい人は世の中と一緒にぐらぐらと動いていく。でも、悪党は頼りになる、敵としても味方としてもね。悪党はある種の法則性を持っているんだ。これこれのことをやれば、これこれのことが出てくるというね。
 ですから、なるべく、わたしは何か事を起こすときに、悪人性が少しある人を仲間にしたい。完全な善人は困るよ。
 (「日本人は何を捨ててきたのか」2011年) 

□『鶴見俊輔語録(1) 定義集-警句・箴言・定義-』(皓星社、2011)
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 【参考】
【読書余滴】鶴見俊輔の書評術

    

【詩歌】岩田宏「むすめに」

2015年07月25日 | 詩歌
 ことばは手に変れ
 とても男らしい手に
 すこし汗ばみ すこし荒れた
 実用的な手に なぜなら
 ぼくはことばを
 突き出さなければならない
 自殺を決心したむすめ
 あなたに なぜなら
 それがぼくの権利
 あなたの義務は
 思いつめ 思いつめること
 まるで追いつ追われつ
 走るように なぜなら
 夜は戦争よりも長いんだ
 政府もあなたも徹底的に一人で
 朝ほど痛い時間はほかに絶対ないんだ
 そのことを百回あるいは
 千回思って絶望しなさい
 あなたは睡眠薬を二百錠飲むつもりだが
 薬より口あたりのわるいことばを
 あなたの穴という穴に詰めこむのが
 ぼくのほんとうの望みなんだ
 サディストどもが
 拍手している ぼくは
 あなたにあげる

□岩田宏「むすめに」(『いやな唄』(ユリイカ、1959)所収)
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 【参考】
【詩歌】岩田宏「感情的な唄」
【詩歌】岩田宏「頭脳の戦争」 ~頭のなかの甲乙丙~
【詩歌】岩田宏「部屋」 ~おふくろ~
【詩歌】岩田宏「ささやかな訪問」
【読書余滴】すべてをルフランに変える青春の無知